米の行方

2009年3月第3週

今週の野菜セット

左から

先週末、吹き荒れた春の嵐。交通にもかなり影響が出たようですが、みなさんのところはどうでしたか?

こちらでもビニールハウスの鉄骨が曲がるなど、台風なみの風雨の被害が聞かれましたが、好子さんのところも青山さんのところも、おかげさまで事なきを得ることができました。

このあたりは内陸なので、台風の被害を被ることは滅多とないのですが、それでも大雨やら夏の雹など、農作物が壊滅状態になることはめずらしくありません。でも、不思議と野菜セットのために作られた野菜は無事だったりするのです。それは野菜たちが会員やわたしたちの期待というか、無意識に送られてくる「がんばれ」みたいな想念を受け取っているからではないか、と思われることがあります。

非科学的かもしれませんが、物質的な条件に不足がなくても、心的な支えなしには子供が生長できないように、植物もまたメタフィジカルなものを必要としているのかもしれません。それがなければ、野菜もまた人を癒すような力を持つことができないのではないか。長年、野菜に関わっていると、そういうことが非科学的な妄想とはいえなくなってくるのです。

野菜は農家の手だけでなく、みなさんにも育てられている、というわけで、いつもありがとうございます。今回のことも、ほんとうにみなさんのおかげで事なきを得ることができたにちがいありません。農家に代わって、ありがとうございました。

今、ビニールハウスの中では稲の育苗の準備がおこなわれています。キングサイズのベッドより大きな枠の中に、大量の落ち葉、米ヌカ、鶏糞などを入れ発酵させるのです。発酵時にはかなり温度が高くなるので、その熱を利用して稲苗を育てるんですね。暖房つきのほかほかベッドです。

育苗皿というプラスチックのケースにきれいな土を入れ、そこに種を蒔いてベッドの上に並べます。毎日の水やりと温度管理。これがけっこうたいへんみたいで、気温が高くなればハウスに風を入れ、夕方には閉めきって一定の温度を保たなければありません。

それから田植え。田植えがおわっても、田圃の水量をつねに管理していなければなりませんから、ヘリコプターで種を蒔き、肥料から農薬、除草剤まで空中散布で作られるカルフォルニアやオーストラリアの米とは大ちがい。その差は値段に反映されますが、米の質もずいぶんちがうと思います。栄養分はおなじでも、なにかがちがう。田圃と広大な米工場の差が、米のひと粒ひと粒に影響を与えないわけがないのですから・・・。

今ではこのあたりでも、育苗の労をきらって農協などから苗を購入する農家が増えています。すこしぐらい割高でも、そのほうがまちがいない、という農家もいるぐらい。自家製の場合だと、田植えの適期に苗の生育が間に合わなかったり、逆に伸びすぎたりすることがあるからです。

米作りを止めてしまった農家もあります。米なんか作っても金にならないし、うちで食べる分ぐらいなら買ったほうがはるかに安い、というのが理由です。うーんと唸ってしまいましたが、自分で作りもしないくせに、えらそうなことはいえませんものね。

今どきの米作りにはお金がかかります。最低でも耕耘機と田植機、コンバインが必要で、コンバインなどは高級車なみの値段です。今使っている機械が壊れたら、うちも米作りは止める、という農家がいても、わたしたちにはどうすることもできません。

農業が「食える」産業にならないかぎり、この国の自給率は下がり続ける一方でしょう。いいかたを変えれば、この国が輸出産業に依存し続けるかぎり、農業は先細りになってゆく・・・。この百年に一度といわれる不況を逆手にとって、若者を農業に呼びこむと同時に、農業を「食える」ものにできないものか・・・。

でも、はたと思い当たったのですが、この国の農業が豊かなときなんてあったんだろうか。農業自体は盛んでも、農民はというと、昔から貧しいものと相場が決まっていたのではないでしょうか。徳川幕府の、農民は生かさず殺さずにはじまり、第二次大戦後の農地解放まで、ほとんどの農家は小作人として食うや食わずの生活を送っていたわけで、それを思えば今の農家は立派な家に住み、家族の数だけ車を持って、子供はけっこう高学歴。それのどこが「食えない」のか、といわれそうです。

でも、専業農家はほんのひと握り。専業農家でも息子の奥さんはパートに出ていたりして、農業収入だけで暮らしているわけではなさそうです。大多数が兼業農家というのが実情ですから、稲の苗を買ってきたり、機械に大金を出すぐらいなら米作りを止めるというのも、しかたがないのかもしれません。

ただ、朗報といっていいのかどうかわかりませんが、ここへきてうちの近所でも、息子の会社が倒産。息子の嫁も職をなくして、もう百姓しかやることがなくなってしまった、という話が聞かれるようになりました。いつも犬の散歩で顔を合わせていた女性です。田畑があるからホームレスにはならずにすんでいるけど、食べるだけならともかく、これで子供を学校にやるとなるとお先真っ暗。どうしたもんだか、困ったもんだ、と暗い顔です。

たしかに農業は「食える」職業。しかし、食糧だけでは生活はままなりません。大昔と比較して豊かになったというのでは、農家は納得しないと思いますし、商社などが農業に進出し、第一次産業が活性化されてように見えても、ふたたび小作人が大量に生み出されたのでは意味がありません。ちいさな農家が豊かにならないかぎり、米の質も市場に出まわる野菜の質も、劣化する一方です。

こういう問題は上からではなく、下からの草の根運動でなければ変わらないと思うのですが、肝心の消費者が苦境に立っている現状ではどうしたらいいんでしょう。問題を提議するだけで、なんの解決策も持てないのがイヤになってしまいますが、どなたか妙案をお持ちの方はいらっしゃらないでしょうか。

今週の野菜とレシピ

今週もエリンギが入りました。適当に裂いて、小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつけてフライにすると美味。もちろんバターやオリーブ油で炒めてもおいしいですよ。

エリンギの表面にうっすらと白いカビのようなものが浮いていることがあります。カビといえばキノコ自体がカビの一種。キノコの酵母といってもカビの菌とおなじことになりますが、いわゆる白カビではなく、キノコのうまみ成分です。安心してお使いください。

ひさびさにニンジンも入りました。まだ小さいので量は少なめですが、この時期は葉っぱがやわらかいので、香草がわりに使えます。炒めご飯にきざんで混ぜたり、スープの青みに浮かべたり・・・。ニンジンも葉っぱも細かくきざんで、ハンバーグに混ぜるという手もあります。

葉大根。これは春らしく菜飯にしてはどうでしょう。葉大根の上から熱湯をかけ、しんなりしたところを細かくきざんで塩をふります。あたたかいご飯に煎り胡麻、ちりめんじゃこ、よく絞った葉大根を混ぜるとできあがり。ニラの卵とじを添えてどうぞ。

橋本さんの玉葱は今回で終わり。次回は愛媛の新玉になります。野菜の変化からも、刻々と季節が進行しているのがわかりますね。今週はこのあたりも春の陽気になりそうです。