晩秋の香り

2010年11月第2週

今週の野菜セット

左から

先週はじめ、初霜が降りました。その前に木枯らし一番も吹いたそうですが、霜は早朝、木枯らしのほうは真夜中だったので、どちらも知ることなく、ぬくぬくと布団にもぐっていたのでした。

好子さん:(野菜のコンテナを抱えて入って来るなり)今朝、霜が降りてたでしょう。

わたし:ああ、降りてた、降りてた。真っ白だったね。

好子さん:えっ?うちのほうはうっすらと、だったんですけど・・・。

わたし:(あたふたしながら)あ、でも、うちは山の中なので・・・。

好子さん:あ、そうか。標高が高い分、霜の降りかたがちがうんだね。

こんな危なっかしい会話をなんとか無事に切り抜けながら、季節外れの汗などかいていたわけですが、朝夕、めっきり冷えこむようになり、こちらのほうはいやでも体感せざるを得ないようです。

朝の空気が鋭角的に尖ってくるころ、庭や畑の一角にタヌキの残り香が感じられるようになります。おしっこなのか体臭なのかはわかりませんけど、タヌキが姿を消してもしばらくは臭いが残り、あまりロマンテイックではないけれど、これがわたしにとっては晩秋の香りなんですね。

動物園でも、キツネ・タヌキの檻は遠くからでもそれとわかるほど、特徴のある体臭なのでみなさんもきっとご存じ。「臭かった」という記憶があるんじゃないでしょうか。ところが動物園で遭遇すると「臭い」ものが、庭先などで感じたときには懐かしさのようなものに変わるんです。不思議な化学変化が起きるのに加えて、タヌキが出没するのは寒い時期なので、そこだけ空気がふんわり、あたたかく感じられたりするんですね。

山の中よりも庭や畑、ふつうに車が通っているような道路脇などに、ちょっと前までタヌキがいたという痕跡が残っていますから、タヌキという漢字が獣偏に里というのは、きわめて正確な表現だというのがわかります。山の奥深く入ると、そこにある残り香はたいていキツネかイノシシのものですから・・・。このタヌキたち、人家の鶏などを狙うこともありますが、例年なら今ごろは柿を食べるのに忙しいはず。でも、今年は柿が不作なので、いったいなにを食べに来ているんでしょう。

好子さんから初霜の報告があったとき、霜のほうはさっぱりだったけど、その朝、裏庭にこの秋はじめての残り香があったんですね。ろくに食べるものもないのに、それ以降もタヌキは出没しているみたいで、なんだか申しわけないような気分。栄養状態がわるいと、疥癬のような皮膚病が流行りやすくなり、寄生虫も猛威を奮うので、冬のいちばん寒いときに体毛が抜け落ちたり、やせ細ったりするのです。

犬のジステンパーに感染して、ばたばた倒れることもある。タヌキと犬は病気も寄生虫も共有するので、タヌキの健康状態は飼い犬の体調を左右するものでもあったのです。ま、犬のほうは病気になっても治療できますが、タヌキはそうは行きません。無事にこの冬を乗り切ってくれるよう、祈るしかないみたいです。がんばってね、わたしはなにもできませんけど・・・。

人間は暢気に紅葉狩りなどしていますが、うつくしい紅葉の根元には飢えが広がっているんですね。このまま冬眠に入れば永眠しかねない動物たちもつらいけど、空きっ腹をかかえたまま冬を越さねばならない動物たちもつらいと思います。この冬、どれだけの野生動物が命を落とすことになるか、想像するこちらにもつらいものがありますが、すべては循環しています。

動物が死ねば、それを分解する虫や微生物が増え、それを養分にして森が豊かになる。森が豊かになれば、生き残った動物たちは子孫を残しやすくなる。大きな目で見ると、世界はプラスマイナスゼロになるように構成されているわけです。

見過ごすことができないのは、二十世紀後半から二・三分に一種の割で絶滅している動植物が、どういう形で補われているかという点です。人為によって滅ぼされたものは、人に牙を剥く病原菌に生まれ変わることによって、バランスを取っているのではないか。こうしている間にも、人知れず姿を消してゆく生命があり、その生命が次世代に残せなかった微少な種子が、渡り鳥によって運ばれ、わたしたちが発熱する・・・。

これが般若心経にある「不増不減」という宇宙法則だと思うのですが、非科学的だといって一笑に付すことができるでしょうか。そんなバカな、と一蹴されたほうが、安心して暮らせるんですけどね。

今週の野菜とレシピ

今週の青首大根、先週よりすこし大きくなっているでしょうか。木枯らしは吹いたら、食べたくなるのがおでん、ふろふき大根といった大ぶりの大根を使った料理。そろそろ、そんな大根がほしいところです。

ほうれん草京菜ルッコラ春菊と青ものは選りどり見どり。ほうれん草はおひたしの要領で湯がいてから、醤油と胡麻油、鰹節で和えてナムル風。京菜はサラダか一夜漬け、鍋ものに入れる場合も、しゃきしゃきした食感が売りなので最後に入れてくださいね。春菊も最後に入れてさっと火を通すのがおいしく食べるコツですが、これは和風の鍋に限りません。うちでは中華風の豆腐とエビの煮ものや、トマトソースがベースの煮ものなどにも香草がわりに春菊を使っています。

ラデイッシュはそのまま塩で丸かじりするのが一般的ですが、輪切りにしてルッコといっしょにフレンチドレッシング+醤油で和えても美味。

椎茸は届いたらすぐにザルに広げ、室内でいいですから半日ぐらい風干ししてからお使いください。すぐに使わない分は、適当に包丁を入れてから冷凍しておくと香りがいっそう強くなります。キノコ類は総じて風に当てると味が増し、冷凍すると香りがよくなりますので、市販のキノコを利用するときもひと手間かけておいしくしてからご利用ください。

来週は北海道から玉葱が届きます。が、今年は旭川でも猛暑と旱魃に祟られ、その後一変して大雨が続いたため、根腐れが多く、例年の三分の一程度しか収穫できなかったそうです。じゃが芋も同様で、こちらのほうはまだ収穫が終わっていません。今年は品質もよくないですよ、それでもいいですか?と聞かれましたが、やむを得ません。なるべく早く送ってください、とお願いしてあります。