春の気配

2010年3月第2週

今週の野菜セット

左から

春の陽気になったと思ったら、今週はまた寒さがもどってくるようです。雪景色も復活しそうな気配。梅の花は満開なのに、ウグイスの声が聞かれないのは、まだまだ冬が居座りそうだから?それでも庭先では、水仙やクロッカスが顔を出し、春の気配を匂わせはじめました。

山の中を歩いていると、せせらぎの音が聞こえてきます。冬の間、かじかんで静まりかえっていたわき水が、呪縛から解き放たれたように流れはじめたのです。春の小川はさらさら行くよ、という唱歌が蘇り、ああ、あれはこういう状況を歌っていたのか、と今ごろになって気づいたしだい。あの小川の「さらさら」は喜びを全身で表していたんですね。

この唱歌の舞台になった小川は渋谷の駅前にあったそうで、今はスクランブル交差点の下でドブ臭い淀みになっているとか・・・。車や人の往来には便利になったかもしれませんが、暗渠となった小川は窒息し、人もまた春を告げる喜びの音を聞くことができなくなった。喜びの歌は、背景がわかると一転して悲しみの歌になる、というおまけつきです。

しかし、考えてみたら冬という長い季節があるからこそ、短い春という季節が生きるわけで、これがないことには春が待たれることもなく、喜びが歌われることもなかったわけです。しかもプレゼントというのは、焦らされたほうがもらったときの喜びも大きい。というわけで、腰の重い冬とももうすこしの間、仲よくしておいたほうがよさそうですね。

この時期の山歩き。木々の芽のふくらみを見てまわるのも楽しみのひとつです。コナラをはじめ、雑木の新芽がかたい米粒大から、ふっくら炊きあがったご飯粒大になり、辛夷の花芽はもうアーモンド大。朝飯前のせいか、どれもおいしそうで食欲をそそります。

神棚でおなじみの榊はよく見ると、スズランを小粒にしたような可憐な花をつけています。ちいさな花を葉っぱの陰に隠しているので、ただ通り過ぎたのではわからない。だからこの花を見ると、なんだか宝物でも見つけたような気分になります。

これを受粉させる虫は、おそらく地面から茎を這い上がってくるのでしょう。いったいどんな虫なのか、それはまだ謎。虫のついた花がないか、道ばたの榊の枝をめくってみますが、いないんですよねえ。圧倒的に雄が多く、花がついているのが稀なぐらいですから、当分これは謎のままかもしれません。

上のほうに気を取られていると、ぬかるみに足を取られるのもこの時期ならではで、凍りついた地面がゆるんでくるため、場所によっては靴を取られることがあるぐらい・・・。その靴を引っこ抜いた拍子に尻餅をついて、泥まみれになったこともあります。でも、そんなことがみんなうれしい。泥水に体温を奪われて震えあがっても、すぐにあたたかくなることがわかってますからね。

ただ、花粉症の人にはつらい季節になりそうです。こちらには「びわ健」という強い味方がついていますので、お困りの方はいつでもどうぞ。花粉症にかぎらず、悩みごとは相談していただければ、お役に立てることもあります。遠慮なくお電話ください。

今週の野菜とレシピ

今週は青ものが豊富です。小松菜あぶら菜京菜からし菜ほうれん草と緑一色になりました。

この時期は一年中でもっとも寒暖の差が大きく、身体にもストレスがかかります。身体にストレスがかかるとどうなるかというと、それを緩和するためにミネラルが多量に消費されるのです。それが不足してくると、知らないうちに骨からカルシウムが引き出されることになり、親の知らないうちに子供がカードを作って、預金が使われるみたいなことが起こるわけです。

これといった自覚症状がないのが難点で、気がついたときには預金がゼロになっている。銀行はそうなるまでなにも教えてくれませんが、身体のほうはちゃんとサインを送ってくれます。骨の中のカルシウムが使われるようになると、身体は休眠状態に入ろうとします。春眠暁を覚えず、というのがそれで、朝起きづらい、身体がだるいという症状があれば、ミネラルが不足している証拠。

それを防止するために、春になるとあぶら菜というミネラルの中でもとくにカリウムの豊富な青菜が出てきます。生体というのは複合的なシステムですから、カルシウムが足りないからといって、カルシウムの豊富なものを補給すればいいというわけではありません。牧草を食べる牛がカルシウムの塊みたいな角を生やし、カルシウムたっぷりのミルクを作り出すように、わたしたちも体内でカリウムという原子をカルシウムに転換して蓄えているのです。だから一年中でもっとも青菜が必要とされることになるんですね。

小松菜からし菜もあぶら菜の仲間です。たっぷりと召し上がっていただきたいところですが、これだけ青菜が勢揃いすると、なにがなんだかわからなくなりそうです。小松菜、京菜は見慣れているからわかりますよね。ほうれん草も一目瞭然。問題はあぶら菜とからし菜です。

葉っぱがギザギザで、厚みがあるのがあぶら菜で、からし菜はそれよりも葉が薄く、幅広です。色もあぶら菜より薄く、黄緑色にちかいのがそれ。そのまま湯がいてしまえば辛みがなく、あぶら菜同様、おひたしになってしまいますが、生のまま熱湯をまわしかけるとツーンと鼻をつく香りとともに、特有の辛みが出てきます。きざんで一夜漬けにしてみてください。

あぶら菜のかりかり焼きそば

この時期になるとお昼に作るのが、あぶら菜のかりかり焼きそば。用意するのは厚揚げ一枚、生姜ひとかけ、それに市販の焼きそば用の麺で、まずフライパンに油を多めに入れ、強火で焼きそば用の麺を炒めます。麺はかたまりのまま入れて、けっしてかき混ぜないこと。表面に焦げ目がついてかりかりになったら裏返し、油を足します。油が少ないと、かりっと仕上がらないからです。

焼きそばに焦げ目がつくまで、けっこう時間がかかりますから、その間に上にかける餡を作ります。もうひとつのフライパンに油を敷き、みじん切りにした生姜を入れ、5ミリ厚さに切り揃えた厚揚げを炒めます。あぶら菜も加えて、しんなりしてきたら水カップ1杯半~2杯入れ、塩、胡椒、オイスターソースで調味。隠し味に酢もすこし加えます。片栗粉でとろみをつけて、香り漬けの胡麻油少々を入れ、焼きそばにかけますが、かたまりのままだと食べにくいので、皿の上でほぐしておいてくださいね。お好みで練り芥子を添えてどうぞ。