ちいさな町の芝焼きとオーストラリアの大火

2009年2月第3週

今週の野菜セット

左から

先週末は時ならぬ春の嵐。暴風雨、はたまた大雪と、日本中が大荒れになりました。でも、このあたりは穏やかだったんですよ。

ねえ、関東地方は大荒れっていってるのに、なんでお日さまなんか出てるの?栃木県は関東地方ではないからです。えっ、でも北関東でしょ?群馬県は北関東だけど、栃木県は除外されているんです。じゃ、ここは南東北なんですか。いえいえ、どこからも除外されているんです。嫌われものなんです。

そうだったんですか。そういえば台風が上陸しても、たいした被害がない。これも嫌われているからなんですね。はい、雨にも風にも嫌われているようです。見方によっては、災害のない、住みやすいところといえるのですが、空気が淀みやすい。関東から見れば目の上のたんこぶ。東北から見ると、足裏のウオノメのようなものかもしれません。

ま、たんこぶであろうが、ウオノメであろうが、気候が安定しているのはありがたいことですが、空気が淀みやすいというのはちょっとね。北に日光連山があるため、そこで風が遮断されてしまうのだそうです。

いきなり春の陽気になってしまったせいか、あちらでもこちらでも梅が満開。白梅に混じって、紅梅のむせるような甘い香りが漂ってきます。足元に目をやるとフキノトウ。水仙も地面を割って、ちいさな頭をのぞかせていて、意外と近くまで春が来ているのがわかります。

この時期になると、家の中で越冬していたカメムシがよく勘違いをして出てきます。だいたいソファの隅などにもぐりこんでいるのですが、それがふらふらとテーブルの上を歩いていたりするんですね。家人に見つかると、わっ、屁っぴり虫、と騒がれて、外に放り出されてしまいます。いくら春が近いといっても、この時期、戸外に出されるのはつらいでしょうからね。見つかる前に薪や家具の裏側に隠してやるのですが、追い出されているのも多いようです。

カメムシはいやな臭いを出しますが、それは仲間に危険を知らせるサインであって、べつにいやがらせをしているわけではありません。洗濯物などについてきて、畳んでいる最中に危険信号を出されたり、そこはパスしても衣類を身につけたとたん、プーンと臭い出すことがあったりして迷惑がられるのです。わたしも昔はきらいでしたが、よく見ると愛嬌のある虫ですし、臭いも香菜(パクチー)などを口にする機会が増え、あれをおいしいと感じるようになると、さほど気にならなくなるんですね。

カメムシは種類も多く、中には七宝焼きのようなデザインのものもいますから、嫌われものでありながら、隠れファンも多いみたい。東南アジアには食用のカメムシもいるそうです。

でも、農家には例外なく嫌われています。それはカメムシが豆類につく害虫の代表選手だからで、わが家でもデイルが種をつけると、カメムシがいっせいに集まってきて食べています。けっこうグルメなんですね。

この時期、このあたりでは町を挙げて芝焼きが行われますが、美観、春先の野火の予防に加えて、毛虫の卵や越冬中のカメムシの一掃というのが狙いです。住民は全員参加。各地区に消防車が出向き、いっせいに田畑の畦や空き地に火をつけてまわるという大規模なもの。

しかし、霜の降りた草というのは、枯れていてもなかなか燃えてくれないんですね。灯油を染みこませたボロ布で火をつけてまわっても、すぐに消えてしまいます。火というのは燃えては困るとき、あっという間に広がってしまうのに、派手に燃やしたいときにはイヤになるほど燃えてくれない・・・。カメムシは命拾いするのかもしれませんけどね。

さんざん手こずった後、家に帰ってテレビをつけたら、オーストラリアの大火災。あれをうらやましいなどといってはいけないんでしょうが、益子町民の大半があれを見て、なにか腑に落ちないものを感じたのではないでしょうか。おすそわけでいいからほしい、と思った人もいたはずです。

火というのはくせ者です。人間は唯一、火を使うことのできる動物だといわれていますが、それは思い上がりで、まだまだ使いこなせる段階ではないのかもしれない。テレビを見ながら、そんなことを思った人も多かったと思います。

芝焼きの終わった後というのは、町中、どこを歩いても焦げ臭いもので、とくに農道は臭いが強烈です。うちの母の世代は戦時中を思い出すようで、この臭いの中を家族を探して歩きまわった記憶が蘇り、いたたまれなくなるようです。半世紀以上も前のことでもそうなのですから、これよりもっと広範囲に燃え広がり、五百人を越える死者を出した焼け跡では、いったいどんな感情がくすぶり、苦渋がしたたり落ちるのか、想像もつきません。

しかし、オーストラリアという乾燥した大陸には、もともと火災が発生しやすかったのか、焼け跡でしか発芽しないという特異な進化をした植物があるといいます。種がかたいシェルターみたいな殻に守られていて、何年でも何十年でもひたすら地中で待ち続け、強烈な火力によって殻が割れるといっせいに発芽。炭化した森の養分を吸い上げながら急成長し、またたく間に新しい森を作り出すというのです。

名前は忘れてしまいましたが、この樹木にとって火事は災害どころか、生命の源だったというわけです。人の生活を中心に考えるから、大火も大水もあってはならないことのように思われますが、じつはみんな浄化なのです。自然は破壊と再生を繰り返しながら、気の遠くなるような年月を生き延びてきたことを思うと、そこに寄生しているわたしたちが経済活動ばかり考えていたんじゃ、やっぱりまずいよなあと思ったのでした。

今週の野菜とレシピ

今週は青首大根が入る予定でしたが、急にあたたかくなったため、大半がトウ立ちしてしまい出荷できなくなってしまいました。野菜たっぷりセットのみ、小ぶりの大根が入れられそうです。

青菜は小松菜京菜あぶら菜あぶら菜はさっと湯がいて、マヨネーズ+すり胡麻+醤油のソースで食べてみてください。

ラデイッシュは塩で・・・。あたたかくなるにつれ、ラデイッシュにも辛みだ出てきます。それは辛み成分で虫を寄せつけないためですが、ラデイッシュ好きにはそれがたまらない。今の時期はまだまろやかですが、辛みの苦手な方は今のうちに丸かじりを楽しんでくださいね。

ひさびさのしめじ。バター、またはオリーブ油で炒め、塩、胡椒、醤油を少々、最後にレモンを少々しぼって味をひきしめてください。このままご飯のおかずによし、パスタに和えてもよし、茹でたじゃが芋にからめてもよし。

じゃが芋は今週からメイクイーンに変わりました。男爵のようにでこぼこがないので、取り扱いが楽な上、煮くずれもしにくくなります。おまけに甘みが強いので、湯がいて塩だけで食べてみてください。