イノシシの知恵と能力

2009年10月第5週

今週の野菜セット

左から

寒くなってきました。

そろそろ冬支度にも本腰を入れなければなりません。夏の間、戸外で好き放題に枝葉を伸ばした花や観葉植物も、ふたたび狭い鉢に逆戻り。それをよっこらさと室内に持ちこんで、巨大化したものに関しては根元にモミガラを敷きつめます。近年、雪がさっぱり降らなくなった分、霜対策が必要なんですね。積雪は布団のように植物の根元をあたためてくれますが、霜はその逆。根の浅い植物は凍土に持ち上げられて枯れてしまいます。

そんな霜も、野菜にとってはありがたい存在です。苗のうちに霜にあたると枯れますが、生育後の青菜は甘みとやわらかさを増すからです。葉っぱの表面に白く浮いた氷の膜が、まるで旨み調味料のよう・・・。ふつうなら今ごろ、初霜が心待ちにされるところですが、今年は秋のはじめに雨がなく、種蒔きが全般的に遅れているので、ちょっと心配。発芽して間もない青菜には、モミガラや稲ワラを毛布がわりにしてやります。

そして冬支度の極めつけは暖房用の薪切りと薪割り。今年も薪小屋がわりのガレージ内に日が射さなくなるにつれ、冬の到来が間近に感じられます。この薪の山が小さくなるにつれ、陽光が強くなり、春がやって来てツバメが巣を作る・・・。この日時計ならぬ重量級のカレンダー作りに、目下忙殺されています。薪ストーブって、火をつける前から身体があたたまるんですよ。

先日、ひさびさに裏山に入りました。紅葉狩りを兼ねて、もしかしたら食べられそうなキノコが見つかるかもしれない、というほのかな期待を抱きながら歩いていると、わたしのすぐ脇を猛ダッシュで走り抜けたものがあります。

ん?一瞬、猫かと思いましたが、猫にしては大きすぎる・・・。と、ふたたび走り抜けるものがあって、目をこらすとウリ坊でした。都合、三匹のウリ坊が通り抜けたと、背後から低く唸るような鼻音。ウリ坊のお母さんです。まったくしょうがない子供たちだ、とため息をついていたのかもしれませんが、こちらは凍りついてしまいます。

そうっと振り返ってみましたが、だれもいません。でも、鼻息が聞こえるぐらいですから、すぐそばの藪の中にいることはたしかです。前に進めばウリ坊を追っていると思われるかもしれないし、後退すればお母ちゃんに近づきすぎることになる。かといって、立ちすくんでいるわけにも行きません。しかたがないので施無畏(セムイ)の姿勢になって、その場でゆっくりひと回り。施無畏というのは、畏れを取り払うという意味で、両手の平を前に向け片手を胸の前、もう一方を下に向けた姿勢のことで、観音像によく使われるポーズです。畏れが消えれば攻撃性もなくなるだろう、と咄嗟に判断したんでしょう。

それからゆっくりとイノシシに背を向けたまま前進し、事なきを得ましたが、寒い朝だったにもかかわらず、汗びっしょりになっていました。でも、これは使えると思いましたね。青山さんが岩手の山奥でクマに遭遇したときにも役立つかもしれない。実際、彼は山菜を採るにもキノコを採るにも、クマの糞を観察しながら歩きまわっているのですから・・・。

クマほどではないにしても、イノシシも目の前にいると巨大です。オトナのメスの胴体がドラム缶ぐらい、オスはその倍近くもあるのですから・・・。相変わらずわが家のまわりでは、農家が寄るとかならずといっていいぐらいイノシシの話になりますが、今年になって風向きがすこし変わってきたようです。これまでは農作物を荒らされた悔しさから暴言が飛び交っていたのが、最近はイノシシの頭のよさや能力に対する感嘆のほうが強くなっているのです。

