春の山歩き

2009年4月第4週

今週の野菜セット

左から

初夏のような陽気が続いたかと思うと、また寒さがぶり返したり・・・。春の空は気まぐれです。季節の変わり目だから、しかたがないんでしょうけどね。まとまった雨も降りました。おかげで乾燥した大地が潤い、例年ほどの勢いではないとはいえ、タケノコもぼつぼつ顔を出してきたようです。先週、タケノコ不作の年は米も凶作、と書きましたが、この調子だと秋の実りにも期待できそうです。

タケノコと連動して、山椒の芽も出てきました。タケノコと山椒という相性のいいもの同士が、どういうわけかいっしょに出てくる。自然界の妙といいますか、よくできているものだなあ、と感心するのですが、同時に自然のやさしさ、心遣いみたいなものを感じて胸が熱くなるのです。ちょっと大げさかもしれませんが、タケノコ好き、山椒好きにはたまらない季節ではあります。

ついでにいうと、山椒の芽が出てくると、山フジも芽を吹いています。この両者は姿形、食感が似ているので、市販されている佃煮には増量剤としてこれが入っているそうです。インチキといえばインチキですが、山フジの芽はおいしそうだし、よくわからないけど薬効だってあるかもしれない。許せる範囲のインチキだと思います。それに味もマイルドになる。あんまり入れすぎてもダメなんですけどね。

こんな山の中に住んでいて退屈しませんか、と聞かれることがありますが、退屈どころか田舎暮らしというのは、これでけっこう忙しいものなんです。とくに春は忙しい。

畑の手入れをする一方で、木の芽を摘んだり、わらびを採ったり・・・。山の中を散策中に、椎茸の原木が大量に放置されているところを見つけ、そこに落ちている空き缶を拾っていたら、腐りかけた原木のところどころに椎茸が出ていました。それも収穫。おいしい椎茸だったので、週に一・二度はそっちのほうにも足を伸ばさなければなりません。

山菜採りに夢中になると、道に迷ってしまうことがあります。だいたい山の中なんて、どこもおなじような風景ですし、木立に視界を遮られていますから、あたりを見回すこともできません。だんだん不安になってくると、あたりも暗くなってきて、杉林に入ったところでお婆さんに出会いました。山の中で人に会うことなど、滅多にないんですけどね。

なにを採っているのかと聞くと、ゼンマイを見せてくれました。

「へえ、ゼンマイって、こんなじめじめしたところに生えているんですか。てっきり日当たりのいいところとばかり思ってました。」

「日当たりのいいところはワラビでしょう。」と、お婆さん。

でも、お婆さんはヘビがきらいなので、ワラビ採りはしないんだとか。冬眠からさめたヘビたちが、そういうところで日向ぼっこをしながら充電していたりするんですね。変温動物というのは、太陽エネルギーで動いているようなものですから・・・。

ゼンマイは一日で干し上げないとカビが生えてダメになる。だから何度も揉んで水分を飛ばしながら干す・・・。このお婆さん、どこかで見た顔だなあ、と思いながら、そんな話を聞いていました。

別れぎわに帰り道を教えてもらいました。お婆さんはまた別の沢沿いに移動して、ゼンマイ採りをするといいます。その後ろ姿を見送りながら、やっぱりどこかで見たことがある・・・。でも、近所の人ではありません。だいぶ経ってから、あの小柄なお婆さんがターシャ・テユーダそっくりだったことに思いあたりました。

ターシャ・テユーダ。ご存じの方も多いと思いますが、アメリカの農婦にして絵本作家。先年、亡くなられましたが、晩年まで庭仕事から薪割りまでしながら、その一方で絵を描き、人形を作るという精力的なお婆さんでした。ひとり暮らしですから、当然、家事も自分でこなしていたはずです。その毅然とした生き方もさることながら、自然と一体となるような生活のありようが魅力的で、多くのファンがいたようです。

わたしもそのひとりでしたが、ターシャ・テユーダは日本にもいる。たぶん世界中には、無名のターシャ・テユーダがいっぱいいるにちがいない。そう思ったら、なんだか急に体が軽くなったような気がして、わたしにもできそうじゃん。無名のターシャ・テユーダのひとりになれそうじゃん、とルンルン気分。まずは手始めに、あのお婆さんが背負っていたカゴとおなじものを見つけてきました。バカといわれるかもしれませんが、まずは形から・・・。近い将来、かっこいいお婆さんになれるかどうかはともかくとして、これで山歩きがますます楽しくなること、まちがいなし。相変わらず早起きは苦手ですが、山歩きのために努めているしだいです。

今週の野菜とレシピ

待望のタケノコが入ります。例年より小ぶりではありますが、このタケノコ、頭の先まで地面に埋もれていたものです。それを掘り出す苦労を思えば、皮を剥いて湯がく手間ぐらい、楽なものだと辛抱してください。

添付のヌカと唐辛子といっしょに湯がいたら、そのまま冷まし、きれいな水に浸けておきます。煮物、若竹汁、タケノコご飯・・・。お好きなようにお使いください。

姫皮ももったいないので利用します。梅肉を包丁で叩いたところに醤油と蜂蜜を加え、細切りにした姫皮を和えるか、かき揚げでどうぞ。かき揚げは細切りにしたハムも加えると美味。タケノコとハムなんて、ミスマッチみたいですが、なかなかどうして相性がいいんですよ。

らっきょうもいっしょにてんぷらにするといいかもしれません。揚げると特有の辛みが消えて甘くなるんです。

間引き大根は、大根も葉っぱもいっしょにきざんで一夜漬け。あるいはちりめんじゃこといっしょに炒めて、醤油で調味。煎り胡麻も加えます。これは作り置きができるので、お弁当のおかずに便利ですよ。

葉玉葱は、玉の部分も青いところもいっしょに炒め、味噌味に仕上げるのが益子風。このあたりでは間引いた玉葱をそうやって食べていたそうです。わたしはあっさりと、塩とオイスターソースで味つけするほうが好きですけどね。

小松菜アートグリーンはおひたし、お吸い物にご利用ください。