熊と毒キノコ

2010年10月第4週

今週の野菜セット

左から

十三夜は曇り空で、まるで春のようなおぼろ月が出ていましたが、それ以降は晴天続き。青空が吹き抜け天井のように高く感じられます。同時に朝夕、寒くなってきて、秋も終盤戦に入ったようです。

この秋は紅葉が遅く、色づきもわるいようですが、代わりにキノコが大量発生しています。山形県では松茸が豊作だとか。わが家の裏山にも、いたるところでキノコが群生しています。一本シメジ、柿シメジ、紫シメジとシメジ類が多いようです。が、どれが食用で、どれが毒なんだか・・・。

犬の散歩中、一本シメジとおぼしきものが群生しているのを発見。袋がずっしり重くなるほど採って来ましたが、隣人にお裾分けする前に念のため、近所の蕎麦屋のおじさんに見てもらいました。あーあ、こんなに毒キノコ採って来ちゃって・・・。これが今朝、ニュースになってたウラベニホテイシメジ。ほら、傘の裏側がピンクがかっているでしょう。これで向こう三軒両隣、病院にかつぎこまれたんだからね。

危ないところでした。やっぱりキノコというのはコワイけど、逆にそれが採集する側にとっては魅力なのかもしれませんね。本物の一本シメジをもらって食べてみましたが、馬田さんの椎茸のほうがずっとおいしい。それでも裏山のキノコに惹かれるのは、このスリルと「見つけた」という満足感が、スパイスとして加味されるからでしょうか。

蕎麦屋のおじさんには念を押されています。どんなキノコでも、かならず食べる前に見せに来ること。大事なお客さんに死なれちゃ、商売あがったりだからね、だって。

青山さんにもおなじようなことをいわれています。が、わたしが一本シメジとおぼしきものを採っていたとき、彼は彼で岩手の山奥を歩きまわっていたんですね。身体を休めるといっても、じっとしていられない性格なんです。

熊の糞の乾き具合を観察しながら、山に入って山菜やキノコを採るのが心身を休めるいちばんの方法なんだそうです。が、山菜もキノコも気まぐれで、出るときはどっと出てきますが、一日早いとそこにはなにもない。そして一日でも遅れると山菜は伸び放題。キノコは傘が開いて使いものにならなくなってしまうのです。だれにも採られないまま、地面にへばりついているキノコに出会うと、膝の力が抜けるほどがっかりするんだって・・・。

わたしもそれに似た経験はありますけどね。つい先日も、毎日様子を窺っていたアケビの実が、数日続いた雨の後、地面に落ちて潰れていたカラスやタヌキに食べられたのなら諦めもつくのですが、だれにも食べられず、雨に打たれて潰れてしまったのではねえ。アケビも浮かばれないと思います。

それにくらべたら、キノコは倒れても虫が食べてくれるので仕合わせなのかもしれません。虫は体に胞子をいっぱいつけて歩き回ってくれるのですから・・・。不思議なのは毒キノコといわれているものでも、虫が平気で食べていることで、人間が食べたら吐き下しになって、へたをすると命まで落としかねないものを、なぜあんな小さな虫が食べられるのか。

そういえばうちにいた山羊も裏山でキノコを見つけると、嬉々として食べていました。こちらの心配をよそに平然としていましたけど、まちがってツツジの葉をひと枝口にしただけで下痢をしたり、泡を吹いたりする山羊がですよ、どうして毒キノコなんか食べられるのか。今思えば、それも不思議でした。

もしかしたら人間の側に問題があったのかもしれません。人間は平気で山の中にゴミを捨て、木を切り、挙げ句の果ては開発なんかしてしまう。山の幸を求めて入ってきた者も、採るものを採ったら後は知らん顔。後にはコンビニ弁当の容器やペットボトルが転がっているという体たらく。おかげでこっちはキノコ採りより、ゴミ拾いのほうが忙しいぐらいです。

