夏野菜の終焉

2008年9月第2週

今週の野菜セット

左から

赤とんぼが舞いはじめました。庭先では、ツクツクボーシとコオロギの羽音が混じりあって、夏とも秋ともいえないような気候を反映しているかのよう。

空模様も、ああ、すっかり秋の空だなあ、と思った翌日には入道雲がもくもくと立ちあがったりしますから、秋と夏がせめぎ合う、そんな時期なのでしょう。夏の疲れも手伝って、風邪をひきやすいのもこんなとき。昼間の残暑と、夜風の冷たさに、身体が対応しきれないのかもしれません。

早いところでは、もう稲刈りがはじまっています。庭先の枝に挿したパンが目当てのスズメたち。それが最近、ぴたりと姿を見せなくなりましたから、わたしたちよりひと足はやく、どこかで新米を啄んでいるんでしょうね。

わたしたちの口に入る新米はまだまだ。お彼岸を過ぎないと収穫できませんが、先日の大雨続きで、稲が倒れている田圃がけっこうあって、倒れたところにまた雨が降ると発芽して、米がスカスカになってしまいます。それで収穫を急いでいるところが多いみたいです。

コシヒカリというのは食味はいいのですが、茎が弱く、倒れやすいという難点があります。それを倒れにくくするのが農家の腕で、田圃に入れる元肥を少なめにして栄養生長を抑える。つまり茎をできるだけ伸びないようにするのです。そして生殖生長期、つまり花をつけ受粉するころになると、追肥して成熟を助けるのですが、これは茄子やトマト、きゅうり、ピーマンすべての果菜に共通することで、農家は意外にも、トマトでも茄子でもできるだけひょろひょろとした、一見弱々しい茎を作ることに専心するのです。

がっしりとした太い茎のほうが、次々と実をつけるのに適していると思われがちですが、そういう野菜は本体ばかりが大きくなって、実のほうに栄養がまわりにくくなってしまうのです。ちょっと不思議な感じもしますが、よく考えてみたら動物だってそう。動物園で太りすぎになったライオンやトラにダイエットさせたら、出産率が増え、食費は浮く、客は増えるといいことづくめだったといいますから、人間界に不妊が増えているのも、原因はそれだったのかもしれませんね。

ともあれ、益子GEFの新米が登場するのは今月下旬。今すこしお待ちください。

この夏は局所的な豪雨で、ゲリラ豪雨という名称ができてしまったぐらいですが、台風の発生がないため、例年になく穏やかな秋になりそうです。

山の斜面いっぱいに萩の花が咲き、それが道路わきに雪崩落ち、わが家の裏庭でも、白萩が咲きはじめました。畑のまわりのコスモスも、夏の間に逞しくなって、今や野菜を圧倒せんばかりの勢いです。終焉を迎えたズッキーニの、虫食いだらけになった葉と対照的。野菜も生産力が落ちてくると虫がつき、さんざんに食い荒らされるか、うどん粉病で白くなって枯れてしまうか、そのどちらかで、それが後始末の労力を軽減してくれるのですから、うまくできているものです。

もしもズッキーニの株が生き生きしたまま、実をつけるのを止めてしまったら、それをかたづける際の重量たるや、半端なものではありませんからね。葉の表面のトゲトゲや茎のギザギザも、みんな虫が処分して、扱いやすくしてくれるのですから、ほんとうにありがたい。

野菜を作る際の苦労話は聞くことがあっても、後かたづけのほうは作るよりも重労働なのに、あまり話題に上ることはありません。ここで有機農家がどれだけ虫や病気に助けらているか、虫や病気の存在は不名誉と考えられているせいか、ますます耳にする機会がないのですが、これは案外たいせつなことかもしれません。

一般に考えられている有機農法というのは、いかにして薬剤に頼ることなく、虫や病気を遠ざけておくか、その一点張りで、虫や病気を利用するなんて埒外でしたからね。でも、ふつうに野菜が元気であれば、虫や病気のつけ入る隙はないもので、さんざん実をつけ、疲れはてたところでそれらの餌食となって消滅する。これが野菜のほんとうの姿というか、あるべき姿で、ここが工業製品とはちがうところです。

また、愛情こめて野菜を育てる、なんて気持ちのわるいコメントを耳にすることもありますが、これは勘ちがいもいいところで、愛情をもって接してくれているのは、じつは植物のほうなのです。作り手は土を耕してベッドを作り、世話をしながら多大な恩恵に浴しているわけで、愛情などこめられたら、逆に野菜がヘソを曲げてしまいかねない。わたしたちが忘れてはならないのは、敬意のほうだと思います。

この夏いっぱい、がんばってくれた野菜たちに感謝。わが家のズッキーニもきれいに枯れたら、それを燃やして灰にします。お香に匹敵する煙で虫を追いながら、さらに養分となって土に帰ってゆくのですから、野菜の理想像などというより、わたしたちのほうがお手本にしたい生き方であり、死に方です。畏敬の念をいだくこと。これが野菜作りの基本なのかもしれませんね。

今週の野菜とレシピ

今週末は十五夜。それに合わせて里芋を掘ってもらう予定でしたが、あまりに生育がわるいので、今回は断念しました。収穫まで後半月はかかるといいますが、来月の芋名月(十三夜)には、たっぷりお届けできるはずです。

代わりに、今週は生落花生が入りました。これは、殻つきのまま湯がいて食べます。海水ぐらいの濃いめの塩水で茹で、そのまま冷ましてから冷蔵保存。お酒のつまみ、箸休めにするのが一般的です。

でも、これには好き嫌いがあって、大人も子供もみんなに好評なのが落花生ご飯です。落花生を殻から出して、皮はつけたまま、細かくきざんだ油揚げといっしょに炊きこみご飯にします。豆ご飯とおなじように塩を入れて炊きますが、油揚げに醤油をからめておくと、ご飯に香りが移って、よりおいしくなります。このご飯、きっと秋の定番になると思いますよ。

炊きこみご飯には三つ葉の卵とじを添えて・・・。

とうもろこしも入る予定なのですが、週の前半にはまだ実が入っていないかもしれません。そのため、高橋さんの梅干しと抱き合わせという形になりました。去年が不作だっただけに、今年の梅干しは例年よりおいしく感じられます。夏の疲れを癒してください。

先週この欄に、先月前半の乾燥と後半の長雨、いずれも葉ものの種蒔きができなかったため、やむなくハウスに小松菜の種を蒔いたと書きましたが、そのハウス内が水浸しになって、全滅の憂き目を見たそうです。

さいわい、先週は好天続きだったので、露地に小松菜と京菜を蒔くことだできました。それがもう、好子さんの話では双葉になっているといいますから、もうすこしの間ご辛抱ください。