春の息吹

2009年3月第2週

今週の野菜セット

左から

春を目前にして、ぐずついた天候が続きます。雨ばかりか、春の雪までちらついて、満開の梅と競うように木々の枝に積もります。でも、すぐに消えてしまうんですけどね。注意深く見ていると、ぬかるんだ土の中からときおり、ちいさな泡の粒が湧きあがってははじけます。これこそ春の息吹。

先週の今ごろは啓蟄。地底から湧きあがる低周波が最大になるのがこのころで、大音響と振動でカエルもヘビもおちおち寝ていられなくなるのです。だから低周波の届きにくい地表ちかくまで移動して、またうつらうつらと眠りに落ちる。ちょうどわたしたちが目覚まし時計を止め、浅い眠りをむさぼるようなものですから、雨が降れば寝返りも打つ、ため息もつくというわけで、ちいさな泡が立つんですね。

田圃の中にも、こんなちいさな泡がいくつも湧きあがっているとみえ、カラスやサギの幼鳥がぬかるみに立ちつくしている姿が見られます。これも田舎の春の風物詩。カラスやサギにしてみれば、眠りから覚めきっていないカエルが春の味覚。旬の味なのかもしれません。

春の訪れとともに、庭先や畑の草も増えてきます。今のうちに除草しておかないと、来月になると根が強く張りだして、そう簡単には抜けなくなってしまいます。そんなわけで、今がチャンス。でも、この時期の除草には鎌が使えないという難点があるんですね。

庭先の除草ぐらいなら鎌がなくてもいいけれど、面積が大きくなると鎌があるとないでは大ちがい。でも、啓蟄を過ぎるとカエルは地表ちかくに出てきます。お天気でも続けば、ほんとに肌がけ布団みたいに、うっすら土をまとっているだけになるんです。鎌のような鋭利なものを使えば、どんなに用心していても負傷者が出てしまうんですね。

背中が切れたぐらいなら、なんとかなるみたいですが、脚などばっさり切り落としてしまった日にゃあ・・・。それをやってしまったことがあるんです。もう十年も前の話になりますけど、いくら両生類といっても後脚が再生するとは思えませんものね。障害者では捕獲できる餌の量もかぎられてくるでしょうから、お腹をすかせながら死んでいったのではないでしょうか。罪な話です。

ま、そんなアクシデントを防止するためにも、刃物類は御法度。プラスチックのシャベル、それも子供用の能率のわるそうなものを使うにかぎります。また、今なら根があまり強くないので、そんないいかげんな道具でもなんとかなる。雑草がカエルの心配をしながら根を伸ばしているわけではないのでしょうが、うまくできているんですね。

日曜日は日がな一日草むしり。見た目にはたいした量に見えなくても、刈った草をまとめると一輪車で何往復もしなければなりません。

でも、朝から晩まで働いて、それが全部ゴミ穴に放りこまれるのでは不毛です。労働意欲も削がれてしまいそう・・・。そこで食べられそうな草は別にして、バスケットに入れておくのです。タンポポ、ハコベ、カラスノエンドウといった面々。ヨモギはまだ小さく、このあたりでは彼岸を待たなければ食用にはなりません。そのせいか、このあたりでは春の彼岸にはぼた餅ではなく、ヨモギの餅や団子が作られてきたんですね。

さて、日曜日の夕餉ですが、タンポポはサラダにするほど量がなかったので、てんぷらになりました。カラスノエンドウもかき揚げです。ハハコグサ、ユキノシタもいっしょに揚げて豪華版になりました。

ハコベは湯がいて胡麻和えにしましたが、これがほうれん草にそっくりで、目をつぶっていたらわからないぐらいです。お吸い物にはキスゲの新芽。ほのかな酸味がさわやかで、身体の中でスイッチがカチッと音を立てるように、春仕様に変わった感じ。先週、風邪気味だったのがウソみたいです。

今週もお天気はあまりよくないみたいですが、この厚い雲の上空では春の日射しがあふれ出しそうになっている。それが爆発寸前になっているのが感じられるようになってきました。

今週の野菜とレシピ

初登場のエリンギ。ちゃんとパックに入っているのかと思ったら、どさっと箱詰めしてありました。青山さんがいうには、昔から大雑把な男だったけど、変わってないなあ・・・。出荷に関しては大雑把でも、作物の生育には神経質でうるさい男なんだそうです。

エリンギは捨てるところがほとんどありません。先端をすこし落とせば、後は縦に裂くようにほぐします。オリーブ油にニンニクひとかけを入れ、香りが移ったところでエリンギを炒めて塩、胡椒。火を止めてからルッコラを加えてひと混ぜし、醤油少々をたらすと、パスタにもご飯にもよく合います。

じゃが芋はもう春の訪れを感知しているんですね。子猫の乳歯のようなちいさな芽が出ています。でも、ご心配なく。じゃが芋は発芽時、でんぷんがアミノ酸に変わるため、味がぐんとよくなるのです。今時、芽の出るじゃが芋など市場には出回ってはいませんから、ある意味貴重品かもしれません。かために茹でたじゃが芋を薄切りにして、上記のエリンギとルッコラで和え、オリーブ油とレモン汁を加えると目先の変わったサラダになりますよ。

やわらかい春葱は白い部分を5センチぐらいに切り、湯がいてホワイトアスパラガスの代用品に使えます。やわらかめに湯がいたものをマヨネーズで食べてもよし、みじん切りにしたニンニクとアンチョビを炒め、オリーブ油とレモン汁を加えたところに漬けてもよし。これは日持ちがするので、多めに作っておくと重宝します。青いところは残しておいて、薬味に使ってくださいね。