渡り鳥の知恵

2011年1月第4週

今週の野菜セット

左から

厳しい寒さが続いています。

日本海側は大雪。こちらでは空気が乾燥しきって、インフルエンザにはますます好都合。火事も多発しているようで、ここ真岡では毎日のように消防車のサイレンが聞こえてきます。こんな寒空に焼け出されたらたいへんでしょうね。ま、あたたかい季節でも火事はイヤですけど・・・。

一方、夏の南半球からは洪水のニュースが入ってきます。火攻め、水攻め、そしてこちらでは容赦のない寒さ。でも、この寒さが去ってしまうと、例年の十倍といわれる杉花粉が舞うそうです。寒さはこたえる。でも、できるだけ長続きしてほしい。そんな風に思っている人も多いにちがいありません。

山の中には、まだ先週の雪が残っています。朝はガリガリ、日が高くなるにつれてシャーベット状になりますが、溶ける前に日が暮れて、夜のうちに凍りつく。そんなことを繰り返しているみたい。睡蓮鉢やバケツの氷も日に日に厚みを増してゆきます。

その氷が頑として動かない。シャベルで突いたぐらいでは割れないのです。それだけでも、例年よりかなり寒いことがわかります。池に集まった渡り鳥たちも泳ぎまわれるところが減って、真ん中の小さなスペースに押しこまれ、窮屈そうにしています。一方で、庭の池が凍ったおかげて、今年はサギやカラスに鯉が狙われないと喜ぶ声も聞こえてきます。

そこではたと気がついたのですが、この冬はサギの姿をほとんど見かけない。前の年に生まれた幼鳥は、リスクを伴う渡りをせずに居残るようになっていましたが、この冬の寒さでは春まで生き延びられないと判断し、親が連れて行ったのかもしれません。

冬がだんだんあたたかくなって、幼鳥の餌ぐらいならなんとかなると判断すると、危険の多い渡りを避けて残しておく。それが恒例になっていても、今年のように池や沼が凍りつきそうだと思うと、いっしょに飛び立つ。このあたりの判断力と臨機応変、さすがプロフェッショナルと感心させられます。

それにしても、人間はいつごろからそういうプロではなくなってしまったんでしょう。育児のみならず、犬猫すらまともに飼えない、鉢植えは枯らしてしまう・・・。マニュアルなしにはなにもできない、無能な生きものに成り下がってしまいました。農薬がなくては野菜が作れない農家なんかも、そういう意味ではプロとはいえませんものね。

だれのものでもなかったはずの土地を所有し、家を建て、家財道具が増えていく過程で、身体に脂肪がまつわりつくように、感覚も鈍くなっていくのでしょうか。なんにでも値段がついて、お金で売り買いできるようになると、商品価値のないものには価値そのものがないように思われる。そうやって生命の根幹に関わる大事なものを見失ってしまったのかもしれません。

でも、人間も動物ですから、水面下では生きもの本来の意識が動いているはず。渡り鳥の知恵には及ばないでしょうけど、悲観するほどでもないと思うんです。そのひとつが少子化現象。これは経済的な側面から見たら大問題かもしれませんが、もっと大きな目で見たら、人類がこれ以上増えると地球が立ちゆかなくなるということを、若い人たちが無意識に感じ取っているからだと思うんですけど、考えすぎかな?

その数少ない子供たちが虐待されたり、満ち足りた生活をしていても学校でいじめ合うとか、そういうニュースを接すると、以前テレビで見たアザラシの生態の報告を思い出して暗くなります。

北極近くに住むアザラシの環境は、その映像を見た二十年前、すでにかなり悪化していました。カナダの製紙工場の排水が原因で、奇形が生まれるようになり、オスの行動にも変化が現れていたのです。

ご存じのようにアザラシはハーレムを作りますから、繁殖期にはふたつの群れができます。ひとつは一頭の強いオスとメスたちの群れ。もう一方はその他大勢のオスたちです。一度ボスが決まると、繁殖はすべてそのオスに委ねられ、強い遺伝子がすべての子供に受け継がれることになっていたのですが、突如、若いオスのグループが繁殖期にふたたび闘いを挑むようになったのです。

するとどういうことが起こるかというと、複数のオスが死闘を繰り広げるので、まわりにいるメスが生まれてきた子供もろとも圧死させられる。パニックに陥ったメスたちにまわりの子供が押し潰されてゆく。そしてオスはといえば、闘いを挑んだほうも挑まれたほうも、深い傷を負って息も絶え絶え・・・。そんな地獄絵図が繰り広げられていたのです。

末期的症状以外のなにものでもなく、アザラシたちはみずから滅びようとしているかのようでした。環境の変化というのはおそろしいものです。これはいずれ人間界にも起こることではないか、とそのとき不吉な予感がしたのですが、母親が悪鬼の形相になろうとは、思いもよりませんでした。イジメのほうは、子供たちが大人の世界を真似ているとしか考えられない。パワーハラスメントなどという言葉が生まれるぐらいですからね。

わたしたちはそれに対してなにもできない。カナダの工場で作られる紙だって、多くは日本向けだったでしょうしね。若者の意識の底を脈々と流れているにちがない、生存本能みたいなものに期待するしかありませんよね。オトナはダメです。政治も十八歳以上、四十歳未満に委ね、老いぼれたちは早々に引っ込んだほうがいいと思いませんか?

今週の野菜とレシピ

今週は青山さんのほうれん草が入る予定でしたが、日曜日の夜から降り出した雪で、ふたたび埋もれてしまいました。ちぢみほうれん草は小さいため、雪の中で収穫すると葉っぱが傷んでしまうのです。そんなわけで、雪の影響を受けにくい大根に代えさせていただきました。

白菜の煮浸し

白菜も青山さんから・・・。雪や霜にあたって甘く、やわらかくなっています。これは煮びたしがおすすめ。昆布と鰹節で濃いめに出しをとっておきます。土鍋に白菜をぎゅうぎゅうに詰め、ひたひたまで出しを入れ、酒少々を加えます。味つけは塩だけで、最後に香りづけに醤油を少々。白菜の甘みがいちばんよくわかる調理法だと思います。


春菊はさっと湯がいて、胡麻酢和え。酢少々に砂糖と醤油を加え、摺り胡麻をたっぷり入れて和えてください。

お昼によく行くお蕎麦屋さん。この時期になると蕎麦やうどんの青みに山菜のようなものが入っています。これがおいしくて、なにかと尋ねたら、春菊の茎という意外な答えが返ってきました。茎の太い部分を半割りにしているだけ。それが八百屋のわたしたちでさえ、これはなに?というぐらい、おいしいものになるのです。ぜひお試しください。