桜あれこれ

2008年4月第2週

今週の野菜セット

左から

このあたりも桜が満開。見ごろになりました。

桜の季節になると、数年前に亡くなった友人を思い出します。酒と桜を愛し、元気なころは西行よろしく、九州から青森まで桜前線を追いかけたりしていた男です。ねがわくば花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ西行は歌のとおり、旧暦の二月に亡くなりましたが、肝臓癌で入退院を繰り返し、不死身とさえいわれた男が息を引き取ったのは夏の終わり、お盆のころです。風流のツケは大きかったようで、桜に浮かれ、放浪することのできる境遇をうらやむばかりだったのが、鉄槌でくじかれたような気分でした。

それでもいつか、桜を追う旅をしてみたい。そんな気持ちは変わらないのですから、桜という花にはいい知れぬ魔力が潜んでいるようです。うつくしい花の下には死体がある、というのも案外、実相をいい当てていたのかもしれませんね。

精神的な発情期。命を落とさないまでも、桜には人の情操をハイにするところがあるみたい。散れば散ったで、秋の落ち葉などより「もののあはれ」が濃厚ですし、そんな花びらが酒杯に舞い落ちたりしたら、もう酔いつぶれるより術がないのでしょうね。残念ながら、わたしは下戸ですけど・・・。

桜が散って、葉が茂りはじめるあたりになると、話はいきなり散文的な現実に引きもどされます。学校というとたいていのところに桜が植えられていて、校門あたりが桜並木になっているところも多いはずです。小学校のころは、その時期になるとランドセルを頭に載せて、きゃーきゃーいいながら走り抜けていたものです。それは毛虫が落ちてくるからで、それを帽子に拾い集めて、女の子に投げつけるヤツもいた。

ところが最近、いや、もう大分前から、小学生がきゃーきゃーいってる姿も見ないし、公園を歩いても毛虫が落ちてくるどころか、地面をもこもこ移動している姿も見かけない。あの大量の毛虫はどこへ行ってしまったのか。居心地のよさに、厄介者の不在はつい忘れられがちですが、考えてみたら、これは毛虫に劣らず不気味な現象ではないでしょうか。

毛虫の駆除剤、つまり農薬には姿がありませんから、ランドセルを頭に載せたぐらいでは避けられないし、急いで走り抜ける必要もないからゆっくり吸収することになる。「文化的」で「快適」な生活というのは、周辺の生態系を犠牲にしている分、かならずツケをともなうものですが、そんな暴挙がこんなところにまで広がっている。そんなことを考えていたら、桜を見る目も変わってきて「もののあはれ」を感じるどころか、憐れむべきはこちらのほう。心配のほうが先に立つのです。

九州かどこかの桜の名所で、桜の木を引っこ抜き、抜けない大木は切り倒すという、ご苦労な暴挙があったそうです。犯人が挙がらないので、目的は不明ですが、わたしの勝手な想像では毛虫の血縁者のしわざ?

とにかく酔っぱらいが桜の枝を折った、なんて程度のものではなく、あれだけの大仕事ですから、やったのは相当エネルギッシュな男にちがいありません。なにに突き動かされて、そんなことをやる気になったのか。これは毛虫の怨念を一身に集めてしまったんじゃないでしょうかねえ。だって、ひと晩であれだけのことをやるのですから、ふつうの体力では考えられません。

こういうことがあると、ニュースキャスターは正義の味方みたいな顔になって、怒ってみたりするのですが、日本中から毛虫が消えたといっても、そういうことには平然としているんでしょうね。もっともそんなこと、ニュースにならないのかもしれませんけど・・・。

わたしも庭木に茶毒蛾の幼虫が大発生したときは、棒の先にタオルを巻き、それを灯油にひたして、半日がかりで焼き殺したことがあります。茶毒蛾は身体のどこかを刺されると、またたくまに全身にひろがってかぶれるという猛毒の持ち主。友人はこれが首に触れただけで、全身はおろか、肛門や膣の中まで猛烈な痒みに襲われ、数日は外出できなかったといいますから、すごい威力です。体長は一センチにも満たないんですけどね。

それにくらべたら、桜につく毛虫なんかかわいいもんです。図体は大きいけど無毒。そりゃあ、刺されればチクッとするけど、夕方には刺されたことも忘れているぐらい。それにたかられたからといって、桜の木が枯れたという話も聞いたことがない。山の中に自生しているものなどは、きっと五月に入ると毛虫がついているんでしょうけど、毎年見事な花をつけています。

桜にしたって毛虫はイヤでしょうけど、じゃあ毛虫か薬剤散布か選択しろといわれたら、虫のほうを取るんじゃないでしょうか。だって、虫は毎年かならずつくというものではありませんし、いってみれば健康のバロメーターみたいなもの。たとえ姿はグロテスクでも、そういうものは残しておかないと、わたしたちが指針を失い、右往左往することになるんじゃないでしょうか。

今週の野菜とレシピ

田ゼリのかき揚げ

気温はぬるんできましたが、地温のほうは今ひとつ。今月に入っても朝夕の気温は低いので、春野菜の生育が遅れています。

絹さやも背丈は伸びているのですが、花のほうは今ひとつ。ただでさえ野菜が不足しがちなこの時期に、生育の遅れはつらいものです。そこでつらいときの野口さん頼み。今週は春キャベツを奮発していただきました。

やっぱり四国は春が早いんですね。これはもうレシピなど不要でしょうから、煮るなり炒めるなり、生でバリバリやるなり、お好きなように・・・。

田ゼリはかき揚げがおすすめです。汚れを取ったら水気をよく切って、根も葉もいっしょに衣で和えて揚げるだけ。からっと揚げるコツは、てんぷらの衣をできるだけケチること。かろうじて繋がる程度にして、高めの温度で揚げると、パリッと仕上がります。

かき菜(あぶら菜)には、ほんのりした甘みと苦みが同居しています。甘みは有機栽培に特有のものですが、苦みはミネラルが生み出すもの。フキノトウやツクシといった苦みのあるものが、この時期好んで食べられるのは、身体がこのミネラルを必要としているからです。苦みが苦手という向きは、炒めものやおひたしで。ほろ苦い春の味覚を堪能したい向きは、お吸い物でどうぞ。味噌汁よりも、濃いめの出しをとって、塩味に仕立てたほうが風味が損なわれませんよ。

しめじは油と相性がいいので、バターを添えてホイル焼き。ニンニクといっしょにオリーブオイルで炒め、パスタにからめてもおいしいですよ。