渡り鳥

2011年10月第1週

今週の野菜セット

左から

ついこの間まで、ツクツクボーシが選挙戦の「最後のお願い」みたいな連呼を繰り返していましたが、それがぴたりと止んで、夕刻にはじまる秋の選挙戦まで、静けさが訪れるようになりました。しんと静まりかえった日中は、たとえ気温が高くなっても、もう秋の気配。先月までのエネルギッシュな息吹はもう感じられません。

八月の末に狂い咲きしたアラレちゃんちの銀木犀が、十月の声を聞くなりふたたび開花。今まで見たことがないくらい、たくさん花をつけているとのことで、どうなっているんでしょう。それに金木犀も加わって、あたり一面、芳香に包まれているそうです。わが家の金木犀もようやく蕾が上がってきたらしく、車を降りると甘い香りが鼻先をかすめるよぷになりました。

季節のせめぎ合いもようやくケリがついたようです。刈り入れの終わった田圃には、カラスが舞い降りて落ち穂拾いの真っ最中。やがてその田圃にも火が入れられて、全体がカラス色になる。これは虫除けを兼ねて、炭化した稲ワラを肥料にするためです。ミニ焼き畑ですが、あたりに立ちこめる煙の匂いがまたいいんです。秋はやっぱり香りの季節なのかもしれませんね。

先週のはじめですから、ようやく秋風が立ち、朝夕肌寒くなったころでしょうか。ここからの帰り道、サギの渡りに遭遇しました。おびただしい数のサギが益子の平野部から、今まさに飛び立とうとしているところ。それはもう壮観で、わけもなく涙がこぼれ落ちそうになるぐらい、感動的な光景でした。

渡り鳥の旅立ちに立ち会えるのはほんとうに稀なことで、わたしなんか三十年も益子に住んでいますけど、サギの渡りに遭遇するのはこれがはじめて。旅立ちといえば、二十年ぐらい前に今回とおなじ農道でツバメの大群を見かけたのが最初で最後でした。

農道というとみなさんは畦道みたいなのを連想されるかもしれませんが、じつは国道級の広い道路です。お国が作る道路ですから、ふつうに車が行き来する県道や市道よりはるかに立派。そんなものが田圃や畑に囲まれて、延々と続いているので「田舎の高速道路」とも呼ばれています。信号もないからみんな飛ばすので、事故も多いみたいです。

そんな広大な道の両側、電線にびっしり二列から四列ずつ、隙間なしに燕尾服で正装したツバメが並んでいる光景を想像してみてください。車を止めて最敬礼したくなるものです。ツバメたちの出発を見送りたくて、かなりの時間粘ってみましたが、いっこうに動き出す気配がないので断念。しぶしぶ帰途につきましたが、帰って暦を調べてみたら翌日が大安になっていました。そうか、夜明けを待って出発するつもりだったのか・・・。

渡り鳥は大安吉日をちゃんと選んで移動する、という話を聞いたことがあったのです。翌朝、わたしが農道に駆けつけたときには、もうツバメたちの姿はありませんでした。おそらくその日のうちに太平洋に面した海岸線に移動。そこで体を慣らしながら次の大安を待ち、海上に飛び立って行ったのでしょう。

サギの旅はツバメほど長くはなく、パスポートも不要の国内旅行。このあたりから沖縄まで飛ぶケースも稀で、紀伊半島の南端か、遠くても四国あたりまでの旅だそうです。そうはいっても身体が大きい分、移動にかかる負担も大きいはず。無事に帰って来てね、と祈らずにはいられません。

今年生まれた幼鳥たちは、移動する親たちとは逆に平野部から山間に移動するのでしょうか。保護色のグレーの羽をまとった子供たちが増えているようで、わが家の犬はそれが気になってしかたがないみたい。追いかけたところで捕まるわけもないのに、刈り入れの終わった田圃を縦横に疾走しています。ま、いい運動にはなるとみえ、夏の間衰えていた食欲もすっかり回復しています。

ウグイスやホトトギスの声も、そういえばだいぶ前から聞こえなくなりました。夏鳥が姿を消してしまうと紅葉がはじまり、それが散るころには今度は北のほうから冬鳥が渡ってきます。贅沢な暮らしは求めませんが、こうした自然界の来賓をちゃんとおもてなしできる環境だけは、しっかり守ってゆきたいものです。

クリーンでエコで申し分ないはずの風力発電も、数が増えれば渡り鳥の被害が甚大なものになる。それに加えて低周波の問題も出てきそう・・・。脱原発を選択できたところで、わたしたち庶民はなかなか気が許せないようです。

今週の野菜とレシピ

今週は好子さんの里芋が入る予定でしたが、台風15号でビニールハウスが飛ばされたため、そちらのほうに手を取られ、掘っている余裕がなかったそうです。小松菜も風にあおられたり、泥をかぶったりして葉っぱが傷んでいるようですが、おつゆの実にご利用ください。

豚肉の生姜焼き

青山さんの新生姜。これで豚肉の生姜焼きを作ってみましょうか。生姜には蛋白分解酵素・プロテアーゼが含まれていて、これが肉類をやわらかく、消化しやすくしてくれるので、生姜焼きというのはとても理にかなっているのですが、いざ作るとなると肉が水っぽくなったりしてなかなか思うようにはなりません。そこで生姜はすり下ろさずに、薄くスライスしてから細かく針のように切ってみました。豚肉が200グラムなら、生姜は50グラム以上、たっぷり用意しておきます。

フライパンに植物油少々を熱して、豚肉を強火で炒めます。しっかり焼き色がついたところで生姜を加え、砂糖大さじ1杯をからめて全体に照りが出てきたら醤油をまわしかけます。こうすると豚肉の旨みが逃げず、生姜もよくからまってメリハリのある味に仕上がります。つけ合わせはルッコラ、もしくはラデイッシュで・・・。


朝夕の気温が下がってくると、秋・冬野菜の生育が待ち遠しくなります。畑のほうが季節に追いつくまで、申しわけありませんがもうしばらくお待ちくださいね。