トンビの巣立ち

2010年10月第3週

今週の野菜セット

左から

稲刈りが一段落すると、田園風景が心なしかゆったりとした感じになります。広大な原っぱと化した田圃では、カラスが落ち穂拾いをし、サギが冬眠前のカエルを探しています。そして、上空にはトンビ。見晴らしがよくなったので、野ネズミやモグラが捕まえやすくなったんでしょう。ここへ来て、数が増えてきました。

作物や草の生い茂る夏の間、トンビはどこでどうやって狩りをしているんでしょう。トンビの数が増えるのは、田畑が格好の餌場になっただけでなく、ヒナたちが巣立ったせいもあります。今はまだ、親子いっしょに行動しているんですね。

先日、山歩きをしているときに奇妙な声を耳にしました。ミャオー、ミャオーという甲高い声で、一瞬、また捨て猫か、と身構えましたが、声は上空から聞こえてくるようです。大急ぎで見晴らしのいいところへ移動。トンビの姿を見つけたときは、やったあ、と叫んでいました。息を切らしていたので、喘ぎ喘ぎでしたけど・・・。

ピーヨが繁殖に成功していたのです。ふつう、トンビはピーヒョロヒョロヒョロと啼くものですが、ピーヨ・ピーヨと啼く幼鳥を発見したのが一昨年。幼鳥だからピーヨ・ピーヨだけど、もうじきピーヒョロヒョロヒョロになると思っていましたが、その子はいつまで経ってもピーヨ・ピーヨのままでした。だから目立つのです。

ピーヨと名前もつけました。ピーヨがオスかメスかわかりませんが、この春、ひとまわり小ぶりなトンビといっしょにいたので、勝手にオスと判断。でも、啼きかたがあれですから、ちゃんと繁殖できるかどうか、一抹の不安があったのです。

昨日、ピーヨとミャーオのデユエットが聞こえてきたので、見上げるといました、いました。お父さんと子供、そしてすこし離れたところにお母さん。うれしくて赤飯でも炊きたい気分でしたが、トンビは子供にテリトリーを譲って、親鳥はもうすぐ姿を消してしまいます。つまりわが家の上空からピーヨがいなくなるわけで、これは寂しい。ピーヨのいない人生なんて・・・。

代わりに子猫みたいな甲高い声のトンビが残るわけですが、ミャーオが父親か母親になったとき、その子供はどんな啼きかたをするんだろう。それもまた気にかかることではあります。

日本語が乱れているといわれはじめて久しいけれど、自然界にもそれが波及しているかのよう・・・。ピーヒョロヒョロヒョロがピーヨになるのは「こんにちわ」が「ちわー」になるようなもの?

ちがうとは思いますが、ウグイスだって注意深く聞いていると、みんながみんなホーホケキョとは啼いていない。ま、ホーホケキョが基本ではあるのですが、それぞれ啼きやすいように啼いている感じです。それよりもケキョケキョケキョという前奏部分に力を入れているようで、異性の気を引くためにさまざまな工夫をこらしているみたいですね。聞いてるこっちが息苦しくなるぐらい、長い長いイントロを一気に歌い上げる強者もいます。

カラスの啼き声もみんなちがって個性的で、台本をそのまま読んでいるみたいなカアカアはむしろ少数派。この事務所ちかくには、透き通った声でキョロン・キョロンと啼く美声の持ち主がいますし、アヤ・アヤと娘の名前を呼ぶのもいれば、ワン・ワンと紛らわしい啼きかたをするのもいる。ま、もともとカラスは物真似名人ですから、どんな啼きかたでもできるんでしょうけどね。

すこし前、言語学者の金田一春彦氏が「言葉は生きもの」といっているのを聞いたことがあります。日本語が乱れているというけれど、日本語は古来乱れ続けてきたわけで、そうでなければわたしたちは今だに「あなかなし」とか「いとあはれ」などといっているはず。生きているものだから、どんどん変化するのがあたりまえ。それをあれこれいうほうが野暮なんだそうです。

なるほど、金田一春彦さんぐらいになると、そこらへんの小うるさいオジサン、オバサンとはいうことがちがうなあ、と思いましたが、でも凡人はやっぱり気になる。若者言葉はまだいいとしても、英語を直訳したみたいな言葉遣いや、どうみても文法ちがっているだろ、みたいな日本語が公の場所でまかり通っている。これには神経を逆撫でされるような違和感があるのですが、そういうのも金田一さん、いいんでしょうか?

ピーヒョロヒョロヒョロがピーヨになり、ニャーオになっていくのとはちがった意味で気になるところです。言葉は生きものであると同時に文化でもあるわけで、トンビもカラスもウグイスも好き勝手に啼きはしても、文化の部分までは変えていないはず。そこまで変えてしまったら、トンビはトンビでなくなり、カラスはカラスでなくなってしまうからで、日本人が日本人であり続けるためには、基本的な文法ぐらい守ったほうがいいんじゃない?

話が飛んでしまいましたが、トンビの親子は今朝も仲良く啼き交わしながら、悠々と上空に弧を描いていました。また話が飛びますが、トンビに油揚げっていうのはほんとうなんですよ。かなり上空を飛んでいても、油揚げを見つけると急降下して来ます。毎年、ささやかな巣立ち祝いにしているしだいです。

今週の野菜とレシピ

馬田さんの椎茸が登場しました。菌床にシルクプロテインを使用、マイナスイオン発生装置のもと、じっくりと低温で生育させた椎茸なので、香りも食感もふつうの椎茸とはちがいます。

そろそろ牡蠣が出回りますが、わが家で牡蠣フライをするときには、かならず椎茸にも衣をつけていっしょに揚げるのですが、主役の牡蠣よりもこちらのほうがおいしいぐらい。すだちかレモンを絞って、塩少々でどうぞ。

里芋は一時間ぐらい水に浸けておくと、包丁の背で簡単に皮が剥けます。あっさりと里芋だけを出しで煮るか、鶏肉といっしょにボリュームのある煮物にするか・・・。

山形風芋煮

山形風の芋煮では牛肉を使います。霜降りでなくても、肩ロースあたりで十分ですから、それをすきやきの要領で炒め、砂糖と醤油でしっかり味をからませます。そこに酒少々と水を加え、里芋も加えて落とし蓋をして15~20分。お好みで七味唐辛子をふってください。

間引き大根のそぼろ

ご飯にのせるととってもおいしい間引き大根のそぼろ

間引き大根も挽肉といっしょに炒めると、子供がよく食べてくれます。葉っぱと大根を分けてさっと湯がいたら、すぐに水に取って冷まします。それを細かく切っておきます。フライパンに油を熱し、挽肉を炒めて醤油と砂糖少々でしっかり味をつけておきます。そこにぎゅっと絞って水気を切った大根と葉っぱを加え、塩とオイスターソース少々で調味。火を止めてから煎り胡麻をたっぷり加えます。これはお弁当のおかずにもなります。

京菜と納豆の和え物

京菜は細かく切って、軽く塩をしてから納豆で和えると美味。納豆が多ければご飯のおかず、京菜のほうが圧倒的に多ければサラダになり、これにオリーブ油と醤油、焼き海苔を細かく切って散らすとさらに美味。尚、サラダにするときは、京菜を塩でしんなりさせる必要はありません。


来週は青山さんが帰ってきます。十分に休養できたでしょうから、牛蒡を掘ってもらいます。大根もそろそろ出てくれるといいですね。