犯罪という名の異議申し立て

2008年10月第5週

今週の野菜セット

左から

あれだけ賑やかだった秋の虫が鳴りをひそめ、木々の紅葉もはじまりました。秋が深まり、そろそろ霜が降りてもよさそうなころですが、先週、ひさびさにまとまった雨が降ったと思ったら、耳元で蚊の羽音。

雨上がり、妙に蒸し暑くなったせいでしょうか。秋の虫に代わって、カエルの大合唱まで聞こえてくるしまつで、蚊が生き残っていても不思議はないのかもしれませんが、それにしてもねえ。

カエルが鳴くというのは、ほかでもない恋の歌なのでしょうが、いまごろ繁殖などできるわけがありません。そろそろ冬眠というときに、そんなことをしてていいのか。ただでさえ、気候の変動で生きづらくなっているのですから、こんなところで体力を浪費して大丈夫なんだろうか。よけいなことかもしれませんが、気になってしまいました。

それにくらべたら、これから人間界に吹き荒れる不況の嵐など、取るに足らないものかもしれません。もちろん、それは深刻な問題であり、いずれわたしたちのような下々のところにも影響が出るのでしょうが、どこか現実味に欠けているのは、それがマネーという実体のないものに起因しているせいかもしれません。

つまり、それが飢餓には直結していないということです。ふだんから飢餓に直結している地域にも影響は及ぶでしょうが、騒いでいるのはむしろ、これまでそういう国々に飢餓を押しつけながら、贅沢三昧に暮れていた側です。経済発展という名のもとに、やりたい放題やってきたのが、どうもそういうわけには行かなくなった。そんなところじゃないでしょうか。

先日、ニュースに登場してきた米国市民のセリフがよろしい。額にしわを寄せながら、銀行が貸し出しを渋るようになった。つまり借金がしにくくなったので、今の生活水準を維持するのがむずかしくなってきた、というのです。ふざけるな、といいたくなりますが、そんなことをしているのはかれらだけではありません。わたしたちも身の丈の暮らしをしているかというと、どうもそうではなさそうです。

肥満大国ニッポンも、贅肉を落とす時期に入ったのかもしれません。

最低限住むところがあって、明日の食糧が確保されている者に、不況だ、賃金カットだと騒ぐ資格はありません。それよりも、ネットカフェのようなところに寝起きしながら、派遣社員という企業側に都合のいい使われかたをしている若者にこそ、世間の目が向けられるべきで、先日の秋葉原の通り魔殺人も、あれを狂気のせいなどにしてはいけなかったのではないでしょうか。

あの事件をテレビで見たとき、とっさに永山則夫というわたしと同世代の男の名前が蘇りました。かれは四十以上年も前に、やはり無差別殺人をした人物です。ちょうどこの国が高度成長期に入ったころで、地方から集団就職してくる中卒の若者が金の卵と呼ばれ、派遣社員同様、労働力を搾取されていた時期で、かれもそういった若者のひとりだったのです。

その辺のいきさつは、かれが獄中で書いた「金の卵・無知の涙」に詳しいのですが、かれにそれを書かせた中央公論社の女性編集者と会ったことがあります。彼女は面会のたびに弁当を差し入れしていたのですが、弁当に入っているエビフライに永山則夫が感動。目玉焼きのようなものまで、生まれてはじめて食べたというのに驚いた、という話が強烈に印象に残りました。

無知ゆえに人を殺してしまった男が、獄中で学習の機会を得て、自分がなぜそういう衝動にかられてしまったのか。また、その怒りをどこに向けるべきであったかを知って、後悔にかられます。それが本を出すきっかけになったのですが、それを読めば、かれがいかに明晰な頭脳と感性を持っていたかがわかります。自伝的な小説も発表するようになりましたが、かれはそれらの印税を被害者の家族宛に送り続けていたといいます。

かれは当然、死刑囚でした。が、国家はそういう人物の命は奪うまい、とわたしは確信していたのですが、二年前にそれが執行されたと知ったとき、まるで親族を亡くしたようなショックを受けたものです。死刑執行の判を押したのは、小泉政権下で法務大臣になった小池百合子。それまで保留になっていた死刑の執行を、次々と実行に移すきっかけを作った人物です。彼女の手にはマクベス夫人よろしく、洗っても洗っても落ちない血の跡が染みついているんでしょうね。

永山則夫は当時未成年だったにもかかわらず、事件が残忍すぎるといって実名で報道されましたが、それと同様、秋葉原の事件でも加藤智大被告に非難が集中しています。

もちろん、かれらのしたことは許されることではありません。でも、その一点のみが論じられ、怒りがそこに集中してしまうと、なぜそういう事件が起こったのか、背後関係が見過ごされてしまうことになります。かれが働いていたトヨタという優良企業は、ついこの間まで社員に無償の残業を強いていた過酷な職場です。ましてや派遣社員となると、どういう境遇に置かれるか、想像がつこうというもの。現にかれは首を切られていました。

会社がそれくらいのことをしければ、この国では優良企業になれないのだとしたら、そっちのほうに問題がありそうですが、気がついてはいてもマスコミはそれには触れられない。それは電力会社の不祥事を深追いできないのとおなじ事情で、スポンサーを失うわけにはゆかないからです。糾弾の矢先はいきおい弱小企業の不祥事や、犯罪に走ってしまった非力な個人に向けられることになり、大衆もまた、日頃の鬱積を弱者に向けるという、不毛な図式ができあがっているんですね。

わたしがこういった犯罪者に同情的なのは、かれらとおなじように「経済発展」という魑魅魍魎の犠牲になっている、第一次産業のひとつに関わっているせいなのかもしれません。そこでふと思ったのですが、今の農家がやたらと農薬を使いたがるのも、もしかしたら遠回りな無差別殺人なのではないか。そうだとしたらやるせない、不幸な話だと思いました。

今週の野菜とレシピ

今週の野菜セットは、大根、ニンジンが入るので、送り手としてはちょっと鼻が高い気分です。

秋風が立つというのに、夏野菜をひきずっているようなときは、申しわけない気持ちが先に立って、仕事がはかどらなかったりするのですが、今週はちがいます。受け取ったみなさんも、待望の大根に思わずにっこりするのではないでしょうか。

ニンジンもひさしぶりです。まだ葉っぱがやわらかいので、ちりめんじゃこといっしょに炒めて醤油で味をつけ、胡麻もたっぷり加えて常備菜に・・・。これはお弁当のおかずにも重宝します。

青菜は小松菜、京菜、ルッコラ。茄子は夏からずっと入っていますが、今がいちばんおいしいときです。ニンニクひとかけをみじん切りにして、オリーブ油で炒め、茄子もいっしょに炒めて塩、胡椒で調味します。ご飯にのせても、パスタにからめても美味。パスタの場合は、仕上げにルッコラを散らすと彩りがよく、風味もよくなります。

玉葱もひさしぶり。先週末に北海道から、じゃが芋といっしょに届きました。来週はじゃが芋が入る予定です。