植物のふしぎ

2008年4月第1週

今週の野菜セット

左から

あちこちで桜が開花しはじめたようです。こちらはまだ兆しが見えませんが、沿道の辛夷(こぶし)は満開になり、レンギョウが黄色い花をつけはじめました。

それでも朝晩の冷えこみはあいかわらずで、さすがにもう霜が降りることはなくなりましたが、まだまだ油断はできません。こちらでは遅霜といって、五月に入るころ、急に寒さがぶり返すことがあるので、種を蒔くにせよ、苗を移植するにせよ、農家は慎重にならざるを得ないのです。幼少期の夏野菜が霜などにあたると、あっけなく枯れてしまいますからね。

今はみんな、ビニールハウスでぬくぬく。あたたかい落ち葉の揺りかごで、ひしめき合いながらうつらうつらしています。それはまるで産院の新生児室。そんなか弱い苗たちが、人の背丈ほどにもなって茄子やトマトを産出するのです。どこにそんな強靱さがひそんでいるのかわかりませんが、そんなあたりまえのことが、ときに魔法のように思われることがあります。

わが家の辛夷も開花。白い花をつけはじめました。この時期に辛夷が咲くのはあたりまえのことなのですが、じつはこの辛夷、十メートル近い大木なのに、一年おきにしか花をつけなかったのです。

去年、見事な花をつけたので、本来なら今年は咲かないはず。それが満開になったのですから、ふつうの辛夷にはあたりまえのことでも、この樹にとっては異常事態です。どうしてそんなことになったのか。

じつは何年も前から、これだけの大木が一年おきにしか花をつけないのが残念で、なんとかならないものかと思っていました。園芸関係の本を読んだり、植木屋さんに聞いたりして、花の後、お礼肥を埋めたりしましたが、効果がありません。いちばん手っ取り早いのは、ドリルで幹に穴を開け、そこに栄養剤を注入することでしたが、この方法は気が進みませんでした。

そして去年、満開の花を見ながら思ったのです。樹木にとって花をつけるというのは、とても体力の要ることにちがいありません。無理をして花を咲かせても、本体が消耗し、枯れてしまったのでは本末転倒。一年おきに花を咲かせるのがこの樹にとっていいのなら、それはそれでいいんじゃないか。あんたはあんたのペースでやりなさい。無理なことはしなくていいよ、と話しかけたら、とたんに連続して花をつけるようになったのです。

こちらが不満をくすぶらせていたときは、けっして期待に応じようとはしなかった樹が、相手の身になっておおらかになったとたん、諦めかけていた夢を実現してくれた。だから今年の花はいつにも増してうつくしく、涙が出るほどありがたいのです。二年も続けて咲いたんだから、来年はしっかり休みなさいよ、と逆に説得したりして・・・。この辛夷が枯れてしまったら、夏、わたしのもっとも快適な昼寝場所がなくなってしまうんですものね。

野菜にもそういうところがあります。無農薬で野菜を作っている農家が、一般の農家よりとくべつ技術や、秘密のノウハウを持っているわけではないのです。肥料だって、有機物を使っているというだけで、とくに配合に気を使っているわけではない。わたしなんかより植物のほうが頭がいいから、必要なものだけ吸収するし、余分の肥料は雑草がきれいに吸い取ってくれる、というのが好子さんの言ですが、この謙虚さが彼女を達人にしているようです。

ふつうの人なら、自分の畑でいいものが採れれば、ついそれを自分の能力のように勘違いしてしまいますものね。また、そこには自分が育てている野菜に対する絶対的な信頼が感じられます。そこまで信用されたら、野菜のほうも百パーセント力を発揮せざるを得なくなるし、たがいに相手の想念を読むという思いやりも生じてくるではないでしょうか。

自由を得た野菜たちは、どうにでも自分の生きかたを選択できるにもかかわらず、農家の期待どおりの結実を、それも通常より長きにわたってするのですから、これは人間関係とほとんどおなじ。人はそれを技術と呼びますが、その実体はむしろ精神的なものといえるでしょう。

人と植物を同レベルに考えることに抵抗がある向きもあるようですが、わたしたちの体内を流れている血液と、植物の体液はまったくおなじ分子構造を持っています。ただヘモグロビンの真ん中にあるのが鉄で、クロロフィルの核になっているのがマグネシウムであるというだけ。それが血液を赤と緑に色分けしているのですが、本質的には変わりがないのです。

植物に神経細胞があることも、前世紀半ばには確認されています。未だそれを認めようとしない、保守的な生物学者もいるようですが、犬猫に魂などはない、という学者先生の意見があっても、わたしたちが実際に動物たちと接していると、紛れもない霊魂の存在を感じるようになるのとおなじことかもしれません。

野菜でも庭木でも、いちばん吸収率のいい栄養素は人の愛だったというわけで、これは生きとし生けるものに共通したこと。人の子供だって、あれこれと禁止事項を並べたてるより、百パーセントの信頼を寄せていたほうが、親の期待以上に育ってくれるのかもしれませんよ。

今週の野菜とレシピ

新玉葱が入りました。これはスライスしてオニオンサラダに・・・。これから気温が急に上がったときなど、さっぱりと召しあがってください。ただし水分が多い分、傷みも早いので、冷蔵保存してくださいね。

北海道の玉葱も残っているので、少しずつですが入れておきます。こちらのほうは、これまでどおりシチューなどにお使いください。

先週の野菜セットでかぶを受け取っている方はチンゲン菜。隔週でお送りしている方には小かぶが入ります。チンゲン菜は塩茹でしてお湯を切り、あつあつのうちにバター、または胡麻油をからめ、塩、胡椒、醤油少々で味をつけると、今の時期にぴったりの温野菜サラダになります。大家族向けには、しめじもいっしょに湯がいてやるとボリュームが出て、味もぐーんとよくなります。

かき菜はあぶら菜の一種。これは湯がくとき、塩ひとつまみと菜種油少々を落としてやると、色つやよく仕上がります。そのまま水には浸けず、まな板の上に広げて冷まします。それを芥子醤油で和えるか、マヨネーズ+すり胡麻+醤油のゴマネーズ和えにしてどうぞ。

小松菜は小ぶりなのでおつゆの実。細めのは麺類の薬味などにお使いください。