生ゴミ堆肥という魔物

2009年4月第3週

今週の野菜セット

左から

あたたかさを通り越して初夏。今週も汗ばむような陽気が続きそうです。

桜が散ってしまう前に、と先週は大急ぎでお弁当を用意。事務局近くの公園で、恒例の花見をしてきました。酒抜きの簡素な宴ですが、やっぱりこれをやらないと季節から取り残されてしまいそう。ちゃんと春にならないのですから妙なものです。

山の中を歩いていると、ほうぼうから鳥の声が聞こえてきます。キジやコジュケイのにぎやかな声に混じって、ウグイスの声。それに虫の羽音が加わると春も盛りになるのですが、先日、耳元でハナアブの羽音を聞きました。

毎年、事務局の屋根の下に営巣しているアシナガバチも、先週あたりから動き出しました。縁の下あたりで越冬していた女王さまが目をさまし、巣作りを開始したのです。はじめは五部屋ぐらいの小さな巣に卵を産みつけ、それが孵って一人前になると巣がどんどん大きくなっていくという寸法。アシナガバチの羽音がにぎやかになるころには夏野菜が登場してきます。

今年はツバメの飛来も例年より早く、先月末には軒下を物色していましたが、また姿を消してしまいました。今、庭先に来ているのはヒヨドリとムクドリ。どちらも渡りを目前にしているせいか、食欲が旺盛で、低木の枝に挿したパンが見る見る小さくなってゆく・・・。家人が何度も補給するのですが、それでも足りずに奪い合い、地面にパンの粉やかけらが散らばります。それをスズメたちが啄んでいるといった具合。

この行儀のわるい連中がいなくなるのを、ツバメはどこかでひっそり窺っているのかもしれませんね。

そんな生命の輝きに満ちたときに、読んでいるのが「本当は危ない有機野菜」(松下一朗著・徳間書店)という、気が重くなるような本です。タイトルを見て、なんだとお?と思い、取り寄せたのですが、予想していたような独断と偏見の書ではありませんでした。

ここで問題になっているのが生ゴミ堆肥。エコブームの中で急速に広がりつつある生ゴミの再利用が、じつは危険と警鐘を鳴らしていたのでした。大部分が輸入食料品である生ゴミを田畑に入れると、どういうことになるか。残留農薬、重金属、抗生物質が田畑に蓄積され、感染症とアレルギー、さらに薬物耐性のある病原菌が出現するという悪夢のシナリオが綴られています。

益子GEFも十年ぐらい前、この生ゴミ堆肥の使用を勧められたことがあります。長いつきあいの農家でしたが、GEFの設立当時は若手だったのが、すっかり大家になって、山形県では有力者になっていました。そんな人がエコロジーの先駆者となり、わたしたちにも生ゴミ堆肥を使えといってきたのです。通信にも書いてくれと頼まれました。が、素直にYESといえないものがあったのですね。だって野菜には農薬や除草剤、肉類には抗生物質やホルモン剤が残留してるはずで、そういうものは堆肥にする発酵過程で消滅することがないからです。

農家とも相談しましたが、自分の田畑から出る残滓で作る堆肥ならともかく、そんな得体の知れないものは使えない、という結論になり、グループが決裂するという最悪の事態になりました。記憶に新しい方もいらっしゃると思いますが、あのときの事務局移転にはそういう事情もからんでいたのです。

この本を読んでいると、もっとおそろしいものが畑に蓄積されてゆくことがわかりました。たとえばカビ毒。輸入穀物にはカビ防止剤が散布されます。だからカビの心配はないかというとそうではなく、散布前、小麦や蕎麦、トウモロコシが出荷された時点ですでにカビは存在しており、薬物によってカビは消えてもカビ毒はそのまま残留。それが人の口、家畜の口に入り、排泄されるというのでした。生ゴミ堆肥には、その家畜の糞も使われます。発ガン性の高いカビ毒が日本中の農地にばらまかれたら、どういうことになるんでしょう。

抗生物質もまた、そういう形で自然界に放出されるようになると、多剤耐性を持つ病原菌を生み出します。わたしたちは従来通り、無投薬の鶏糞とモミガラ堆肥を中心に野菜を作っていてよかった、としみじみ思いました。木の葉堆肥も作りますが、これは贅沢品。なにしろ木の葉集めがたいへんなので、これは新しく畑にするところにのみ使用しています。

わたしたちも野菜セットに入る野菜だけでは足りないものを、スーパーや直売所で買うことがありますが、そういうとき、目安になっていたのが「有機栽培」のマークでした。が、これも信用できなくなってきました。

昨今の生ゴミ堆肥の流行には、ゴミの減量が必至となった行政の思惑がはたらいているようです。外食産業も残滓を堆肥にする方向に動き出している・・・。食育と称して、この外食産業から出た生ゴミ堆肥で、学校給食に使う野菜を作ろうともしています。循環農業という美名のもとに、おそろしい環境破壊が進んでいるのです。

農業はもともと環境を破壊するものでした。農地を作るには、森を切り開かねばなりませんからね。人の生命を維持するために、人の住む環境を破壊しなければならない。これは宿命かもしれませんが、農地にしたものをさらに汚染してしまうような事態になったら、もう未来はありません。せめて農地を汚さない、人の口に入るものをきれいに保つ。これぐらいのモラルはほしいものだと思いました。

今週の野菜とレシピ

先週に引きつづき、愛媛の春キャベツが入りました。これはもう、レシピなど不要ですね。煮るなり、炒めるなり、生のまま食べるなり・・・。いずれにしても、春キャベツというのはおいしいものです。

青山さんのニンジンは小ぶりですが、葉っぱが魅力的。かき揚げや薬味にお使いください。

アートグリーンはあぶら菜の一種。葉っぱが縮れているのが特徴ですが、やわらかく、食味もいちばんいいタイプです。あぶら菜を湯がくときには、塩ひとつまみと油少々を落とした湯の中に・・・。沸騰したら火から下ろして、余熱でお好みのやわらかさに仕上げてください。水は使わず、まな板の上に広げて冷ますのが理想的。適当に包丁を入れ、擦り胡麻+マヨネーズ+醤油のソースで食べてみてください。

芋茎はあぶら菜と並ぶデトックス野菜です。冬の間、高カロリーな食事に偏りがちだった身体に蓄積した毒素を排泄する作用があります。ぬるま湯でもどして、適当な大きさに切ってからお使いください。油揚げと相性がいいので、いっしょに油炒めして、きんぴら風に調味すると美味。

京菜も、ちょっと変わった食べ方をしてみませんか。ネギトロ用のマグロを用意してください。京菜の茎の白い部分を細かくきざみ、それをマグロと皿の上に並べます。それに塩を添えるだけ。京菜とマグロをすこしずつ混ぜながら、塩味でいただきます。これが意外なおいしさで、なぜか醤油ではおいしくないのですね。葉先のほうはお吸い物などにご利用ください。

今週はタケノコが入る予定でしたが、これだけ気温が高くなっても出てくる気配がなさそうです。

だいたい十年に一度ぐらい、こういうことが起こります。タケノコが出ない年は米も不作というジンクスがあるので、関東以北の寒冷地では凶作が予想されます。来年の今ごろは米不足が深刻化するかもしれませんので、要注意です。この予想、外れてくれるといいんですけどね。