山芋や百合根を掘るのに、直径十センチぐらいの穴しか開けていない。どうしたらあんなことができるんだろう、といった具合です。イノシシの通り道に電柵を設置したら、ヤツら自動車道路を使うようになった、とか・・・。被害は拡大しているはずなのに、みんなの目に憎しみの色がない。家庭菜園を毎年荒らされて、今年こそ罠をかけるといっていた人も、子供連れで来ちゃったんだよね。あれ見ちゃうと、罠なんか仕掛けられなくなる、と肩をすぼめていたぐらいです。

わたしも今年は枝豆をやられました。実が入ってきたから明日採ろう、と思っていたその晩にやられたらしく、翌朝行ってみるとサヤがいっぱい落ちている。風もないのにどうしたんだろう、と思って見ると、中身がないのです。いちばんおいしいときに、おいしいところだけ食べて行く。しかもどうしたらそんなことができるか、サヤにはほとんど傷がない。まるで魔法使いです。

がっかりはしたけれど、あのきれいな食べっぷりをみたら、腹が立つ前に感心してしまうんですね。栗もきれいに鬼皮だけ残して食べ、その皮にも歯型どころか、傷ひとつ残さない。農家が笑うしかないのもわかる気がします。どう考えたって、人間の負け。人智など、たかが知れているのかもしれないって、最近思うようになってきました。

今週の野菜とレシピ

待望の大根が入りますが、まだ煮物にできる大きさではありませんが、ようやくここまでになることができました。味噌汁か、短冊に切ってきんぴらというのはどうでしょう。

大根の葉の炒め物

元気のいい葉っぱのほうは、湯通ししてから刻んで、両手でぎゅっと握って水分を取ります。ちりめんじゃこといっしょに炒めて、醤油とオイスターソース少々で調味。仕上げに煎り胡麻をたっぷり加えてください。ちりめんじゃこのかわりに挽肉を使うと、子供にも受けがよく、お弁当のおかずになります。

赤キャベツの甘酢漬け

赤キャベツもようやく丸まってきました。なぜふつうのキャベツではなく、赤なのかというと、今ごろキャベツを出荷しようと思ったら、夏の終わりに種を蒔かなければなりません。すると、大半が虫にやられてしまうのです。でも、なぜか赤キャベツには虫がつかない。そんなわけで赤いほうだけが無事に大きくなることができたのでした。

虫には強いけど、ふつうのキャベツにくらべると利用範囲が狭くなるのが難点で、いろいろやってみましたが、やっぱり甘酢に漬けるのがいちばんおいしいみたいです。千切りにしたキャベツをさっと塩茹でし、水分をよく取ってから酢と砂糖がほぼ同量の甘酢に漬けます。漬けた瞬間、暗紫色のキャベツが鮮やかなローズピンクに変色します。その瞬間がちょっと感動的。漬けたその日から食べられ、保存もできます。

生姜もスライスして軽く塩をあて、甘酢に漬けるときれいに変色します。台所が化学の実験室になったみたい。それにしても酢の力ってすごいですね。

蒸し鶏と白髪ネギ

ほんとうは今週、牛蒡を使いたかったのですが、青山さん、田植えも稲刈りもひとりでやっているので、その後しばらく過労で胃がやられるんです。腰も痛いので、もう一週だけ休ませてほしい、ということで牛蒡のかわりにネギが入りました。

蒸し鶏をスライスして、そこに白髪ネギを山のようにのせ、あつあつの胡麻油と醤油をかけると、簡単なのに本格的な中華料理店の味になります。注意する点は胡麻油をかけたとき、じゅーっと音がするぐらい高温にしておくこと。小鍋を火にかけ、煙が立ってきたところで油を入れると瞬時に煮立ちます。油の量はすこしでけっこうですからね。

鶏を蒸すのが面倒なら塩茹でして、煮汁はスープにご利用ください。もも肉がおすすめ。ただ、市販の鶏肉には特有の臭いがあるので、下準備が必要です。牛乳をからめて数時間おくだけで臭いがなくなります。さらにブロイラーは水っぽいというか、味に深みがないので、牛乳を洗い流してから「おいしくなるシート」にはさんでおくと、水分が抜けてほんとうに「おいしくなる」。シートにはさんだまま、冷蔵庫で四・五日はもつので、安いときにまとめ買いしておくとお得ですよ。