アシナガバチの受難

2009年8月第4週

今週の野菜セット

左から

残暑に期待が寄せられていましたが、それもあまりぱっとしないので、稲の実入りが心配でした。うちの母が庭木にパンを挿すと、スズメがそれを啄みに来る。今年はそれが大繁盛。この調子だと、米はどうなってしまうんだろうと案じられていたのでした。

先週前半まではそうでした。ところがある日突然、スズメの客足が途絶えたのです。パン屋は倒産の憂き目をみましたが、米屋のほうはひと安心。このあたりはなんとかなりそうです。が、米所といわれる新潟をはじめ、東北地方では収穫が激減しそうな気配なので、喜んでばかりもいられません。

秋雨前線の到来までに、もうすこし日照がほしいところ。過ごしやすいのはいいんですけど、今すこし暑さに耐えてもいいんじゃないか。ふつうなら秋の到来を歓迎しているんでしょうが、今年は夏が抜け落ちてしまいましたからね。

秋が早いせいか、虫の世界にも異変が起こっているようです。事務局の南側はアクリル板で囲いをした半屋外になっています。そこに午前中は納品された野菜が並び、午後には箱詰めされた野菜セットが並ぶのですが、その天井近くに毎年アシナガバチが営巣しています。

アシナガバチは性質がおだやかで、とっても控えめ。人が出入りするときには、向こうも忙しいだろうに、中空で静止して待ってくれるぐらいです。そのアシナガの巣の上に、巨大な蜂がいるのを先週、アラレちゃんが発見しました。

「わあ、すごい。アシナガの女王蜂がいる」

「どれどれ」と、わたし。「ほんとだ、アシナガの女王ってこんなに大きかったんだ」

ふたりして、はじめて目にする女王陛下に最敬礼。女王蜂の出産シーンに立ち会える幸運を喜んでいたのでした。

ところが、なんか様子が変。出産シーンなら、女王蜂は巣穴にお尻を入れているはずなのに、頭を突っ込んで、バリバリと妙な音まで立てているのです。

「あ、こいつ、女王なんかじゃない。スズメバチだったんだ。」

大きな蜂を取り囲むアシナガは、女王様のお世話をしているのではなく、スズメバチの来襲におろおろしていたのでした。

「こら、おっさん、そこどかんかい。」

ついさっきまで女王陛下だったのがおっさんになり、箒の柄で追い出される羽目に・・・。ドアを閉め切ると、スズメバチのような大型はシャットアウトされますが、アシナガは小さな隙間から出入りできるのです。ここらへんが安普請の強みといいますか、融通がきくんですね。

しかし、おっさんにされてしまったスズメバチのほうも(ほんとうはおばさんなのにね)諦めきれないようで、人の出入りでドアが開くと、どこで見ているのか、すかさず入りこんできてアシナガの巣にへばりつきますますから、油断がなりません。というわけで、仕事の合間にも巣のチェックは欠かせないので、なんだか妙に慌ただしいのです。

ご存じだとは思いますが、念のためにお話しますと、アシナガバチもスズメバチも肉食の蜂でありまして、どちらも結果的に農産物を守ってくれています。アシナガはせっせとアブラムシなど、小型の虫を捕ってそれを団子にし、子供を養います。スズメバチは大型の草食昆虫をゲット。それを噛み砕いて団子にして子供に与えます。餌をもらったウジのお尻からは甘い汁が出ます。それが成虫の栄養ドリンクになるんですね。

文字通り弱肉強食の世界ですから、アシナガバチはより大きなスズメバチに子供を奪われ、今、アシナガを襲っている黄色スズメバチは、より大きな大スズメバチに巣を乗っ取られる危険性と隣り合わせで暮らしています。秋にこういう巣の乗っ取りが頻発するのは、冬、働き蜂が死に絶えた後も女王蜂ひとり越冬しなければならないからで、その栄養源が必要なのです。

いつ巣を乗っ取られるかわからない。そんな不安から蜂が神経質になり、過剰防衛で人が刺されたりするんですね。が、それはだいたい九月下旬から十月いっぱいぐらい。今年はそれが一ヶ月も前倒しになっているのです。

あらためて事務局の周囲を見回すと、よその建物にはなにもないのに、どういうわけかうちの軒下にはずらりとアシナガの巣が並んでいて、まるで難民キャンプのよう。それがみんな空き家になっていました。ふつうなら、今の時期にはすべての巣穴に子供がいて、それを保護するために白っぽいカバーがついているのですが、それが全部食い荒らされているのです。

ドアに守られている巣も、大部分が空洞にされてしまいましたが、また白いところが増えてきました。女王蜂がせっせと産卵しているんでしょう。増えたと思って安心していると、また侵入者にやられて半減。今は数えるほどしか子供部屋がありませんが、なんとしてもこの巣ぐらいは守ってやりたいもの。死守するぐらいの気迫でがんばろうね、と話し合っています。

今週の野菜とレシピ

今週は枝豆が入る予定でしたが、実の入りが今ひとつなので、来週に見送られました。また、先週のメニューにあったゴーヤは生育がわるく、後半、代品でカバーすることになりましたが、夜間の気温が低くなったため、全体に野菜の生育が遅れているようです。

今週の目玉はそんなわけで新しょうがになりました。甘酢につけるか、味噌をつけてそのまま囓るか、もちろん薬味としてもご利用いただけます。

茄子の生育が遅くなると味が濃厚になってきます。焼き茄子がおいしくなるのもこのころです。これは秋茄子にかぎりますからね。焼き茄子は皮むきがたいへん、と敬遠がちですが、ボウルに冷水を用意して、それで手指を冷やしながら剥くと苦になりません。たっぷりと新しょうがをのせてお召しあがりください。

新型インフルエンザの広がりが話題に上りはじめましたね。秋が深まり、空気が乾燥してくるにつれ、威力を増してくるでしょうから、自衛を心がけなければなりません。この時期、青ものというとモロヘイア空芯菜しかありせんが、基礎体力をつけておくにはせっせと菜っぱを食べることです。益子GEFの会員の罹患率をかぎりなくゼロに近づけるため、好子さんは例年より早く小松菜と春菊の種を蒔いています。虫に食われず、大きくなってくれるといいんですけどね。

不安にかられる必要はありませんが、かといって甘く見てはいけないのが風邪ですから、人混みに出る機会のない農家も、今回はうがいと手洗いをはじめたようです。好子さんだけがインフルエンザ?そんなもの、畑の菌に守られてれば大丈夫、と豪語しているのですが・・・。