餅つきの思い出

2008年12月第1週

今週の野菜セット

左から

風が吹くたびに枯れ葉が舞うようになりました。

山の中には草木染めの絨毯が敷きつめられ、それを踏んで歩くのは気持ちがいいものです。雨上がりは滑りやすく、転倒の危険がありますが、天気のいいときは赤い絨毯の上でも歩いているようなリッチな気分。実際に赤い絨毯の上を歩いたことなどありませんが、朝、木漏れ日のフラッシュを浴びながら、できたてのほやほやの酸素を呼吸していると、師走の慌ただしさも忘れそうです。

森林浴のせいか、今年から餅つきがなくなってしまうせいかわかりませんけど、十二月に入ったという実感がなかなか湧かず、なんとなく十一月の続きみたいにのんびりしています。暮れの餅つきという行事がなくなってしまうのは残念なのですが、大仕事のプレッシャーから解き放たれた安堵感みたいなものが農家の表情からもうかがえます。

みんな年を取ったということかもしれませんね。ま、二十年も餅をついていたら年を取るのも当然で、四升の餅を百臼ちかくもつくというのがだんだん負担になってくる・・・。いろんな悪条件が重なったわけですが、潮時といえば潮時だったのかもしれません。

でも、餅つき風景が消えてゆくというのは寂しいことです。都会はともかく農村でも、電動の餅つき器の登場以来、庭先で餅をついている姿を見かけなくなりました。それでも農業祭のような催しの会場では、杵と臼でついた餅が振る舞われ、人気を博していましたが、それも保健所の指導で数年前になくなりました。素手で捏ねる餅は「不衛生」なので、不特定多数の人に売ったり配ったりしてはいけない、というのが理由です。

そんな理不尽な指導をされると、なにがなんでも餅つきを続けるぞ、と奮い立ってくるんですけどね。実際、そうしてきたわけですが、スペースという物理的な制約が加わって断念せざるを得なくなったのでした。

思い出に残っている餅つき風景があります。

暮れは日が暮れるのが早いですからね。そこへ雪まで降ってきて、やむなく臼を室内に入れたときのこと。土間という空間内での餅つきは、屋外とはまたちがった風情があって、蒸しあがった餅米を臼にあけると、どっと湯気があがります。その湯気が風に飛ばされることもなく、あたりに立ちこめるのです。湯気の中でうごめく人の影。上気した顔・・・。白熱灯の逆行の中で、その躍動感が何倍にもふくれあがります。そんな幻想的な光景を見て餅つきというのは神事だったんだと実感しながら、この光景、撮りようによってはものすごくエロテイックなシーンになるだろうな、と不謹慎な事も考えていたのでした。猥雑な力に満ちた「古事記」世界を彷彿させるのです。以来、餅つきは生の賛歌であると同時に、日本人の深層意識の底に横たわる大河の水に触れるような、儀式のひとつになったのでした。

ここではできなくなってしまったけど、餅つき万歳。日本人は餅つきをしなくてはいけません。「衛生的な」餅など食べているから、病気が増え、社会が疲弊しているのかもしれませんからね。

とはいうものの、正月の餅をどうしよう。途方に暮れているのはみなさんだけではありません。とりあえず今回は、農家のみなさんからおこぼれを頂戴するか、近所の和菓子屋さんの賃つき餅のお世話になるとして、体力の余った分は山登りで解消。今までは餅つきでくたくたになったところへ正月準備で、初日の出を拝む元気などなかったのですが、来春は山頂で神話世界に遭遇できることを期待しています。

今週の野菜とレシピ

今週は青山さんのキャベツが入ります。ほんとうはブロッコリーもあったのですが、生育がなかなか揃わず、セットメニューに入れることはできませんでした。でも、キャベツは順調に育ってくれたようです。

コスレタスはサラダ用ですが、二週も続けてサラダはどうも、という方のためにコスレタスの中華風炒めもの。豚のバラ肉:100グラムと春雨を30グラム用意してください。

豚肉は薄くスライスしたものをさらに5ミリぐらいに切り、春雨はお湯でもどし包丁を入れておきます。レタスはちぎるのが原則ですが、1センチ弱に揃えたいので、この場合は包丁を使ったほうがいいかもしれません。

フライパンに油を敷いて、まず豚肉を炒めます。かりっとするぐらいまでよく火を通し、醤油をぐるりとまわしかけます。次いでレタスを入れ、しんなりしたらまた醤油。最後に春雨を入れて、まんべんなく火が通ったところで醤油という簡単な料理ですが、味つけを濃くすればご飯のおかず。薄味ならそのままで焼きそばのダイエット版。ぴりっとさせたい方は一味唐辛子をふってください。胡椒よりも唐辛子のほうが合うようです。キャベツでこれをやってもおいしいですよ。(豚肉がダメという方は桜エビで代用してくださいね)

ルッコラはどう転んでもサラダにしかなりません。うちの畑でこれを作ったとき、あんまり大量だったのでお浸しにしたところ、苦みが強くて食べられた代物ではありませんでした。生で食べるときのほろ苦さはおいしいのにね。サラダ以外なら、薬味感覚で使うという手があります。パスタや炒めご飯の仕上げに散らしてください。

日本ほうれん草には特有の香りと甘みがあります。とくに付け根の赤い部分が美味。さっと湯がいておひたしにしますが、そこに鰹節を加え、醤油と胡麻油少々で和えるとナムル風。これをひと口分ずつ海苔でくるむと、お酒のつまみにもなります。