そんな身勝手な人類に対して、山の中に蓄積された怒りや悲しみを吸い上げ、それを体内で悪意に変えたものが毒キノコだったのかもしれません。人類御用達の毒だから、虫が食べても山羊が食べても平気なわけ。きっとイノシシなんかも、おいしく召しあがっているんでしょう。

それはそうと青山さん、今年もキノコの時期を外してしまい、悔しがっていましたが、それに加えて不思議なことがあったそうです。今年は山の中に熊の糞が見あたらない。目撃情報も皆無なのだとか。これだけあちこちで熊が出没し、ニアミス事故も起こっているのに、毎年あたりまえに熊が徘徊し、ときに自動車道路でオス同士が取っ組み合いなどしているところで、なぜ熊がいなくなってしまったのか?

この夏の猛暑は山の木を枯らすほどの勢いでしたが、岩手の奥地では逆にこれが幸いしたのではないでしょうか。いつになく山の中に豊饒がもたらされ、熊が人前に姿を現す必要がなくなった。熊慣れのした地元ではいぶかしみながらも、安心して山歩きができるのを喜んでいるそうです。こういうところの人たちは、熊とのつきあいかたをよく知っていますしね。

猛暑のおかげで、食べものに事欠かなかったところが枯渇。ふだん、熊の存在など意識したことのなかった人々が、今年はそれに直面することになってしまった。対処のしかたもよくわからない。昨今、ニュースを賑わしている熊の被害は、人の無知によるところも多いのではないでしょうか。

山や里に熊やイノシシが出没するのは物騒だけど、そういう恐ろしいものがいないと、人というのはなかなか謙虚になれない。やつらは必要悪なんだよ、と青山さん。わたしもその通りだと思います。

今週の野菜とレシピ

ここへ来て、異変が起こっています。この夏の猛暑で枯れかかっていたピーマンきゅうりが、今ごろになって復活。若芽が伸びてきて、実をつけはじめたのもあるそうです。茄子も秋になってからのほうが元気がいいみたい。でも、夏からずっと入っているので、わるいけど今週は休んでもらうことにしました。

その代わり、青山さんが帰って来たので、牛蒡を掘ってもらいます。牛蒡、葱、生姜の三本立て。せっかく山の中で鋭気を養ってきたのに、こんなに働かされるんじゃ、また山に帰らなくっちゃ、などとぼやいていますが、そうそう休まれても困ります。がんばってください。

香りのいい新生姜はスライスして、軽く塩をあててから甘酢漬けにすると、きれいなピンクに染まります。色はきれいではありませんが、わが家ではこれを摺りおろしてジャムにしています。おろした生姜の半量ぐらい水を加え、生姜とほぼ同量の砂糖で煮るのですが、これは冬の必需品。風邪気味のとき、これをお湯で割って飲むと身体がぽかぽかして、喉の調子もよくなります。紅茶に入れると絶品。嗜好品としてもイケますよ。

風邪のひきはじめには、細かく切った葱とおろし生姜を味噌に混ぜ、それをお湯で割って飲むという方法もありますが、あまりおいしいものではありません。それよりも、小口切りにした葱と味噌を混ぜ、ご飯にのせて食べたほうが美味。牛蒡も細かくスライスしたものを、味噌で和えて食べてみてください。どちらも身体があたたまります。

好子さんの小かぶは味噌汁がおすすめ。これも身体が芯からあたたまりそうですね。間引き大根はさっと湯がいて胡麻和えに、小松菜は椎茸といっしょにスープでどうぞ。ほんのすこし椎茸を入れるだけで、香りがぐーんとよくなります。

来週は青首大根が入ります、そろそろ玉葱やじゃが芋もほしいところですが、どちらも収穫が遅れているそうです。収穫量も例年の半分以下になりそうだとか。北海道・旭川でも今年は旱魃が続いていたようで、その後、逆転して大雨続き。大変だったみたいです。