原発事故よりすごい核実験の数

2011年5月第3週

今週の野菜セット

左から

薫風さわやかな五月、といいたいところですが、この風にはよけいなミネラルも混入しているようで、神奈川県の新茶や静岡県の玉葱からもセシウムやヨウ素が検出されました。

茶葉農家は一年間の収入の大部分を新茶から得ています。それは茨城や千葉の漁師がこの時期のコウナゴ漁を主に生計を立てているのとおなじです。二番茶以降の収穫は茶摘みの人件費にあてられているのだとか。つまり生活の根幹が揺るがされているのです。

静岡県島田市の永井農園からも新茶のお知らせと、いっしょに放射線量を計測したファックスが送られてきました。基準値を下回るデータではあるのですが、例年通りの売れ行きは望めないかもしれない、とのこと。ものすごくパワフルな奥さんで、いつもなら電話の向こうから弾けるように元気な声が届くのですが、今年は一瞬、人違いかと思ったほどでした。

こうしたデータを見ていると、二十キロとか三十キロという同心円を描いて立ち入りを制限するのが、いかに無意味ではた迷惑なことか、よくわかります。地形に加えて、風の吹きかた、雨の降りかたで距離に関係なく放射性物質が蓄積されるからですね。福島第一原発から百五十キロのこのあたりと、三百キロの地点の数値に大差がないこともそれを証明していましたし、神奈川や静岡となると距離的にはもっと離れているんですから・・・。

アラレちゃんの実家は北九州なので、友人の多くは放射線とは無縁のところにいるのですが、そのひとりからこんなメールが届いたそうです。こちらは中国大陸に近いため、これから光化学スモッグがひどくなる。黄砂の飛来も頻繁で、それに含まれる重金属も、目には見えない脅威という点では放射能と変わりがない。もう日本中、どこに行ってもきれいな水や空気なんて望めないのかもしれないよ。

友達はたぶんこちらを慰めてくれているんだろうけど、逆に落ち込みそうだよね、というのがこちらの反応でした。前にお話しした日光三山の北斜面の枯れ木も、その後聞いた話では十年ぐらい前、黄砂が大量に押し寄せたせいだったそうです。十年前の中国といえば今よりずっと規制も緩く、環境への配慮など無きにひとしかったはずですから、山の斜面全体が白くなってしまっても不思議はなかったとのこと。

日本中、ではなくて、世界中なのかもしれません。皮肉なことに、わたしが「世界はひとつ」と実感したのが二十五年前、チェルノブイリ原発の事故のときでした。だって事故が起きて三日もしないうちに、千葉県の野菜やミルクからセシウムやヨウ素が検出されたのですから・・・。もちろん千葉県だけの話ではなかったはずですが、原子力発電を推進していた立場上、全国的な調査は行われず、国もマスコミも多くを語らず、お茶を濁してしまったんですね。

そして間もなく、輸入品から原産国の表示が消え、輸出国だけが表示されるようになったのも記憶に新しいところです。ウクライナはその年の小麦を全量収穫しましたから、それは出荷する港を変えて世界中にばらまかれ、わたしたちの口にも入っているはず。世界は平等に汚染される。自分だけがきれいな水を飲み、きれいな空気を呼吸しようなんて望んではいけないし、望んでもできないことなんだ、と思ったものでした。

でも、原発事故はみんなが神経をとがらせているからまだいいんです。データもある程度は公開されるので、対処のしようがあるからです。それに人間だって生きものですから、不都合なものは排泄しながら、しぶとく生き延びられるようにできている・・・。いちばんいい例がわたしたち団塊の世代です。

わたしたちの世代は学校給食で、涙が出るほどまずい脱脂粉乳をずっと飲まされ続けました。先生によっては残すのが許されるクラスもありましたが、たいてい無理矢理飲まされたものです。わたしは鼻をつまんで飲んでいましたが、中には泣きながら飲んでいる女の子もいて、そういうミルクをおれが飲んでやるという男の子は、みんなから英雄扱いされていたものです。

アメリカは当時、ネバダ州あたりの砂漠でさかんに核実験をやっていて、その風下の草を食べた牛のミルクから、かなり高濃度の放射性物質が検出されていたそうな。当然、飲用にはできません。それをどうしたかというと、脱脂粉乳に加工して敗戦国に押し売りしたのです。しかも子供に飲ませたのですからね。当然、パンの原料になる小麦粉も汚染されていたでしょうから、広島、長崎に続く人体実験をやってくれちゃったわけ。

実験動物さながらのわたしたちは、しかし今の子供たちよりはるかに逞しく、成人するや第二次ベビーブームを生み出し、一世代上の人たちが築きあげた高度経済成長をちゃっかり受け継ぎ、バブル経済なんてものまで創出したのです。ま、個人的には無縁でしたけどね。それが萎んで次世代にツケをまわしておきながら、ゴキブリのように生き延びているのがこの世代です。

今、福島県内の小学校では校庭の砂が問題になっていますが、わたしたちの体内被曝はそんな比ではなかったはずです。昔にくらべて癌の発症率はたしかに増えていますけど、そのリスクはタバコが一身に引き受けてくれています。でも、各国の政府が本気になってすべての農産物と海産物を調査したら、放射性物質の検出されない食べものなんて皆無にひとしいはずです。

第二次世界大戦以降、アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国によって世界各地で行われた核実験は2053回。それによってまき散らされた放射性物質はチェルノブイリ事故の千倍ともいわれていて、南太平洋には未だに人の住めない島もあるぐらいです。わたしたちはチェルノブイリ原発によってはじめて、放射能汚染というものに直面させられましたが、そのときすでにあちらでもこちらでも大地や海は汚染されていたわけです。

ちなみに前世紀末までにアメリカが行った核実験が、なんと1032回。このうちの2回は広島と長崎で、あとは南太平洋、国内では太平洋側の砂漠地帯、だいたい先住民の居留地周辺です。次いでソ連が715回で、主に黒海周辺と北極海。フランスが210回で、かつて植民地だったアルジェリアの砂漠地帯と南太平洋、イギリスの45回はナイジェリアとオーストラリア国内、南太平洋で、中国45回は自国の内陸部、あとはパキスタン4回、イランが2回となっています。

人類がほかの哺乳類と決定的にちがっているのは、自殺願望があることだ、となにかで読んだ記憶がありますが、これを見たら納得しちゃいますよね。

今週の野菜とレシピ

今週はフキが入りました。地温が低いからでしょうか、今年はフキの生育も例年より遅れているようです。

加熱したほうが皮が剥きやすいので、葉っぱを切り落とし、茎のほうから湯がいてください。茎を取り出して冷水に取ったら、残りのお湯に葉っぱのほうを浸します。加熱する必要はないので、葉っぱがしんなりしたらザルにあけておきます。

皮を剥いて切りそろえたフキは出しで煮るか、油炒めしてきんぴらに。葉っぱのほうは佃煮にします。縦横に包丁を入れて細かくした葉っぱを絞り、水気をよく切ってから同量の酒と醤油で煮ます。煮汁がなくなってきたら、火をすこし強めて箸でかき混ぜるように炒りつけてから火を止めます。鍋の底に残った葉っぱと同量の鰹節を加え、ふたたびかき混ぜながら湯気を散らしたら出来上がり。

好子さんのきゅうりが遅霜にあたったせいか、不調なので今週も愛媛からの救援きゅうりが入ります。

山形県からはおかひじき。これはさっと湯がいて、マヨネーズと醤油で食べてみてください。しゃりしゃりした歯触りがなんともいえません。

小松菜京菜はおつゆの実。ルッコラはサラダにしてどうぞ。