ワナの話
2010年3月第1週

左から
- 小松菜
- 青首大根
- シイタケ
- アブラナ
- 薬味ネギ
- レモン
- リンゴ
- ハッサク
先週は、いきなり春になったかのようなあたたかさ。春一番が吹いたところもあるようです。週末には雨になり、寒さももどってきましたが、厚い氷が張るようなことはもうないでしょう。
日だまりでは水仙が顔をのぞかせました。今週末は啓蟄です。地中に低周波が鳴り響き、それが目覚まし時計となって、冬眠を妨げるのですね。カエルもヘビも虫たちも、わたしたち同様、ベルが鳴ったからといって、すぐに飛び起きるわけではありません。うるさいなあ、と寝返りを打ってまた寝ようとするけれど、このベルは音だけでなく震動もともなっていますから、バイブレーションから逃れるように地中深くから浅いところに出てくるのです。
気温が上昇するにつれ、掛け布団が薄くなるわけで、カエルなどは今月末には地面すれすれのところまで上がってきます。それでもまだ熟睡していますからね、手に取って子細に観察することも可能。ちゃんと元通りに埋めもどせばいいのですが、同時に草むしりの鎌などで傷つけてしまわないよう、気をつけなければならなくなります。
冬眠中の生きものはなかなか起きてきませんが、地中の哺乳類・モグラだけは目覚まし時計が鳴ると同時に活動を開始します。既に配偶者がいるものは家族計画を立てて、自宅を増築。独身ものは若い女性が気に入るような新居を作らねばならないからです。
それで林の中も、畑も庭も、こんなところまでと呆れるぐらい、地面のあちこちに土の小山が出現し、毎日数が増えてゆきます。わたしたちの足下にはいったいどれだけのモグラがいるのか、地下帝国でもあるんじゃないかと思うほどです。が、モグラもそう簡単に帝国を拡大できるわけではありません。
モグラの活動がはじまると同時に、上空を舞うトンビもまた増えてきます。例のピーヨもその中に混じっていて、鳴き方は幼くてもちゃんと生き残る能力は備わっていたんだ、と安心します。あいかわらずピーヨ、ピーヨと啼いていますが、もう巣立って二年になりますからね、立派なものです。
トンビは上空を旋回しながら、地上の動きを観察し、モグラの山がすこしでも動くと急降下してきます。そして見事に、地中のトンネルから土を運び出しているところを捕らえます。トンビの眼は遠近両用になっていますから、瞬時に倍率を変え、砂粒の動きまで的確に捉えることができるんですね。トンビが急降下してきたときの迫力といったら、それはもう感動もので、わたしがモグラだったら、殺されてもしかたがないと思いそう・・・。犬や猫のオモチャになるのはイヤですけどね。
うちの犬もよせばいいのに、モグラの気配を察知すると、そのあたりを堀りまくります。トンネルに沿って掘り進むのですから、命に別状はなくても、モグラにとってはかなり迷惑。猫はそれよりもうすこし的確ですが、いずれもトンビの名人芸には及びません。それに食べるわけではないのですからね。どうせならトンビに一撃されて、かれらの血や肉になれば、モグラも本望ではないかと勝手な想像をめぐらせているのですが、いずれにせよ、人間が仕掛けたワナや薬品で処分されるよりはいいのかもしれません。
ワナといえば先週、家のすぐ横の林の中で、わたしがイノシシ用のそれにかかりそうになりました。クマがイノシシのワナにかかってどうする、という感じですが、足元の落ち葉の中からいきなりバチンと飛び出してきたものがあったのです。うちの犬はまだちいさいので、このワナで動けなくなることはないでしょうけど、怪我ぐらいはしていたかもしれません。
