スギナの異変

2010年5月第4週

今週の野菜セット

左から

冬の間、あれだけ賑やかだったヒヨドリが姿を消し、入れ替わりにスズメの客人が増えてきました。接待用の食糧もひと山いくらの少々難あり柑橘類から、これまた賞味期限ぎりぎりで半額になっているパンに変わります。

鍋底にへばりついたご飯粒なども撒いていますが、先日、土鍋を濯いでいつもの場所に撒いていたら、なんとも奇妙なものに遭遇。スギナの先にご飯粒みたいなものがついているのです。前日に撒いた米粒をスギナが持ち上げているのかと思ったら、さにあらず。なななんと、スギナが花をつけているのでした。スギナの花に相当するのは、みなさんご存じ、ツクシです。花粉の代わりに胞子を散らして繁殖します。ところがこの春、ようやくあたたかくなってツクシが出はじめたと思ったら、寒波に見舞われ、それっきりに・・・。ふたたびあたたかくなって出てきたときにはスカスカになっていました。つまり繁殖行動が満足にできなかったんです。

植物たちの婚期はつかの間。人間のように晩婚でも子供ができた、おめでとう、というようなわけには行きません。そこで思いあまって突然変異。ふやけたご飯粒のような花をつけたというわけです。人間は晩婚でも子供を授かることはできるけど、環境の変化に応じて自在に変われるかというと、それはできない。それもたった一代で突然変異なんて、そんな芸当、逆立ちしてもできっこないでしょう。

翌日、ご飯粒のひとつが開いて、小型の白クローバーのような花になっていました。ということは、繁殖方法も胞子から花粉に切り替えたということです。すごい。すごすぎる・・・。感動を通り越して、呆然と見とれていました。ふと我にかえって、ほかにもそういうスギナがないか、あちこち捜してみましたが、そんなものをつけているのは庭先の一角だけ。全部が全部、超能力の持ち主ではないとわかり、なんとなくほっとしましたが、いずれこの凡俗たちも変化してゆくのかもしれません。

あらためて自然界ってすごいなあ、と思い、わたしたちもその一部であるはずなのに、この不甲斐なさ、だらしのなさはどうだろう。これってやはり物質文明にどっぷり浸かっているせいかなあ、と思ったしだいです。

ではスズメやカラス、物質文明にどっぷり浸かった人の暮らしに依存している鳥はどうなんでしょう。やっぱりスギナほどの適応能力はないのかな。

どちらも稲作文化に依存して生きてきました。田圃に水が入ると、水生昆虫が増え、カエルが出てくる。それらが今の時期、カラスたちの主食になります。稲苗が育ちはじめると、そこに微少な虫が群がり、スズメたちがそれを捕食。そして稲穂に実が入ってくると、それもまたご馳走になるというわけで、田舎ではスズメもカラスも人間同様、田圃に依存して生きています。

ところが農薬散布で稲につく虫が減少。スズメの数も減ってきましたが、ひとつには営巣場所の問題もあると思うんです。スズメが軒下や家屋の一部に営巣すると、ダニが落ちるといっていやがられます。撤去されることもしばしばで、それではと苦情の出ない雨樋の中に巣を作るようになりました。これならだれにも邪魔されず、問題のダニは巣から落ちても梅雨どきの雨で流される。グッドアイデア、さすがでした。

ところが近年、ゲリラ豪雨などと呼ばれるものがしばしば発生。それによって巣が流される事件が増えています。梅雨どきの雨なら巣の下を雨が流れ、巣の中まで水が入ってくることはなかったのですが、集中豪雨となると浸水どころか、巣そのものが流されてしまいます。雨樋の水が落ちるあたりにスズメのヒナの死体がごろごろ。パイプの中には巣材が詰まって、雨樋からは水が溢れる。人にとってもスズメにとっても迷惑なことになるのですが、いまのところスズメが営巣場所を変更する気配はありません。だから、ますます数が減る。

その点、カラスは外敵がすくないので、巣に関しては人家に依存する必要はない。田圃がなくても住宅地にはゴミが豊富。繁栄を謳歌しています。スズメもここらでスウィッチを入れ直さないと、衰退の一途をたどることになりかねない。そうなると田圃のほうにも支障が出かねません。

カラスが捕食する水生昆虫やカエル。これはカラスがいなくても、サギが食べるし、逆にカエルなどいなくなっては困るわけです。ところが稲につく細かい虫はスズメにしか捕食できない。スズメが田圃に依存しているのとおなじぐらい、稲作もスズメに依存するところが大きかったのです。秋になってスズメが稲を食べるといっても、これは報酬みたいなもので、スズメがいなくなれば収穫量は確実に落ちるはず。

農薬があるからスズメなんかいなくなってもいい、などという輩もいるでしょうが、そんなことをいうやつにろくな米は作れないはず。数千年の長きにわたって稲作文化を支えてきたスズメたち。滅ぼすわけにはゆきませんよね。

最近になって物質文明に依存しはじめた野鳥もいます。シジュウカラ。これは高木の枝に営巣することになっているのですが、どういうわけか隣近所の郵便受けに営巣。うちの周辺はシジュウカラ銀座になりかけているんです。

うちのは開閉式なのでそういうことはないのですが、ポストが使えなくなった隣人たちは新たなものを用意したり、巣箱を作ったり・・・。毎年、この時期になると巣の保存に努めていますが、郵便受けなんて低いところにあるでしょう。入り口も出入りが簡単。そんなわけでヘビに卵をやられるケースが多く、ようやく卵が孵ったと思ったらペットの猫が殺してしまったり・・・。

すぐに巣が空になってしまうのでシジュウカラ?そんな駄洒落はともかくとして、こんなリスクの高い作戦は考えなおしたほうがいいんじゃないか。それがいっこうに変更される気配もなく、逆に狙われる郵便受けが増えているということは、自然界に異変でも起こっているんじゃないか。ひそひそとそんなことが囁かれるようになりましたが、ほんとうのところ、どうなっているんでしょうね。

今週の野菜とレシピ

作物の生育が遅れ気味なので、今週もスナップエンドウモロッコいんげんレタスきゅうりが抱き合わせ。どちらか一方が入ります。

玉葱は先週も入りましたが、今週から好子さんの新玉に・・・。収穫して間もない玉葱は甘みがつよく、オニオンサラダにする際も水にさらす必要がないぐらい。

らっきょうはひと皮むいて、同量の味噌とマヨネーズを混ぜたものでそのままお召しあがりください。薬味としてもご利用いただけます。

ルッコラはサラダ。小松菜はおひたしか胡麻和えでどうぞ。


*野菜たっぷりセットにはカリフラワーが入っています。ブロッコリー・ロマネスクというイタリア産で、日本ではスパイラル・カリフラワーなどと呼ばれています。

外観はわるいのですが、湯がくときれいな緑色になり、ふつうのカリフラワーより歯応えがいいのが特徴です。サラダや甘酢漬けでお召しあがりください。