摘み草のすすめ

2008年4月第3週

今週の野菜セット

左から時計回り

先週の風雨にもめげず、持ちこたえていた桜が散りはじめました。四月も半ばだというのに、肌寒い日が多かったので、散るに散れなかったのかもしれません。

ツバメは暦通りにやって来て、軒先で営巣がはじまりましたが、なかなか仕事がはかどりません。ガレージの中で営巣するカップルは、早々と新居を完成させましたが、それっきり姿を見せない。気温が思うようにならないときは、渡りのときとおなじように群れを作り、どこかで身を寄せ合ってでもいるんでしょうか。

突発的に気温が上昇しても、すぐに寒さがぶり返す。そんな調子ですから、春野菜もなかなか大きくなれません。いいかげん本格的な春になってほしいものですが、今週はどうなりますか。雨が降ると、どうしても気温が低くなってしまうので、せめて三日ぐらい、晴れ間が続いてほしいものです。

こんな気温の上下の激しい時期は、知らず知らず身体にもストレスがかかっています。そうするとどうなるかというと、身体はわたしたちの知らないところでミネラルの備蓄を消費。備蓄が十分でない場合には、骨を溶かしてカルシウムを奪ってゆくといいます。

春眠暁を覚えず、というのがまさにそんな状態で、骨が溶かされるぐらいですから、活動的になれるわけがなく、十分に睡眠をとっているのに起きられない。意を決して起き出しても、身体がだるい、眠気がとれない・・・。春だから眠いのはあたりまえ、なのではなく、タコが自分の足を食べるのとおなじような状態だったわけですね。これを放っておくと、年齢に関係なく骨粗鬆症を招きます。

現代の食生活は一見豊かになったようでも、肝心のミネラル分が不足しています。子供がちょっと転んだだけで骨折するのは、青菜や海藻の摂取量が激減しているからで、カルシウムなら牛乳をたっぷり飲ませているから大丈夫、などというのは大まちがい。牛乳のような高カルシウム食品は、逆に体内からリン酸を奪ってしまうので、かえってカルシウムを作りにくい身体になってしまうのです。

そのカルシウムの豊富な牛乳を生産する牛がなにを食べているか、考えてみてください。かれらの主食は牧草です。草があの大きな骨格を形成し、角まで作っているのですが、牧草にはごく微量のカルシウムしか含まれません。ではなにがカルシウムを作っているかというと、カリウムなんです。豊富なカリウムが体内でカルシウムに変換されるから、しっかり身につき、高カルシウム食品を摂ったときのようにいたずらに排泄されることもない。

だから、子供たちにはぜひ、青菜の入った味噌汁を飲ませてください。青菜がきらいな子供には、汁だけ飲ませても、カリウムは十分に摂取できます。妊産婦や更年期の人たちも同様です。

益子はかつて農村でしたから、腰の曲がったお婆さんが大勢います。でも、中には腰が曲がらない人もいる。そんなお婆さんのひとりに理由を尋ねたところ、そりゃあ、うちは菜っぱばかりの味噌汁だったから、というんですね。田舎臭い味噌汁をきらって、町の人みたいに上品な豆腐と葱みたいなのを食べてた人は、みんな更年期にカルシウムを持っていかれたそうです。

それを聞いてから、わが家の味噌汁も青菜だらけになったのですが、そうすると食事のとき、子供がちゃんと野菜を食べているか、いちいちチェックする必要がなくなって、かえって気が楽になったもので、魔女のスープさながら、近所からいただいたものから、畑の残りものまで、なんでもかんでも鍋の中に入れたものです。

もうひとつ、昔の人は春は山菜、秋には茸採りなどをして、季節の変わり目に必要なミネラルを上手に、しかもおいしく補給していましたが、今ではそういう摘み草の習慣もなくなってしまいました。それも現代の一見豊かではあるけれど、じつは貧しい食生活の一因で、目と口で食べるのではなく、身体がおいしいと思うものを知る必要がありそうです。

春眠暁を覚えずの兆候が感じられたら、ちょっと郊外へ足をのばして、草を摘むというのはどうでしょう。ヨモギ、たんぽぽ、ハコベ、カラスノエンドウ、みんな丸ごと食べられます。ハコベは湯がいておひたしにするとほうれん草そっくりですし、たんぽぽは花が開く前ならサラダ、花が咲いてしまったら花もいっしょにかき揚げがおすすめ。ヨモギは湯がいてから潰し、白玉粉といっしょに練ると、簡単に草餅が作れます。カラスノエンドウもおひたし、かき揚げどちらも美味です。

また、カラスノエンドウは心臓の弱い人には強壮剤になりますから、陰干ししてお茶にしても・・・。スギナも同様にお茶にすると、高血圧や糖尿病の薬になります。ただ、あまりおいしいものではありませんので、子供にきらわれないためには、麦茶や番茶に混ぜることをおすすめします。

摘み草は子供たちもけっこう夢中になってくれますから、ピクニック気分で楽しむこともできますよ。

今週の野菜とレシピ

今週も愛媛の野口さん提供のキャベツに助けられ、なんとか春の野菜セットの体裁を保持。幸子さんの絹さやが今年はどうしたことか、背丈が大きくなっているわりには花がつかず、この時期になってもほとんど収穫できないような状態で、逆に好子さんが五月に出荷を予定していたハウスきゅうりは、背丈はそれほど伸びないのに花つきがよく、それがもう小指大ぐらいに生育しているといいますから、異変の多い春。こういう天候不順の年には、農家の体力がそのまま野菜に反映されるのかもしれません。

田ゼリは野草を口にする機会の少ない都会の人には、貴重なミネラルの供給源になります。おすすめはかき揚げですが、からっと揚げるコツは衣をできるだけ少なく、かろうじて繋がる程度にし、高めの温度で揚げること。残った衣で春菊も揚げるとおいしいですよ。春菊は桜エビと相性がいいので、生のものが手に入れば最高。それが無理なら、乾燥した桜エビといっしょに揚げてみてください。

かき菜を湯がくときには塩だけでなく、お湯に菜種油少々を落とすとおいしくなります。かき菜はあぶら菜、つまり菜種ですから、仲間意識が働くのかもしれません。沸騰したら火を止めて、そのまま好みのやわらかさになるまで放置。水にはさらさず、まな板の上に茹であがったかき菜をならべて冷ましてください。荒熱が取れたら食べやすい大きさに切り、芥子醤油で和える。あるいは擦り胡麻+醤油+マヨネーズで和えてどうぞ。

京菜はサラダがおすすめです。ちりめんじゃこをかりかりになるまで油で炒め、それを京菜の上に散らし、酢醤油で食べるのがいちばん簡単なサラダですが、一人前ずつ小鉢に盛りつけ、温泉卵を載せると、かりかり、しゃりしゃりした食感に卵のとろとろが加わって、おいしさが倍増します。

来週はいよいよタケノコが登場しそう。絹さやは期待できないかもしれませんが、きゅうりもメニューに加わりそうです。