野菜畑の戦士たち

2008年8月第4週

今週の野菜セット

左から

お盆を過ぎたと思ったら、急に秋風が立ち、肌寒い日々が続いています。それまでの暑さで汗腺が開ききっていますから、ちょっと風が吹いても、涼しいのを通り越して鳥肌が立つぐらい。予想外の展開でした。

今年は残暑が厳しいと聞いていましたが、今週は雨模様。日照がなければ気温は高くなれませんから、九月に入ったころ、暑さがもどってくるのかもしれませんね。

畑では、大きくなったカマキリが目につくようになりました。カマキリは夏の虫と思われているようですが、これからが本番で、秋口に米や野菜につく虫をたらふく食べて卵を産みます。夏のはじめには一センチ足らずだったのが、今、メスで五センチ前後。卵を産むころには十センチ近くまでに成長します。

野菜の葉陰で、風にそよぐように身体を揺すりながら、通りかかる昆虫を待ちうけるのですが、風がなくても揺れていますから、これは一種の擬態なんでしょう。風にそよぐ葉っぱに見せかけ、捕食される虫たちを安心させるのが狙いみたいです。

そこへ人が通りかかると、あっちへ行けとばかりに鎌を振り上げる。お仕事ご苦労さまです、といって収穫しながら、ついちょっかいを出したくなるんですね。するとますます鎌を大きく振り上げる。こんな巨大な生きものに対してさえそうなのですから、勇敢だと思います。頼もしい畑の戦士。

そのくせ、妙に人なつこいところがあって、いつの間にか人の身体について来たりもするのです。畑からもどってひと休みしていると、よく家人から、カマキリが背中にいるよ、といわれ、また腰を上げることになる・・・。髪の毛についてくることもあり、迷惑なんだけどちょっとうれしい、誇らしいような気分になるのですから、不思議な虫だなあと思います。

思えば、クモやカマキリなどというのは、有機農家の勲章みたいなもので、薬品や化学物質の入った畑では死んでしまうのです。草食昆虫が農薬に対する耐性をどんどんつけているのに反して、かれら肉食昆虫は気の毒なほど薬に弱いからです。かれらほど弱くなくても、カエルやトカゲも土壌のいいところに集まってきます。当然、かれらを捕食するヘビも来ますから、勲章だらけのにぎやかな畑になるというわけ。

これが有機農業の強みでして、ふつうの畑が農薬に耐性をつけた虫に全滅させられるようなことがあっても、天敵のいる畑では多少の食害はあっても、全滅にはいたるようなことはありません。好子さんの近所の茄子畑が農薬を散布しているにもかかわらず、ミナミアザミウマに穴だらけにされているのに、農薬散布などしていない彼女の茄子畑が無傷という、あべこべみたいな現象も、かれらの存在があればこそ・・・。

有機農家の技術などといっても、特別なことをしているわけでなく、実はこのような伏兵の力によるところが大きいのです。土の中ではミミズが耕耘機に勝るとも劣らぬ働きをしていますし、目には見えない億単位の微生物も植物の生育を助けています。こちらが寝ているときも、かれらは休みなく働いているのですから、こういう心強い味方をみんな殺して、人間の力だけで農業をやろうなんてご苦労な話です。無謀といってもいいぐらい。

うちの畑には、いろんなところにコンクリートブロックが埋めてあります。それはブロックの穴がトカゲの巣にぴったりだからで、いってみればトカゲの集合住宅。おかげさまで全室ほぼ完売。繁盛しています。

背中に黒っぽいスジがあり、それが日に当たると、メタリックブルーに輝きます。体長およそ二十センチ。滅多と人前には現れませんが、土の中にかれらがいると思っただけで、畑がきらきら輝き出すような、そんな豊かな気分を味わうことができるんです。

人前には出てきませんが、縄張り争いか恋愛がらみか知りませんけど、ケンカは土中ではできないので、地上に出てきます。ある日、二匹が絡み合ってごろごろ転がっているところを、面白いのでしゃがみこんで見ていたら、うちの猫もやって来てのぞきこみました。闘いの最中、先にそれに気づいたのが下になっていたほうで、こりゃケンカどころじゃない、といった顔でそそくさと逃げだしました。えっ、という感じで優勢に立っていたトカゲもこちらを振り向き、猫の顔を見てギョッ。猛ダッシュで姿を消してしまいましたが、そのときの二匹の表情が忘れられません。

トカゲの集合住宅を思いついたのも、じつはそのユーモラスな決闘シーン以後のことで、あのびっくりした顔と、尾っぽをくねらせながら逃げてゆくときの宝石みたいな背中の模様。いっぺんに惚れこんでしまったのでした。コンクリートブロックの穴がふさがるまで、そういうシーンは見られなくなりましたが、アパート経営者としては、またどこかに新居を作ったほうがいいのかもしれません。でも、もう一回ぐらいああいうシーンを見てみたい気もするし・・・。女心は揺れています。

今週の野菜とレシピ

とうもろこしが入りました。小ぶりですが、甘みの強い品種です。先のほうをカットしていることがありますが、それはアワノメイガの幼虫がついていたもので、配送中に中まで入り込まないようにしたものです。見栄えはよくないのですが、外見よりも実を取らせていただきました。

新生姜を箱詰めしていると、お腹がいっぱいでも食欲がそそられるような、いい香りがしてきます。生のまま、味噌をつけてかじるなり、薬味にするなり、お好きなように・・・。そろそろ焼き茄子がおいしい季節になってきましたから、おろし生姜をたっぷり添えるのもいいかもしれません。

秋風が立つと、無性に味噌汁が恋しくなります。味噌汁用の青ものがないのが残念ですが、茄子の味噌汁に青みとして空芯菜を浮かべてはどうでしょう。オクラを小口切りにしたのを入れても、なめこ汁のような感じで美味でした。

ピーマンに真っ赤なものが混じっていますが、赤いピーマンには甘みがあります。これは細く切ってサラダに混ぜたり、ピクルスにしてどうぞ。青いほうも細切りにして、油揚げといっしょに炒めてチンジャオロースもどきにするとおいしいですよ。塩、胡椒とオイスターソースで味をつけると、なんとなく中華料理風になります。もちろん牛肉を使えばいうことなしですが・・・。

このところの低温続きで、夏野菜の生育が思わしくありません。来週はどうなりますか。いくらかでも日射しがもどってくれるといいんですけどね。