トンビのピーヨ

2008年10月第3週

今週の野菜セット

左から

この秋は雨がよく降ります。さわやかな秋晴れになっても、それが三日と続かない。おかげでまるで梅雨時みたいに、草がよく育ちます。

ほんとうなら農家もここらで除草から解放され、ほっとひと息ついているところでしょうが、生育中の冬野菜の畑がまたたく間に草だらけになってしまいます。それを取り除いても、次の雨でまたどっと発芽してくるといった感じで、なかなか休ませてはもらえないみたい。

わたしも小さな菜園ながら、雨上がりに足を踏み入れるのがイヤになるぐらいです。

しかし、この長雨のおかげで、今年はヨトウムシの姿がほとんど見られないといいますから、わるいことばかりではなさのですね。

だいたい乾燥が続くときには虫が増え、雨が続くと菌が活気づくので病気が増える、というのが自然な成り行きなのですが、今のところ病気の心配もなさそうで、冬野菜は順調に育っています。

雨にせよ、旱魃にせよ、野菜にストレスがかかっているときは、カルシウムを多めに施肥すれば緩和されます。季節の変わり目の気温の変化もストレスになりますから、ここでもカルシウムが多量に消費されますが、これってわたしたちの身体とまったくおなじ。人間も動物も植物も内実はおなじで、ちがうのは外見だけだったんです。

地球上の生きとき生けるものが基本的には同じ構造をしているというのは、進化の過程を考えたらあたりまえのことなのかもしれませんが、ふっとそれに気づいたときは感動的で、人間って思ったほど孤独じゃない。そのかわり特別な生きものでもない、というのがわかって、ちょっと謙虚になったりするものです。

そういう気持ちが長持ちしてくれればいいんですけど、すぐにまた人間中心の世界観に流されて、好き勝手をはじめるのですが、せめて野菜に生かされているということだけは忘れないでいたいものです。

最近、わが家の上空を旋回するトンビの声が大きくなりました。声が大きく聞こえるのは低空にいるからで、それもピーヨピーヨと鳴きかたが幼いのです。よく見ると、羽の色がまだ淡い。きっと巣立ったばかりなんだと思います。

カラスの巣立ちが九月ですから、トンビも独り立ちしていても不思議ではありません。が、あんなに大きな声で鳴いていたら、獲物に警戒されるんじゃないかと、こちらは気が気ではないんですね。

それまではつがいのトンビが上空にいましたが、かれらの姿が見えないところを見ると、カラスが子供をテリトリーから出すのとは対照的に、子供に譲って、親のほうが出て行ってしまうようです。そのつがいのトンビは、よくカラスのご飯を横取りしていましたから、ピーヨはネズミやモグラといった小動物だけでなく、竹輪の天ぷらやソーセージといったジャンクフードも食べていたにちがいありません。

トンビはカラスが苦手です。一対一ならトンビがカラスを圧倒しますが、カラスは群れをなしますからね。あまり近づこうとはしないものです。ところがわが家の屋根の上には、カラスの朝ご飯が放り投げてある。それに誘われて、ときにカラスの群れの中に突っ込んできていたのでした。

体の大きいオスのほうは、カラスの隙を見て餌を取りますが、メスのほうは気が弱く、上空から急降下してくるのですが、カラスにカアと牽制されるとすぐにUターンしてましたから、若いピーヨがカラスのご飯を横取りできるようになるまでには、もうすこし時間がかかるかもしれません。

よく都会の住宅街などで、カラスに餌をやって近隣の顰蹙を買っている話を見聞きしますが、さいわいうちは山の中にあるため、そういう苦情が来ることはありません。それにカラスの朝ご飯を用意するのは、単なる趣味ではなく、利害関係がからんでいるのです。

豆などの種を蒔くとカラスにほじられる。また、収穫の近づいた作物をカラスが啄む、という被害がなくなるんですね。それどころか、カラスが虫を捕ってくれる。ふつう、無農薬のトウモロコシにはアワノメイガという蛾の幼虫が入るのですが、うちのは無傷。ところどころ穴が開いているのは、カラスが幼虫を啄んだ跡で、好物のトウモロコシには口をつけていないのです。

だからお礼の意味もあるわけで、トウモロコシならカラスの大好きな天ぷらにしてあげるというわけ。カラスというのは頭のいい鳥ですから、だれがなにをしているのか、ちゃんと把握しているようです。カラスに好意的な人の家の前ではゴミを散らかさない、という話を聞いたことがあるぐらい。洗濯物に糞をかけられて困るという人がいたので、たまに残りものでもあげてみたら、といったら、それ以来、洗濯物が汚されることがなくなったといいますから、賄賂も使いようです。ま、これは相手によりけりなんでしょうけど。

敵を増やして悪戦苦闘するよりも、自然を味方につけたほうが楽ですし、ストレスも溜まない。ピーヨもそのうち、強い味方になってくれるでしょう。うちの畑はミミズが多いせいか、モグラだらけなんですから・・・。ピーヨが上手にモグラが獲れるようになるころには、カラスのご飯もつまみ食いできるようになっているでしょう。

今週の野菜とレシピ

先週に引き続き、小松菜、山東菜、ルッコラが入りますが、ルッコラは先週にくらべてかなり背丈を伸ばしています。サラダだけでなく、パスタなどにルッコラをきざんで散らすとおいしいですよ。すこし苦みがあるので、クレソンの代わりに肉料理に添えるという手もあります。

山東菜はさっと湯がいて芥子醤油で和えたり、胡麻和えに・・・。クセのない淡泊な味なので、なんにでもよく合います。わが家では煮魚の残った汁で煮て、魚に添えたりしています。

小松菜はレシピなど不要。味噌汁、炒めもの、おひたしなど、和風にも中華風にもなりますが、まだ本来の小松菜の味ではありません。好子さんの小松菜特有の甘さ、やわらかさはもうすこし寒くなって、霜が降りるようになってからですが、この時期、貴重な青菜です。今週は、椎茸と小松菜のスープがおすすめです。

馬田さんの椎茸。菌床栽培ですが、味も香りも原木栽培に引けを取りません。それは菌床にシルクプロテインを使い、マイナスイオン発生装置のもとで生育させているからで、そのシルクは結城紬で有名な土地柄、クズ繭が入手しやすいという環境を巧みに利用しているんですね。地元密着型農業の新しい形です。

味が濃厚ですから、椎茸と小松菜のスープも出しがなくても作れます。スライスした椎茸を水から煮て、沸騰したところで適当に包丁を入れた小松菜を加えるだけ。味つけは塩。お好みで少量のオイスターソースをたらしてどうぞ。

*野菜たっぷりセットにはハヤトウリが入っています。これは漬け物用の小型のウリですが、食感がいいのでサラダや甘酢漬けなどにも利用されます。

おすすめは甘酢漬け。ハヤトウリの中心部にある種を除いてスライスし、軽く塩をしてから甘酢に漬けてください。皮をむく必要はありません。添付の唐辛子は辛みのまろやかな日光唐辛子です。これをきざんで加えると彩りがよく、味も引き締まります。保存がきくので、作り置きしておくと便利な箸休めになります。