秋の夜長

2011年11月第4週

今週の野菜セット

左から

寒くなる、寒くなるという気象庁のかけ声にもかかわらず、なかなか冬らしい気候にはなりません。霜が降りそうな寒い朝でも、日が高くなれば小春日和。セーターなど引っ張り出した日には、汗ばむぐらいです。

こんな風に気温の変動が大きいときは風邪をひきやすいので、抵抗力のない幼児やお年寄りは要注意。もちろんわたしたちも慎重に、身体を冷やすようなことは避けたいものです。あたたかいとはいえ、もうすぐ師走。体力と体温はしっかり温存してください。

日を追うごとに日暮れが早くなり、夕刻には気ぜわしさと心許なさに追い立てられる時期でもあります。するするすとんと釣瓶落としのように日が落ちて、暗くなった道を真っ黒い犬を散歩させるのも、目がちかちかするぐらい疲れるし、畑に葱や三つ葉を採りに行くのも闇の中。毎夕、時間泥棒にごっそり時間を盗まれているような気分です。

その分、夜が長くなる。あたりまえの話ですけど、夕飯を終えてからの時間がその分長く、もてあましかねません。日曜日に収穫した柚子を搾って、ひと冬分のポン酢を作り、皮は湯がいて砂糖漬け。ひと冬分の柚子茶なども作っていたら、いつの間にか夜も更けているのですが、そうそう毎晩保存食や漬け物作りで遊べるわけではありません。

秋の夜長はやっぱり読書に向いているようです。職業柄、デイビッド・モントゴメリー著「土の文明史」(築地書館)がこの秋いちばん面白かったのですが、内容は面白いなどといってはいられないもので、農耕の歴史がそのまま森林破壊と土壌劣化の歴史であり、人の営みがいかに地球を食いものにしながら疲弊させてきたか、過去の文献と綿密な土壌調査をもとに解き明かしています。これを読んでいると、なぜローマ帝国があんなに巨大化したあげく、滅亡せざるを得なかったかがものすごくよくわかる。

それと同時に、なぜヨーロッパに大航海時代が必要だったか、そして現代にいたっては、アメリカ合衆国になぜ経済のグローバル化が必要なのか、なんの進歩もなく、おなじことが繰り返されているのがわかります。本を読むと眠くなるという人も、この本に関しては心配ご無用。逆に眠れなくなるかもしれません。飽食の時代などという一抹の夢のような、いびつな世界を生きているわたしたちに、この本は冷水を浴びせるごとく、夢から覚めよと語りかけているのですから・・・。

その昔、生まれてはじめて専業主婦というものになったとき、毎日毎日、今夜のおかずはなんにしよう、と考えなければならない生活がものすごく不自由に思えたことがありました。なんとも贅沢な悩みだったわけですが、今でもときどき、スーパーで出会う顔見知りからおなじような愚痴を聞かされると、ほんとにそうよねえと相槌を打ちながら、食べる、食べさせるという問題の深さに思いが至るのです。

たしかに日本の主婦は、じつにさまざまな種類のおかずを作っています。昨日は中華だったから今日は和食にしてみよう、といった風に選択技が他国の主婦にくらべて多すぎるという面があり、それがなんでも手作りする人と、台所に包丁もまな板も置いてない人という、極端な二分化を招いていることも否めません。

贅沢ではあるけれども、中には身体のためには食べないほうがいいというものも多々あるわけで・・・。それに、いつでもどこでもご馳走が食べられるようになった反面、素材のレベルが落ちるという問題も出てくると、ほんとうの意味の贅沢とはいえず、ただの浪費、悪しき習慣になってしまうのです。

そこで専業主婦になりたてのころにあこがれた、ニューギニアとかアンデス高地で営まれているシンプルな食生活が、ちがう側面から理想的に思えてくるわけです。サゴヤシのデンプンを固めた、甘みのないわらび餅みたいな主食に野菜と川魚。あるいは、わたしたちが知っているジャガイモよりはるかに小粒な主食にすこしの肉といった食事・・・。パラグアイの山中で過ごしたことのある隣人によると、食事は貧しいし、毎日おなじものばかり食べさせられる。でも、おいしいものにしか出会ったことがない、という言葉がそれを後押しするのですね。

ほんとうにおいしい、身体にいいものだけを食べようと思ったら、食生活はシンプルになるし、身の丈に合った食糧だけを手に入れようと思っても、それは質素なものにならざるを得ない。わたしたちのきらびやかな食卓は他者からかすめ取ったもの、大地から過剰に搾取されたもので成り立っていると思うと、まず脳みそのほうからダイエットしなければならないのかもしれません。

現行農法では畑を耕すにも種を蒔くにも、できあがった作物を収穫するにも大量の石油を消費します。ハウスの暖房もそうですし、化学肥料も石油から作られることを思うと、大地を石油まみれにしていることになる。そんな農業にどんな未来が待ち受けているか。子孫に残すべきものまで食いつくしてしまいかねない食生活もまた、見直されるべきだと思いました。

今週の野菜とレシピ

どれだけ冬らしくなってくれるかわかりませんが、今週は鍋ものセットです。

鍋ものの主役といったら白菜ですが、鍋で消費する量というのは意外とすくないもの。そこで残った白菜を使ったレシピです。

白菜ももみもみ漬け

白菜を四等分して、5ミリぐらいの厚さにざくざく切ってボウルに入れ、胡麻油と醤油をかけ、菜箸ではなく手でまんべんなく混ぜこんで、白菜がしんなりしたらできあがり。器に盛ってから、煎り胡麻をすこしずつ指先でひねりながらかけてください。指先で軽くつぶすことによって、胡麻の香りが倍増されます。

白菜の煮びたし

おなじく四等分した白菜を4~5センチに包丁を入れ、鍋底に隙間のないように並べ、ひたひたに出汁を張って火にかけます。味つけは酒と塩だけ。シンプルな料理だけに、出汁だけはきちんと取ってください。煮干しでも鰹節でもけっこうですから、水を張った鍋に昆布といっしょに半日ぐらい浸しておき、弱火で加熱すると濃厚なおいしい出汁が取れます。これは白菜の甘みがいちばんよくわかる調理法。残った煮汁でうどんを煮てもおいしいですよ。