小さな地球・大きな爪痕

2011年9月第3週

今週の野菜セット

左から

台風一過で秋になるかと思ったら、それほど甘いものではなかったみたいですね。朝夕の風も肌寒いかと思えば、湿度が加わって生ぬるくなったり…。なかなか区切りがつかないようです。

今年は心身ともにストレスに苛まれることが多いからでしょうか。健康には自信があったはずの農家が、血圧が高くなって目をまわしたりしています。わたしたちも、とくにこんな季節の変わり目には健康管理を怠らないよう、用心しなくては…。血圧も測ってみたほうがよさそうですね。

台風12号の傷跡を見ていると、これまた津波に遭遇したかのようなありさまで、あの豊かでうつくしかった紀州が…と、呆然となりました。十津川に架かっていたあの吊り橋も、流されてしまったのでしょうか。狭くて長くて怖かったあの吊り橋を渡りきり、車で伊良湖まで降りてきたところで雨になり、東京も雨かもしれないと思っているうちに雪になり、東名高速で立ち往生。東京は記録的な大雪になり、こんなところはもうイヤ。年をとったらぜったい和歌山に引っ越そう、なんて思ったのがついこの間のことみたいです。

温暖な紀州どころか、東京より寒い栃木県に来てしまったんですけどね。一度でも訪れたことのあるところが、変わり果てた姿になってしまうと、自分の宝石箱をひっくり返しでもされたような気がするものです。

三陸の光景も同様でした。あの入り組んだリアス式海岸沿いに旅をしていて、どこでなにを食べてもおいしかったのですが、とくに期待しないで入ったドライブインのラーメンが圧巻でした。丼の中にこれでもかというほど巻き貝やら二枚貝、魚介類がふんだんに入っていて、そのスープの濃厚さといったらブイヤベースも足下に及ばないほど。500円かそこらのラーメンなんですよ。

そんな宝石箱のようなラーメンもひっくり返されてしまったわけです。道路や橋は元通りになることはできても、1.5京ベクレルもの放射性物質が流出した海を浄化しようと思ったら、気の遠くなるような時間がかかりそう…。あのとき食べた巻き貝や二枚貝は、ほんとうに宝石のように手の届かないものになってしまったのだと思うと、失われたものの大きさに愕然とします。

失われたにちがいない生活に思いをはせると、そんな旅行者の感傷など立ち入ることのできないほど深い、暗い闇が立ちはだかります。でも、これは他人事ではありません。どこに住んでいようと、明日はわが身という可能性から逃れることはできないからです。

フクシマを忌み嫌う京都市や福岡市だって、すぐそこに放射性物質のたっぷり詰まった風声がぶら下がっていて、ちょっと突けば炸裂することがわかっているのに、そちらのほうは見て見ぬふり。騒ぎもせずに、既成事実にばかりこだわろうとしているみたいです。なんだか滑稽で、なんだか悲しい。そんな気持ちがまったくわからないわけでもないから、自嘲もこめて、ですけどね。

地球が1個の野球ボールぐらいの大きさだとしたら、海の深さは平均およそ1ミリぐらい、大気圏もそんなものです。そんな地球を想像したら、自分だけが安全な場所にいて、きれいな水を飲みたいなんて、相当なエゴイストでも望めなくなるはずです。ふつうのエゴイストもまた、これ以上汚染を拡げてしまったら、いくらなんでも子どもや孫の世代に迷惑がかかりすぎるんじゃないか、と思うはず。

25年前のチェルノブイリ事故のとき、3日もしないうちに関東地方にセシウムを含む雲が到来。静岡のお茶からそれが検出され、それまで歯が浮くような言葉だと思っていた「世界はひとつ」が、ああ、ほんとうのことだったんだ、と実感されたのを思い出します。

天はひとつ、海もひとつ。そしてどちらも無限に広がっているものではないとわかったとき、目の前が真っ暗になるどころか、逆に奇妙な安堵感に包まれたのですが、あれはいったいなんだったのでしょう。ある種の諦念が心の平安をもたらすのだとしたら、あくせくと前進することだけが幸福の条件ではなかったことがわかります。この国のみならず、すべての人が一度立ち止まり、沈思黙考してみるときなのかもしれません。

今週の野菜とレシピ

中秋の名月には間に合いませんでしたが、里芋が入りました。里芋が大きくなるのはこれからなので、今週は秋の気配程度に500グラムずつ入っています。衣かつぎの味噌汁の具にしてください。


芋茎

芋茎は3~4センチにざくざく切って湯がいておきます。火を通しすぎると歯ごたえがなくなってしまうので、沸騰したらすぐにザルに広げ、湯がくときに使った鍋1杯の水で粗熱を取ってください。酢:1、砂糖:2、醤油:3にたっぷりのすり胡麻を加えて和えます。冷蔵すれば日持ちがする上、だんだん味がしみておいしくなるので、多すぎるかなと思う量でも無駄にはなりません。

湯がかないで生のまま、唐辛子といっしょに塩漬けにすることもできます。できるだけ重しを強くするのがコツで、唐辛子のピリ辛と塩味が芋茎のほんのりした甘みをひきたてます。


生落花生

生落花生は海水と同じぐらい塩分を強くした水で湯がき、鍋に入れたまま冷ましてください。冷めたら水気をよく切って、箸休めや晩酌のお伴に…。蓋付きの容器に入れて冷蔵庫に入れておくと日持ちするので、これも一度に全部湯がいてくださいね。


モロヘイヤが終わりに近づき、とうとう野菜セットから青物が姿を消してしまいました。好子さんが小松菜の種をまいていますが、来週あたり、味噌汁に浮かべるぐらいになってくれているでしょうか。残暑の有無にかかわらず、この時季になると青菜が恋しくなってくるから不思議です。