林の中は物騒だからと、今度は西の林を大きく迂回してみたら、今度は道の真ん中に巨大な檻。犬が入って、扉が閉じてしまったら面倒だと駆け寄ったら、何者かが扉が落ちないように丸太をはさみこんでありました。こんなことをするのは隣人しかいませんから、当人に確認したら「いや、あれはぼくじゃない。××さんでしょう」というのです。
そこは××さんの田圃に近いところだったので、わたしはてっきり彼が檻を置いたのかと思っていたんですね。しかも彼は猟友会のメンバーです。ところが、狩猟はひとつ間違えば、自分も命を落としかねないリスクがあるが、ワナにはそれがない。だから許せない。飛び道具を持っているというだけでも、こっちは卑怯なんだから、と彼は隣人に語ったそうです。
胸が熱くなりましたね。さらに、××さんのお母さんは畑を作っているのですが、いつもイノシシに荒らされている。お母さんは息子にイノシシをなんとかしてくれ、というのですが、じゃあ、イノシシを捕ればちゃんと料理してくれるのか。食べもしないものをおれは捕らない、と拒否しているそうです。だいたいおふくろは野菜を作りすぎて、いつも半分以上捨てているんだから、食べられたっていいんだよ、とも・・・。
××さんのことを見直すと同時に、こういう人、きっとほかにもいるんだろうな、と思うと、雪が舞いはじめたにもかかわらず、いっぺんに春になったよう・・・。ぽかぽかした気分で帰ってきました。
今週の野菜とレシピ
あぶら菜
春の到来を告げるように、あぶら菜が育っています。まだ小ぶりではありますが、青菜の中でもとくにミネラルの豊富なあぶら菜で、身体も冬バージョンから春対応型にしておきましょう。
あぶら菜を湯がくときには、お湯の中に塩少々と油も少量落としてください。油がコーテイング剤になって、ミネラルの流出を防いでくれるからです。丸ごとお湯に入れ、沸騰したら火を止めます。煮立てると栄養分のみならず、風味も損なわれるからで、余熱で火を通すのが青菜を湯がくときのコツ。頃合いを見て、一本ずつまな板の上に広げます。水にさらさないのも大事なことです。
適当な大きさに包丁を入れ、軽くしぼって芥子醤油で和えてください。そのまま醤油をからめ、マヨネーズで食べてもおいしいですよ。
小松菜の春色パスタ
あたたかくなってきたので、小松菜も春色パスタにしてみましょうか。用意するものは、ベーコン50グラム、生クリーム150~200㏄。小松菜は上記の要領で茹で、たべやすい大きさに切っておきます。たっぷりのお湯でパスタを茹でている間に、フライパンに油を熱し、細かく切ったベーコンをじっくり炒め、小松菜も加えて軽く炒めたら生クリームを入れ、塩、胡椒で調味。あとは茹であがったパスタをからめるだけ。
白髪葱
やわらかい薬味ネギ。これを見ると無性に白髪葱を作りたくなりますが、またこの白髪葱がウソみたいにやわらかく、甘みがあっておいしいんです。白髪葱を生かすには鶏肉を蒸すか、白身魚の刺身を用意。たっぷりと葱をのせたところに、あつあつに熱した胡麻油をじゅっとかけ、醤油をまわしかけます。白髪葱に削り節をのせて同様にしてもおいしいと思いますよ。
来週はひさびさにほうれん草が登場しそうです。あたたかい日が続いてくれるといいですね。
キク芋
野菜たっぷりセットにはキク芋が入っています。
キク芋という名前は、花が菊に似ているところから来ているようですが、芋なのにでんぷんはほとんど含まれません。天然のインシュリンと呼ばれているイヌリンが豊富なので、糖尿病対策に使われているそうです。
表面がでこぼこしているので、あえて皮をむく必要はないと思います。薄くスライスしてきんぴら、あるいはそのまま麺つゆに漬けて・・・。かき揚げにもできますが、いずれもしゃりしゃりした食感とほのかな甘みが身上。血糖値に関係なくファンになる人が多いので、農家に依頼しているのですが、大量生産には向いてないようなので、今回は一部の方のみとなりました。