虫の異変

2009年9月第2週

今週の野菜セット

左から

実りの秋、というよりも今年は、翳りの秋。そんな形容がふさわしい、いつもとちがう空気が感じられます。

裏庭のイチジクが色づいてきたというのに、黄色スズメバチの姿が見えない。例年なら実が熟してくると、大挙して押し寄せてくるのです。ひとつずつ、かれらと交渉しながらイチジクを収穫するのが面白いのであって、今年のようにご自由にお取りください状態では、どんなに果実が甘くてもなんかもの足りない。味気ないのです。

ほどよく熟したイチジクをゲットできても、いざ食べようとすると、中から果汁にまみれたカナブンが這い出してきたりするのですが、今年はそれもない。そういえば夕飯時、明かりのまわりをうるさく飛びまわるカナブンも、今年はほとんど見かけなかったのでした。食事を中断されることもなく、さわやかではあったのですが・・・。

夜間、網戸にカメムシが集まって、あたかも星空のような体をなしながら、なにを思ったかいきなり警戒臭を発しはじめ、あわてて窓を閉めるといったことも、そういえばこの夏は起こらなかった。夏のはじめ、あれだけ雨が降ったにもかかわらず、蚊の発生もひかえめでした。ナメクジもカタツムリも見かけなくなっています。

なにかが虫の世界で起こっている・・・。そんな不安を感じさせる秋です。

虫がいなくなれば、無農薬栽培が容易になるし、人の暮らしも快適になる。それのどこがわるいのか、と思われるかもしれません。でも、虫がいなくなってしまったら、無農薬栽培どころか、農業自体が成り立たなくなってしまうのです。果菜の受粉はすべて手作業。茄子もトマトもピーマンも、庶民には手の届かないものになってしまいます。ましてや果物など、滅多に口にできなくなってしまいそう・・・。

虫がいなくなれば、カエルも生きてゆけなくなるでしょうし、カエルを捕食するヘビもいなくなる。多くの鳥類が打撃を受け、ツバメも渡って来なくなるでしょう。生態系全体が狂ってしまうのです。当然、その頂点に立っているかに見える人類も、影響を受けざるを得ません。

虫がいなくなるといっても、すべての虫が消えるわけではありません。哺乳類から吸血するもの、すなわちノミやシラミ、南京虫といったいわゆるベッドバグは逆に増える可能性があります。蚊も吸血昆虫ですが、それはメスだけで、オスのほうは草食なのでどうなりますか。もっとも蚊が絶滅するようじゃ、いよいよ人類も危なくなって来るでしょうけどね。

要するに、イヤなものの存在も認めてやらないと、わたしたちも生きてはゆけないということです。快適な生活を追求することが自分の首をしめることになるなんて皮肉なことですが、生物界全体が青息吐息になっているのに、人類だけがぬくぬくと生きていられるわけがない。どこかで我慢しながら共存を計らないかぎり、わたしたちもまた、見かけはカラフルなゴキブリホイホイの中でもだえ苦しむことになりかねません。

この虫の減少の一端を担っているのが、ネオニコチノイドという農薬ではないかとささやかれています。

ネオニコチノイドとはなんぞや?はい、名前の通り、ニコチン主体の農薬で、ニコチンはわれわれ哺乳類にとっては「喫煙は肺ガンの発生率を高めます」という程度の毒性ですが、昆虫類には致命的な働きをします。植物が自己防衛のため、ニコチン系のアルカロイドを作り出すところからヒントを得て作られたそうですが、タバコなどはその最たるものだったんですね。

草食昆虫の体内にこれが入ると、脳が冒され、アルツハイマー状態になるそうです。ここはどこ、わたしはだれ?状態になった虫は、結局食べものを口にできず、巣にも帰れず死に至るのですが、哺乳類には無害なので、理想の農薬とも呼ばれているそうです。

わたしたちが野菜の種を買うとき、注意しなければいけないのは、種に防虫加工が施されているか否かで、加工が施された種は不自然なピンクやブルー、ときにはメタリックな輝きを帯びていたりするのですが、こういう種から発芽して生長した野菜は葉っぱの先までネオニコチノイドに満たされているのです。だから地中で根を食う虫も、葉っぱを食う虫も、茎にしがみついたアブラムシも、みーんな脳がやられて死んでしまうのです。だから農薬散布も不要というわけ。

でも、ちょっと待って。そんなものが蔓延してしまったら、草食昆虫ばかりでなく肉食昆虫も被害を受けることになる。数年前、アメリカやヨーロッパで騒がれた蜜蜂の大量死にもこれが関わっていたといいますから、怖い話です。そんなおそろしいものが、農家が利用する専門店だけでなく、スーパーやホームセンターの棚にも平然と並べられている。わたしも何度、購入したばかりの種を焼却処分したことか・・・。自分の畑の生態系が壊されたのでは、元も子もありませんからね。

みなさんも不自然なカラーコーテイングが施された種に出会ったら、もったいないけど捨ててしまってくださいね。

今週の野菜とレシピ

先週の枝豆、はっきりいって失望された方も多いのではないでしょうか。わたしも食べてみて、甘みがほとんど感じられないのにびっくり。好子さんのものとは思えない豆だと思いました。この夏前半の長雨で生育がわるかったところへ、後半の乾燥で実がなかなか大きくなれなかった。そこへ持ってきて夜間の冷えこみ。豆が萎縮していたんだと思います。申しわけありませんでした。

おなじ豆でも、地中に実をつける落花生は弊害を免れることができたようです。生落花生は海水ぐらいの濃度で塩茹でし、そのまま冷ましてください。水気をよく切って、食べきれない分は冷凍保存も可能です。

表皮の赤いじゃが芋は、原種にちかい小粒タイプ。中身はふつうのじゃが芋とおなじです。味噌汁、サラダ、揚げものにご利用ください。素揚げにするときには、皮つきのまま二度揚げすると皮が気にならず、味もよくなります。

空芯菜は胡麻和えがおすすめ。茎の食感がポイントなので湯がきすぎないでくださいね。葉先は残しておいて、味噌汁に浮かべてみてはどうでしょう。

青菜が登場するにはまだ間がありそうです。頭のいたい端境期が巡ってきました。秋・冬野菜の生育まで、時間がかかりそうですが、しばらくご辛抱くださいね。