カラスは見ている

2009年1月第2週

今週の野菜セット

左から

年末から冷えこみが強く、この冬はひさびさに厳冬という言葉が復活した模様。ラニーニャ現象の後押しもあって、冬将軍、がんばっているみたいです。

昨夜の雨が凍りついて、つるつるになった路面で今朝、思いきり尻餅をついてしまいました。これぐらい見事に尻餅をつくと、星が見えます。漫画さながら、お星さまが目の前を旋回するんですね。何十年も前、スケートリンクで経験して以来の出来事。そのとき、漫画って誇張してはいるけれど、意外とリアルな描写をしていたんだな、と認識をあらためたのでした。

早朝のことなので、カラス以外に目撃者がなく、痛みもほとんどなかったのがさいわいでしたけど・・・。あまりの寒さに、感覚が麻痺していたのかもしれません。日が高くなると路面の氷が解けだすように、身体があたたまってくるにつれ、尾てい骨に鈍痛が感じられるようになってきます。これぐらい派手に尻餅をつくと、尾てい骨より背骨のほうがショックを受けやすいといいますから、そっちのほうがちょっと心配。みなさんも凍結した路面には気をつけてくださいね。

犬もいないのに早朝から歩きまわっているのには理由がありまして、恥ずかしながら最近になって、夜が明けるとき、世界がもっともうつくしく見えるということに気づいたからです。ちょっと遅いんですけどね。

生来、低血圧症で朝が苦手。年を取ってくるといやでも早起きになる、という俗説を信じて、それだけを期待しながら年を重ねてきたようなものですが、四十の坂を過ぎてもあいかわらず寝覚めはわるく、五十代に突入してもさっぱり。未だに目覚まし時計の助けなしには起きられない有様です。その時計のベルだって、知らないうちに止めてしまっているという体たらく。

それでも去年の夏あたりから、すこしずつ起床時間を早めていったら、農家ほどではないけれど、なんとか早起きができるようになってきました。そうして歩きはじめたら、なんと見慣れた景色の神々しいこと。思わず新聞配達のお兄さんに嫉妬したぐらい・・・。

山の端に朝日が溶け出して輝いたと思ったら、つぎの瞬間、真っ白い陽光が一本の道のようにこちらまで伸びてくる。その中を、どこかの家から放たれた伝書鳩が、光を分散するかのように上下左右、自在に飛びまわります。何本にも増えた光の道がかき消されたとたん、太陽の真っ赤な頭が山の向こうに見えてきます。これまでこんな景色も知らずに暮らしていたのかと思うと、大損でもしたような気分になったのでした。そんな一生の不覚を取りもどすべく、朝の散歩をはじめたのですが、その時間帯というのは野鳥も寝起きなのか、気を許しているようなところがあります。スズメは枯れススキの中を塒にしているらしく、原っぱ全体がさえずりに満ちていて、わきを通ってもにぎやかなおしゃべりは止みません。河原の葦の中にいるサギも、いつもなら人が近づいただけで飛び立つのに、悠然と羽づくろいをしているといった具合。

早起きのカラスはもう空を飛んでいて、わが家の上空にいるグループから情報でも得ているのか、わたしの姿を見るといっせいに集まってきます。のみならずおねだりでもするように、背後からわたしの脇をかすめて、数メートル手前に降り立つのです。これを頻繁にやられると手ぶらで散歩はできません。今ではリュックをかついで、早朝の景色もそっちのけでカラスの相手。それはそれで楽しいんですけどね。

ご存じのように日本在住のカラスには二種類あって、都会にいるハシブトと呼ばれる嘴の大きいのと、田舎のハシボソ。もともと日本にいたカラスで、身体もハシブトよりひとまわり小さいタイプです。

このあたりのカラスはハシボソですが、ここ数年ハシブトが増えてきました。ハシブトはジャングル・クロウという別名があり、もともとはジャングルに生息していましたが、コンクリートジャングルにも適応。日本の都市にビルが増えるにつれ、その数も増えてきたのでしたが、どちらかというと平坦な田園地帯は苦手なはずです。

それがこれだけ数を増やしているのは、野鳥の捕獲は禁じられているはずなのに、東京都知事が独断でカラスの駆逐などはじめたからで、住みづらくなったカラスが埼玉に流れ、そこが飽和状態になると群馬や栃木にあふれ出し、流れ流れて益子の山中まで来てしまったのではないかと思われます。いってみればカラスの難民。

難民が増えてくると、地元のハシボソがより条件のわるいところに追いやられます。身体の大きさから見ても、ハシブトのほうが強そうですからね。都知事の鶴のひと声で、こんなところの生態系まで変わってくるのですから、権力者って怖い。本人がそんなことには気づいていないのが、もっと怖いと思いますけど・・・。

わたしの周囲に集まってくるのもハシブトで、遠巻きにしているのがハシボソ。ハシブトのほうが人を恐れず、馴れやすいというのはありますが、地元民のハシボソが遠慮がちにしているのを見ると歯がゆくて、しっかりしろよ、といいたくなります。

唯一の救いは、かれらが混在していることで、厳格に棲み分けてはいないという点。ハシブトとハシボソの混血が生まれることはないといいますが、ファミリーになることはなくても、カラスには異文化を許容する寛大さがある。これこそ、人類に求められていることで、早急に見倣いたいものですね。

今週の野菜とレシピ

今週は大根、にんじん、牛蒡と根菜類が中心になりました。

路地の大根は例年にない寒さのため、なかなか生育することができない上、地上部が凍結を繰り返していると中がスカスカになったりするので、練馬大根サラダ大根の二種が入ります。

サラダ大根は青首大根のような外見。短冊に切って鰹節をのせ、二杯酢をかけたさっぱりタイプのサラダもよし、千六本に切ってかに缶やハムの細切りなどとマヨネーズ+醤油で和えてもよし。半月に切って、甘酢に漬けてもおいしいですよ。

練馬大根は先端と首が細くなった、ずんぐりした体型で、本来は煮物用。でも、サイズが小ぶりなので味噌汁などにご利用ください。煮物用の大きめの大根は、今、好子さんのビニールハウスで育っています。

春菊は有機栽培とそうでないものと、そのちがいがもっとも顕著にあらわれるので、益子GEFの看板みたいな野菜です。はじめての方は、葉先を生のまま食べてみてください。甘さとやわらかさ、香りのよさに驚かれるはずです。春菊とりんごのサラダ、さっと湯がいて胡麻酢和え、かるく湯通しした春菊にみじん切りの葱とおろしニンニクを少量加え、醤油と胡麻油で調味したスッカナムルもおいしいですよ。

京菜のちょっと変わったサラダ。ネギトロ用マグロを買い求め、京菜の根元の白い部分をみじん切りにしたものといっしょに並べます。塩をふって、それを混ぜながらいただきますが、これが醤油ではおいしくないのです。なぜが塩味。おかずにはなりませんが、日本酒、白ワインにとてもよく合います。ガーリックトーストにのせても美味。残った葉の部分はスープに入れてしまいましょう。

ルッコラも同様に、アボカドといっしょに塩で食べるとおいしいのですが、ルッコラはみじん切りではなく、おおざっぱに包丁を入れ、オリーブオイルをからめておきます。アボカドは過熟気味のやわらかいものを選ぶのがコツで、こちらのほうにはレモン汁をからめてください。これもお酒とトーストに合いそうですね。