ほんものの熱帯夜

2011年7月第3週

今週の野菜セット

左から

今週も暑くなりそうです。

この夏、ゴーヤを担当。なんとしても出荷せねばならない身としては、暑さにうんざりしながらも、よっしゃ、よっしゃ、この調子。明日もガンガン暑くなれと念じているのですが、よく考えたらゴーヤって沖縄が本場でしょ。沖縄は南国ですが、いくら暑いといっても気温が三十五度を超えることはないそうです。だからほどほどの暑さが続いてくれればいいわけです。

ところがこの暑さ、今がピークなのではないか。八月に入るころには秋風が立つんじゃないだろうか、という一抹の不安があります。なぜかというと、好子さんのモロヘイアも友人宅のバジルも早々に花をつけはじめているからで、ゴーヤも同様。まだ蔓が十分に伸びきらないうちから、黄色い花を点在させていて、去年青山さんの畑で見た光景とはだいぶ趣がちがうのです。

アラレちゃんの庭先には早くもミノムシがぶら下がっていて、この炎天下で熱中症になるんじゃないか、なんて心配しているし、なんとなく季節が前倒しになっているような気がします。日中の気温が高いわりには夜が過ごしやすく、熱帯夜というのも今年はあまり耳にしません。

もっとも熱帯のジャングルは日中四十度以上になり、湿度も高いけど、夜になると急に涼しくなるそうで、蒸し暑い夜を熱帯夜と呼ぶのは熱帯に対して失礼だ、と動物行動学の日高敏隆氏がなにかに書いていました。日中の気温は四十度近くなるけれど、夕刻には涼しくなるのですから、そういう意味ではこれがほんとうの熱帯夜。早すぎる秋の前兆でなければいいんですけどね。

ところで、毎年夏がちかづくとこの職場にはアシナガバチの出入りが頻繁になり、室内外の巣を合わせると二十個ちかくにもなっていたのですが、一昨年、これがヒメスズメバチの目にとまって、幼虫が全部食べられてしまうという惨事があってからは、寄りつかなくなっていました。

したがって去年はハチの巣がゼロ。あーあ、とうとう見放されてしまったよ。商売上がったりだよ、と嘆いていたら、今年はこれまで見たこともない黒っぽいハチが天井ちかくに営巣をはじめたのです。ツバメの巣を小型にしたような、泥と唾液でできた巣です。幸運の女神が来てくれたのはいいんだけど、この人いったい誰?トックリバチに似てるけど、巣の形が徳利じゃない。いずこの国の女王さまであらせられるのか、わかりかねていたのでした。

アラレちゃんがインターネットで検索した結果、ドロバチと判明。トックリバチの仲間だそうです。肉食のハチで、蝶や蛾の幼虫を運んできて幼虫に与えます。トックリバチはちいさな徳利型のシェルターをいくつも作り、その中に餌になる青虫を何匹も入れ、ひとつの巣にひとつずつ卵を産み落とすんですね。青虫が腐らないよう、麻酔をかけて仮死状態にしておくという高度な技術も使います。陶芸家と麻酔医とハンターを兼ねているわけ。

卵が孵化すると、幼虫は用意された餌を食べ、サナギを経て一人前のハチになると蓋を食い破って出てくるという寸法です。では、ドロバチはどういう手を使うのか。トックリバチにくらべたらかなり巣が大きいので、集団育児でもするんでしょうか。でも、ふつうハチの巣といったら個室の集合体みたいなもんでしょう?ツバメの巣のような形態がこれからどう発展し、子供たちが育つのか、興味津々。しょっちゅう仕事の手を休めて観察しています。

仕事場にドロバチは来てくれましたが、わが家には今年、とうとうツバメの巣はできませんでした。

去年、スズメたちから執拗ないやがらせを受けたにもかかわらず、今年も春先からツバメは何度も訪れ、巣作りが試みられたのですが、なぜか数日後には巣が落ちている。それで怒髪天をついたうちの母が、スズメのパン屋を廃業してしまいました。低木の枝にパンを挿しておくだけの、ほんとに簡素な店舗なんですけどね。でも、なんの罪もない山バトのつがいには、毎朝ハトの餌を撒いている。すると、今度はそれがスズメに占拠されたみたいなんです。

そういう性根だから、スズメは減少してしまうのよ、と母はいうのですが、それだけ逞しく、悪知恵もはたらくのにどうしてスズメが減少しているのか、そっちのほうが不思議じゃない?

住宅事情の変化で、スズメの営巣できる軒先が減ってきたのが原因だそうですが、そういう軒先があったところで、ヒヨドリやスズメが営巣するとダニが落ちるといって嫌われるんです。ツバメの巣は歓迎されるのに、自分たちのは箒で叩き落とされたりするのですから、スズメの気持ちもわからないではありませんよね。

もともと人間って、珍客はもてなしても、隣にいる弱者には冷たいところがあるでしょう。スズメは余所者のツバメに悪意を抱いているというより、わたしたちに腹を立てているのかもしれません。仕入れ係としては懐がちょっと痛むけど、やっぱりパン屋は復活させたほうがいいんじゃないでしょうかねえ。

今週の野菜とレシピ

好子さんの枝豆が入ります。枝豆は鮮度が命。収穫して時間が経つにつれ、甘みが減少しますから、なるべくその日のうちに湯がきましょう。サヤの両端を鋏で落とすと食べやすく、形もきれいです。また、湯がく前に塩でもんでおくと、色落ちせず、鮮やかに仕上がります。

オクラも出てきました。これは湯がくより、ボウルに入れて熱湯を注ぎ、さっとザルに上げたほうが素材の持ち味が損なわれません。そのまま小口切りにして鰹節と二杯酢で・・・。納豆に混ぜてもおいしいですよ。

暑いお昼にはぞぞぞ蕎麦。これはモロヘイアでもオクラでも、納豆、山芋なんでもけっこう。とにかく粘りのあるものを麺つゆに入れ、ぞぞぞと食べる蕎麦のことです。食欲のないときにはこれが一番。ねばねばパワーが夏バテを防止してくれますよ。