非常事態・その2

2010年9月第3週

今週の野菜セット

左から

朝夕の気温が下がって、日中の暑さもしのぎやすくなってきました。まだ暑さが残っている地域も、今週あたり、涼しくなるんじゃないでしょうか。

待ちに待った秋風が吹きはじめ、夏の間、外泊することが多かったうちの犬も、ようやくベッドにもどって来ました。外泊といっても軒下にいるんですけど、こちらは蚊に刺されやしないかと気が気じゃなく、蚊取り線香を出してやる。すると煙を嫌ってどこかへ行ってしまうといった空回り。寝ていてもなんとなく落ち着かない日々が続いていました。

犬も猫も寄りつかず、大の字になって寝られるのはいいけれど、窮屈でも心配のないほうがぐっすり眠れますものね。ようやく熱帯夜からも解放されて、ほっとひと息つけそうですが、肝心の雨のほうはさっぱりみたいです。

期待された台風9号。明け方からポツポツ降りはじめ、昼間もポツポツ。夕方になって、さあ、これからだぞ、というときにそのポツポツも止み、それっきりになってしまいました。

豪華なデイナーになるはずが、オードブルをちょこちょこっと出されただけで、はい、おしまい、みたいな感じで、詐欺だあ、金返せえ(払ってませんけど)とわめき散らしながら、空きっ腹を抱えて帰ってくる。そんな惨めな晩餐会、いえ、台風でした。

栃木県北が雨というときも、このあたりは降らず、県南が雨といっても降らない。どこにも属さない真空地帯。今も栃木県全域に傘マークが出ているのですが、上空の雲は薄く、あまり期待はできないようです。

えらいところで農業などしているものですが、かつてこのあたりは雷が名物というぐらい雷雨の多いところで、益子GEFの設立当時、野菜の名前をどうするか。「雷野菜」がいいんじゃないか、ということになり、実際、そういう名前で出荷していた時期があったぐらいです。

それがこの体たらくですからね。日中の気温が今年のように高いときは、積乱雲が発生するものですが、どういうわけかそれもない。ポツポツ程度の雨でも、好子さんは小松菜の種を蒔いたそうですが、運よく発芽できたとしても、このまま雨がなければ虫に食われて消滅しかねません。真剣に雨乞いでも考えたほうがいいのかもしれませんね。

わたしもいつか雨が降ったときのために、種蒔きの準備ぐらいはしておこうと思うのですが、乾燥しきった畑に耕耘機など入れたら、砂埃でなにも見えなくなってしまいそう・・・。九月も半ばになろうというのに、大根もカブも蒔けないのですから、お先真っ暗。青山さんは畑にニンジンを作るのを諦めて、家の裏手にあった花壇を潰して種蒔きをしたそうです。そこなら散水ができるからですが、畑で作物が作れないようじゃどうしようもない、とぼやいているようなしだいです。

異変は農地ばかりではありません。この夏の猛暑で山の中の木の実も不作。あちこちでクマが衰弱死しているといいます。本州にいるツキノワグマはこの時期、ドングリを主に食べながら冬眠に備えます。リスなどの小動物は秋も深まって、茶色くなった木の実を集めますが、クマはまだ青く、やわらかいドングリしか食べません。

そのドングリをつけるカシもコナラもクヌギもブナも、みんな酷暑に耐えるため、花を落としてしまったようです。実などつけてる余裕がなかったもんだから、山の中は飢餓状態。生き残ったクマも、食べるものがなくなると里に下りてくる。下りて来たら殺されること必定で、運良く追い返されたとしても、食糧の枯渇した山の中では生き残れない。これからそういうニュースが増えると思うと気が重くなってきます。

野菜不足のことで頭がいっぱいだったけど、裏山のイノシシたちも木の実が不作となれば飢えているはず。先日、隣家の家庭菜園からカボチャがみんな消えてしまったそうで、悔しがる隣人に、イノシシはふつうカボチャなんか食べないけど、よっぽど出来がよかったんじゃない?イノシシに食べられるなんて、名誉なことだと思わなくっちゃ・・・。そんな慰めかたをしたのですが、状況はもっとせっぱ詰まっていたと見えます。

うちの青大豆も実が入ってきたら、まちがいなくやられるでしょう。毎年、半分残してくれたら来年もまた作るからね、と念じながらやっていて、実際そのとおりになっていたのですが、今回は非常事態です。全部食べてもいいよ、に変更せざるを得ないようです。もっとも、うちの大豆を全部食べたところで、どれだけのイノシシが生き残れるかわかりませんけど・・・。

イノシシが死に絶えて激減すれば、農家はみんな喜びそうです。が、イノシシが生き残れないような環境は人間にとっても過酷なはず。畑でなにも作れなくなるよりも、豊饒を分かち合って共存共栄。増えすぎたらときどき間引いて、肉をいただく事があってもいいけど、ヒトがもうすこし寛容になり、野生と共存できるようになれば、田園地帯の風景が一変するはず。気候ももっとおだやかになるんじゃないかと思うんですけどね。

今週の野菜とレシピ

今週のメインは高橋梅子さんのさつま芋。ふつう、さつま芋というのは掘りたては甘みがなく、すこし空気にさらしてから使うものですが、旱魃のおかげで今年はそんな必要がないぐらい、甘くおいしく仕上がっています。

初物はいちばん味のわかりやすいふかし芋がおすすめ。大きいものは半分に切って蒸します。ひとつ目はなにもつけずに、さつま芋そのものを味わい、ふたつ目からはお好みでバターを載せたり、塩をふったりしてどうぞ。男の人には不評かもしれませんが、さつま芋と葱の味噌汁というのもおいしいですよ。

野沢さんに頼みこんで、ニラを出してもらいました。スタミナ食の代表みたいなレバニラ炒め、レバーを油揚げで代用することもできます。ニラ玉やチヂミも、暑さに疲れた身体にはおいしく感じられるでしょう。豆腐とニラの味噌汁もおすすめです。夏バテ対策には味噌という発酵食品がいちばんですからね。

芋茎(ズイキ)は先週、さっと湯がいて胡麻酢和えをおすすめしましたが、今週はきんぴらにしてみましょうか。これも3センチぐらいに、皮をつけたままざくざく切って湯がいてから炒めます。味つけは軽く醤油をまわしかけるだけ。ほんのりした甘みを味わうためには、濃い味つけは禁物です。しゃりしゃりした食感が身上なので、湯がきすぎ、炒めすぎにも注意してくださいね。

芋茎も2~3本残しておいて、味噌汁に入れてみてはどうでしょう。生のまま放りこんで、ひと煮立ちさせたら小口切りの葱を加えてください。茄子と空芯菜の味噌汁もおすすめ。

暑さがやわらいできたところで、夏の間、敬遠しがちだった味噌汁を復活させ、長かった夏の疲れを癒してください。秋風が立ちはじめたときの味噌汁って、身体中に染みわたるように感じられるもの。きっと身体が欲しているのだと思います。