モグラの生態

2008年3月第4週

今週の野菜セット

左から

もう新芽がふくらみはじめているのでしょうか、山の稜線がやわらかく感じられるようになってきました。近くで見ると、枯れ木の枝先がまるで微熱でも発するように、いくらか赤みを帯びていますから、芽吹きも間近です。

ひと雨ごとに春が近づいてくる感じですが、まだまだ油断はできません。汗ばむような陽気になったかと思うと、寒のもどりがあったりして、花粉症でなくても鼻をぐずぐずいわせている人が多いようです。朝夕は冷えこみますからね、日中の陽気につられて軽装のままでいるとクシャミを連発。冷えるからと、つい真冬なみにストーブを焚くと、今度はあたたかすぎて逆効果になることも。

昔から春風邪は治りにくいといわれているのも、季節柄、体温調整がむずかしくなるからかもしれません。あたたかくなって、ほっと気がゆるむのも一因だと思いますが、要注意。こんなエネルギッシュな光の季節に、風邪なんかひいてられませんものね。

寒さがゆるんでくると土中の動きも活発になるようで、林の中にはあちらこちらに土饅頭。別名・モグラ饅頭ともいい、モグラが巣穴を増設したり、トンネル工事をするときに出た土が、大きめのどんぶりを伏せたような山になっているのです。

モグラも繁殖時期になり、お嫁さんを迎える新居なのか、子供部屋の増設なのかわかりませんけど、とにかく盛んに土饅頭を出現させ、きのうまでなにもなかったところも工事中。林の中だけならともかく、畑の中にもこれが出現するから困ったもので、モグラのトンネルに根が突き当たると、植物は栄養が吸い上げられず、みんな枯れてしまうのです。

モグラはミミズを主食にしていますから、ミミズの豊富な畑の中はまさに理想的な環境といえるわけです。農薬まみれの畑にはミミズもいませんから心配ないのですが、有機農家はペットボトルで作った風車などを地面に立て、それが土中に伝える振動でモグラに引っ越しをしてもらう。そんな消極的な方法しか取れず、それもまた時間がたつにつれて効果がなくなってくるといいます。

わたしも頭は痛いけど、とくに対策は取らず、放ったらかしています。畑中モグラだらけになるかというとそうでもなく、土饅頭が目立ちはじめると、トンビがしきりに上空を旋回するようになるからです。トンビの目はよくできていて、土の山が少しでも動けば、そこにモグラがいるのを察知できます。そして急降下してゲット。それがあるので、放ったらカシにしているわりには、土中のモグラは増えていないようです。

昔はモグラのトンネルを見つけると、意地わるく水を流しこんだりしたものですが、一度テレビでモグラの生態などというものを見て以来、それができなくなってしまったのです。それぐらい地下の住居というのがよくできているんですね。寝室と食堂は別になっているし、清潔好きとみえてトイレもある。その上、水を確保するために井戸まで掘っているんです。そんなものを壊したら、これは文化の侵害。アリの帝国同様、うかつに手が出せなくなりました。

一切手出しをしなくなったら、トンビが増えてきた。トンビがモグラを捕獲するのは、トンビの食の文化ですから、こちらがどうこういうことではありません。そんなわけで、うまい具合にバランスが取れてきたというわけです。モグラが一匹もいない畑というのも、なんか殺風景ですしね。

猫もたまにモグラを取ってきます。ただし、食用にはならないらしく、たいてい玄関付近に転がっているのですが、これがまたぬいぐるみのように愛らしい。ネズミもかわいい顔をしていますが、そのネズミの尻尾を短くして、前足にプラスチックかゴムの手をつけたよう。これで土を掘りかえしているのかと思うと、かわいそうになるほどいたいけな手なのです。

が、そのモグラにもダークな一面がありまして、わたしはつい最近、それに遭遇してしまいました。秋から冬にかけて、路上に横たわっているタヌキを計二匹、持ち帰って裏庭に埋葬。タヌキというのは、猫に次いで交通事故に遭いやすい生きものらしく、おなじ山の住人でもキツネが轢かれている姿は見かけませんからね。それだけ人里に近いところにいるんでしょう。

ともあれお彼岸も近いので、そのタヌキを埋めたあたりの草むしりをしていたら、おなじみのトンネルが出現。妙に思って掘り進んでみると、それが墓穴に直結していたのです。それもひとつではでなく、あちこちから、まるでパリの凱旋門の地下通路版。ま、モグラは肉食なのですから、屍肉に群がったところで不思議はないのですが、これにはぎょっとさせられました。

もしやと思って、猫のお墓あたりもさぐってみたら、やはり古い通路が残っています。モグラをなぶり殺しにしていた猫が、死んだら今度はそのモグラに食われていたというわけで、因果応報というより、なんかホラー映画でも見せられたような気分です。

このあたりでも、さすがにもう土葬の習慣はなくなりましたが、昔の墓場には網のごとくモグラの通路が張りめぐらされていたんでしょう。そう思ったら、ちょっと寒くなってきました。

今週の野菜とレシピ

四国の新玉葱がそろそろ出てくる時期ですが、今年は収穫が遅れているそうです。その穴埋めに、今週はかんぴょうが入りました。

栃木県はかんぴょうの産地なので、ふだんの食卓にも登場しますが、一般的にはお寿司ぐらいにしか扱われていないようです。でも、これだって立派な野菜。しかも栄養満点で、食物繊維はほうれん草の3倍、カルシウムは牛乳の2倍、カリウムにいたってはバナナの5倍もあるんです。しかも低カロリー。

かんぴょうは軽く塩もみしてからぬるま湯に浸けると、20~30分でやわらかくなります。それを食べやすい大きさに切って、このあたりでよく作られるのが味噌仕立ての卵とじ。味噌汁に入れて卵でとじるのです。これは意外においしいですよ。

豚肉とかんぴょうを炒め、一味唐辛子と塩、オイスターソース少々でしっかり味をつけたところへニラを加えます。そこにキムチを入れると若い人向け。名前は忘れましたが、韓国にそういう料理があるんです。向こうにはズッキーニに似たかぼちゃがあって、それを薄切りにして干しておき、冬の料理に使いますが、食感はすこしちがうけど発想はおなじなんですね。日本のかんぴょうが伝統食となってしまい、ふだんあまり使われなくなっているという点だけが、あちらとはちがうようです。

かぶは先週よりだいぶ大きくなっているはずです。ちぢみほうれん草、見かけはぱっとしませんが、味はふつうのほうれん草より濃厚です。おひたしでどうぞ。