短い夏

2009年8月第3週

今週の野菜セット

左から

期待通り、暑いお盆になりました。残暑といいたいところですが、今年は盛夏がなかったので、これが本番。一夜かぎりではありますが、熱帯夜も経験できました。あまりいい経験ではなかったのですが・・・。

朝、窓際に立つと、強烈な朝日を受けて、木々も草花もきらきらと輝いている。乾いた地面に落とされる野菜の影も濃くなって、夏らしい景観になってきました。この影が薄ぼんやりしていたのでは、夏野菜は本領を発揮することができないんですね。

ようやく夏日になったというのに、もうツクツクボウシが鳴いています。これは夏の終わりを告げるセミ。子供のころはツクツクボウシが、宿題やったか、と聞こえたりしたものです。宿題やったか、といわれてもねえ、露地野菜はようやく宿題に本腰を入れはじめたところなのに・・・。雨続きで、草むしりという宿題が増えた農家も、すこしずつ早くなる日没に追われるようになってきました。

夕刻にはもう秋風が立ち、気温が下がります。この夏、たっぷり時間を確保できたのは、今月に入ったとたん鳴きはじめた秋の虫ぐらいでしょう。本番前にたっぷりリハーサルをして、今、それぞれの超絶技巧を披露しているところ。曲名はわかりませんが、テーマはどれも夏の終わりです。まだまだ終わらせてもらっては困るんですけどね。

朝昼夕と毎日三回、庭先の土佐ミズキの枝にパンを挿すのがうちの年寄りの日課になっていて、冬から春先にかけてはヒヨドリやムクドリがお得意さん。かれらがいなくなってからはスズメが集まってくるのですが、その旺盛な食欲が毎年、この時期になると落ちてきます。そろそろ稲穂に実が入ってきたな、とわかるのですが、今年はまだパン屋が繁盛しているみたいです。

このぶんやったら、九月になっても客が来てくれるかもしれん、と婆さんひとり、ソロバンをはじいてにんまりしているのですが、どうなりますか。婆さんの商売が繁盛するのはいいけれど、その分、米は不足するわけですから、いっしょになって喜んでもいられません。

もうひとつ気になるのは、この夏、一度もホトトギスの声を耳にしていないことで、ご存じのようにホトトギスはいったいいつ眠るのか、昼も夜も啼く鳥です。深夜、布団に入ろうとするような時刻にも、闇をつんざくようにトッキョキョキョクという声が響いてきてギョッとしたりするのですが、今年はそれが一度もなかったのです。真夏の闇にたらりと一滴、深紅の血が流れるようなホトトギスの声を聞くと、一瞬身の締まる思いがする。あの緊張感が好きなんですけど、いったいどうしちゃったんでしょう、ホトトギスたちは・・・。あれを聞かないと、この夏の宿題が手につかず、ただでさえ苦手な方程式は謎のまま残りそう。そんな気分です。

そのかわり、この夏はフクロウの声がよく聞こえます。去年まで西側の林の奥から聞こえていたのが、今年はそのあたりの庭木にいるんじゃないか、と思うほど間近に聞こえてくるんです。

この声が聞こえてくると、子供の巣立ちが近づいている証拠。声の主はもしかしたら幼鳥なのかもしれません。ホロスケホーに混じって、ホッホッホッホッホーという声が入るので、これはオス。この笑い声みたいなのは、オスがメスを口説くときの決まり文句みたいなものです。

でも、今はまだそんな時期じゃないので、まだ産毛を残しているようなのが「ねえ、カノジョー」なんていう練習をしているのかもしれません。もっとよく聞こうとわたしが家から出ると、それがぴたりと止んでしまう。星など見るふりをしながらしばらくねばってみるのですが、さっぱりなので諦めて家に入ったとたん、ホロスケホーだって・・・。

子供に足もとを見られているみたい。でも、わたしの姿がわかるぐらい近くにいることがわかったのですから、それはそれでうれしかったんですけどね。この幼鳥が巣立つ頃、両親はいったん別れ、それぞれ独身生活を満喫します。そして寒さが本格的になってきたころ、ホッホッホッホッホーという愛の歌が本番を迎えるのです。もっとも口説くといっても、ついこの間まで奥さんだった相手なんですけどね。

でも、坊やのほうはこの冬、はじめて恋の季節を迎えるわけです。今から練習しているのですから、ホッホッホッホッホーにも磨きがかかっているでしょう。いい配偶者に巡り会ってほしいものですね。

今週の野菜とレシピ

先週いっぱいでトマトが姿を消してしまいました。トマトは雨に弱いので、雨よけハウス内で作られます。下のほうから実をつけはじめ、今ごろになると人の背丈より高いところで結実するのですが、雨よけハウスの天井はビニール製なので、このあたりまで来るとトマトが灼けて、表皮に水ぶくれができてしまうのです。毎年、この時期になるとトマトが姿を消してしまうのは、そういう事情があるからで、夏野菜の王様みたいなトマトが、じつは夏には弱かったんです。原産地がアンデス高地なので、しかたがないのかもしれませんけどね。

ほんとうなら今ごろ、好子さんのきゅうりが再登場しているのですが、どういうわけかこれが不調で、多くが立ち枯れしてしまった模様です。申しわけありません。

茄子、ピーマン、オクラ、ゴーヤは好調です。ただしモロヘイアは今週、農家が不在になるので、休ませていただきました。

先週、ゴーヤの種とワタの薬効にふれましたが、今週はピーマンとカボチャについて・・・。ピーマンのワタには体温を上げる成分があるので、冷え性の人におすすめ。冷え性でなくても、夏はクーラーなどで身体を冷やす機会が多いので、なるべく丸ごと調理するようにしてください。体温が上がると、消費カロリーも増えるので、ダイエット効果もありそうです。

カボチャの種にはカリウム、カルシウムが豊富に含まれるので、体内の余分なナトリウムを排泄する作用があります。ナトリウムが体外に出るときは、水分もいっしょに動くので、高血圧症対策だけでなく、利尿効果もおまけについてくる。というと高齢者向きみたいですけど、ギョウ虫・回虫の駆除もするそうですから、子供たちにおやつ感覚で食べさせてはどうでしょう。

ワタから種だけ取りだして洗った後、干してからフライパンでから煎りします。そうして軽く塩をふったカボチャの種が、中国ではごくあたりまえにスナックとして出回っています。問題の多い中国産ですが、こういう知恵はもっと積極的に輸入したいものですね。

来週は好子さんの枝豆が入ります。トウモロコシは茎に虫が入ってしまったらしく、あまり調子がよくないそうです。これもアンデスの高地が原産。雨には弱いのが災いしたみたいです。