多雨と低温の夏

2011年8月第1週

今週の野菜セット

左から

先週は雨ばかり降っていましたが、これは空梅雨のつじつま合わせみたいなものなのか。いや、ぜったいに秋雨前線だ、という意見もあって、もとより気象庁はアテにならず、侃々諤々の一週間でした。

こちらがそんな暢気な議論をしている間に、新潟・福島の両県ではあちこちで堤防が決壊。友人宅のテレビでその映像を見て、唖然としてしまいました。

東北の受難が続きますが、いったいどうしたことでしょう。

新潟・福島に大雨を降らせた雲は、そのままこちらへ南下してきましたが、日光連山に阻まれて群馬のほうに流れた模様。わたしたちはまたしても日光の山々に救われたわけです。北西から流れてくる放射性物質もかの山が遮断。しかたなく上昇気流に乗ったそれが遠方にまで達してしまいましたが、山そのものが抱えこんだ汚染は大きく、今回も日光周辺では大雨になったようです。

地理的な好条件といってしまえばそれまでですが、なんだか申しわけないような気分。本来こちらが引き受けるべき受難を、余所に肩代わりしてもらっているような居心地のわるさはありますが、度重なる幸運に甘んじているしだい。

とはいっても、こちらでもこの時期としては過剰な雨量で、まるで台風時のように、バケツをひっくり返したような降り方をするかと思えば、ぴたりと止む。その繰り返しで、雨雲の切れ目にあわただしく野菜を収穫しなければなりませんでした。はじめのうちは恵みの雨と歓迎していた農家も、何日もそれが続くとうんざりしてきて、今度は野菜が病気になるんじゃないかという心配がはじまりました。

雨量よりも問題なのは低温が続いていること。今のところだれも騒いでいませんが、今後も気温が上がらないようなら、そのうち米の不作が話題になること必定で、この春のタケノコの不作と相まってイヤーな予感がよぎります。過ごしやすいのはいいけれど、やっぱり夏は暑くないと困るわけで、雨上がり、ひさびさに見る青空に「わあ、秋の空みたい」なんてだれかがいうと、どきっとさせられます。

雨上がりの裏庭に出てみると、いたるところにちいさなキノコ。山の中もキノコだらけです。でも、食べられるキノコではありません。バターと蜂蜜をたっぷりかけたホットケーキにそっくりな、うまそうなキノコもありますが、もちろんこれも食べられない。食べられるものもあるのですが、そういうキノコはひっそりと身を隠すようにしてますもんね。

季節外れの多雨がもたらしたキノコですが、キノコが出るということはカビも発生するということ。農作物の病気というのは、ほとんどこのカビによるものなんです。たとえば白カビはウドンコ病、赤カビは赤錆病、黒カビはすす病といった具合。カビの数だけ病気の種類があるといっても過言ではありません。

旱魃気味で作物の体力が落ちているところに雨が続くと、作物にカビが寄生しやすくなるようで、今回はトマトがやられました。南米原産のトマトはもともと雨に弱く、そのため真夏でも雨を避けるためにビニールハウスで作られるのですが、ハウス内が多湿になるとカビが発生しやすくなります。だから大量に農薬が使われるのですが、農薬散布したものを扱うわけにはゆきません。

そんなわけで今年は早々に野菜セットからトマトが姿を消してしまいました。申しわけありません。

あちこちで、今年はセミがすくないという声が聞かれるようですが、このあたりでも八月に入ってもミンミンゼミの羽音が聞こえません。聞こえてくるのはニイニイゼミばかり。あのチー、ジーという二つの音階しかない単調で地味な羽音です。バックコーラスだけでメインのボーカルがいないみたいな、さっぱり盛り上がらない音楽会よう・・・。

でも、夕刻のヒグラシは数を増して賑やかになってきました。賑やかといっても、あの儚さにワビ・サビの香辛料をふりかけたような羽音ですからね。一陣の風を感じさせるようなカナカナも、真夏日ならともかく、薄ら寒いような夕刻に聞くと侘びしい気分が先に立ってどうもいけません。

やっぱり夏は暑い、暑いと騒いで、暑いと口にするたびに罰金を徴収されて、集まったお金でビールを買ってくる、ぐらいのほうが健全でしょう。ミンミンゼミが鳴き出す前に、ツクツクボーシが夏の終わりを告げるんじゃないか。そんな心配をするようでは、ビールもあまりおいしくないと思います。

今週の野菜とレシピ

トマトが姿を消したかわりに、乾燥でダメになりかけていたセロリが復活しました。セロリは意外にも多湿を好む野菜だったのです。

セロリとちりめんじゃこの油炒め

ただし、一度ダメになりかけたぐらいですから、株は小ぶりです。茎も葉もいっしょに刻んで、ちりめんじゃこといっしょに油炒め。フライパンに油を敷いて、ちりめんじゃこをよく炒め、胡麻油を加えてセロリも炒めます。生食できるくらいですから、長く加熱する必要はありません。醤油と一味とうがらしで調味して、仕上げに煎り胡麻をたっぷり加えます。

ちりめんじゃこに塩気があるので、醤油の量には注意してくださいね。セロリのにおいが苦手という人も、これを食べると好きになってしまいます。好子さんがいい例で、この佃煮もどきをプレゼントしたとたん、セロリ嫌いが大好きになって、みずから作るようになったのです。

ご飯のおかずに最適ですが、これは夕食のみ。なぜ朝食や昼食ではダメなのかというと、セロリにはメラニン色素を定着する働きがあるからです。若いころ、それを知らないで朝からサラダなんか食べていたから、おかげでわたしの顔はシミだらけ。みなさんにはそうなってほしくないので、ご忠告申しあげたしだいです。


ぼっちゃんカボチャは少人数の家庭にぴったりのサイズで、皮がやわらかく、扱いやすいのも助かります。煮る、揚げる以外にも蒸して、みじん切りの玉葱、ぬるま湯でもどしたレーズンといっしょにサラダにしてもおいしいですよ。

来週はゴーヤが入る予定ですが、ゴーヤをおいしく食べるためにも暑くなってほしいものです。