差別という病

2011年8月第2週

今週の野菜セット

左から

ようやく暑さがもどって来たと思ったら、ミンミンゼミの羽音も聞こえるようになりました。しかし暑さといい、ミンミンゼミといい、あれだけ心待ちにしていたにもかかわらず、いざそれが現実になってみると暑苦しい、となるのですから人間って勝手です。

しかし、この暑さのおかげで稲穂が頭をもたげてきました。農道を歩いていると、香ばしい花の香りを漂わせているところがあります。あれは早生米?

コシヒカリもやがて開花し、農道が香りにむせるようになる日も近いのですが、新米のセシウム汚染を危ぶむ声を耳にするたび、暗い気持ちになってきます。

わたしたちも念のために土壌の検査を依頼していますが、検査機関も混み合っているようで、なかなか結果が帰ってきません。さいわいこのあたりの数値は低いようですが、それは空気中のこと。問題は土なのですから、公の機関でもそこらあたりはしっかりやってもらいたいものです。

飼料による牛肉の汚染が懸念される中、栃木県産の肉牛も出荷停止になりました。肉牛の飼育は県北の那須・塩原あたりに集中しているのですが、この近辺にも小規模ながら牛を飼う農家があって、そんな農家の奥さんとスーパーで顔を合わせることがありました。「たいへんねえ」と声をかけると、彼女は堰を切ったように話しはじめました。

彼女のところでは加工用トマトを作っています。たぶん野菜ジュースやケチャップの原料になるんでしょう。広大な畑のわきには、カゴメのマークの入ったコンテナが山積みになっていて、それを大きなトラックが集めてゆきます。どちらかというとそちらが主で、肉牛のほうは副業といった感じなのですが、それでも憤懣やるかたないようなのです。

カゴメではちゃんと検査をしてから加工している。トマトは一度もひっかかったことがないのに、なんでうちの田圃の稲藁で育てた牛まで出荷停止にされるのか。栃木県はこんなに広いのに、北から南までいっしょくたにされたんじゃたまらない、というのです。出荷できたところで、栃木産といっただけで売れなくなってしまったし・・・。

この構図、今までにもあったと思いませんか?たとえば水俣病が騒がれるようになったとき、水俣市の住人の反応がそうでした。ほんの一握りの漁民のおかげで、水俣出身というだけで娘たちのもらい手がなくなってしまった。もっとも大きな被害を被っている者が、周辺の者にとって「迷惑な」存在になるという逆転現象。栃木県内で福島ナンバーの車が敬遠されたりするのも、そういう理不尽の現れです。

ほんのちょっと前までは、福島県内で栃木ナンバーの車が敬遠されていたんですよ。山菜やキノコ採りの車があちこちに違法駐車して、おまけにゴミを置き去りにするようなマナーのわるい連中がいたからです。こちらのほうはいやがらせを受けたところで自業自得。意味もなく福島ナンバーの車に石を投げたりするのとは大ちがいです。

そんなことを思い出しながら、でもまあ、ここらあたりは恵まれてると思わなくっちゃ。ここらへんが受けるはずだった被害のほとんどを、日光連山がくい止めて、その周辺が引き受けてくれている。だからほんとうは感謝しなきゃいけないんじゃない?すると彼女、スーパーの魚売り場で泣き出してしまったんです。

わたしももらい泣きして、ほかの買い物客から奇異の目で見られましたけど、副業程度の畜産農家でもこれだけのストレスを抱えているのです。これから新米が出てくるにつれ、さらに絶望を上乗せされる農家が増えるのだと思うと、買い物を済ませて車に乗っても、なかなか涙が止まりませんでした。

なにを信じていいのかわからなくなった消費者も気の毒です。チェルノブイリの原発事故のとき、益子GEFはもう発足していましたが、そのころのわたしはまだド素人。農家のグループに一介の消費者が加わったような感じでしたから、これは消費者運動ではないんだからね、とよく釘を刺されたものです。

小学生になったばかりの子供を抱えて、かなり神経質になっていました。輸入品のチェックをしようにも、事故を境に「原産国」の表示が「輸出国」に変更されたからいけません。疑心暗鬼はふくらむ一方で、買い物ノイローゼになりそうでした。遠いウクライナの出来事でさえそうだったのですから、今回、若いお母さんたちがどんな状況に立たされているか、想像しただけで息苦しくなってきます。

しかし、消費者というのは忘れるのも早いのです。人の噂も七十五日とはよくいったもので、半年もしないうちに平気でヨーロッパ産のものを口にする人がほとんどでした。セシウムの半減期は三十数年。まだ二十五年しか経っていないのに、チェルノブイリは遠い過去の話になりつつあります。

今回の東電事故もうっかりするとそうなりかねない。事故処理も終わらないうちから、だんだん報道が減ってゆき、恐怖心も薄れてきて、やっぱ原発がないと産業界が困るんじゃないの?てなことをだれかがいう。この騒ぎの最中でも推進派は強気なぐらいですからね。

なにを信じていいのかわからなくなった消費者は、今後もずっとなにも信じないでいてほしい。それは苦痛を伴うことでしょうけど、わたしたちがそれを背負わなければ、子や孫の世代にもっと大きな労苦を残すことになるからです。こんなとき思い出すのは、悲惨な状況に置かれた水俣病患者たちの言葉です。かれらは会社(大日本窒素)の病苦を自分たちが代わって病んでやっているといいきりました。これは人の言葉でない、菩薩の心境ではないでしょうか。そういう心境に達すまでには、筆舌に尽くせないような艱難辛苦があったでしょうが、国の病根もまた、わたしたち国民が背負わなければ解消されない。そうすることによってしか、病巣は断ち切れないのだと思います。

今週の野菜とレシピ

今週も好子さんのセロリが入ります。先週、ちりめんじゃこといっしょに炒めた方は、目先を変えて肉類と炒めてみませんか。わたしはへそ曲がりなので、世間で敬遠されるものが無性に食べたくなるクセがあります。そこで群馬県産の牛肉を炒め、細かく切ったセロリを加えてみました。味つけは塩とオイスターソース、韓国唐辛子でしたが、これが絶品。わたしとおなじぐらいヘソの曲がっている人は作ってみてください。

今年は不思議なことに、早生品種の夏ミョウガ秋ミョウガがほとんど同時に出ています。おかげでセットメニューに入れることができましたので、麺類の薬味にご利用ください。小口切りにして鰹節と醤油をまぶし、ご飯にのせてもおいしいですよ。

この鰹節ときざんだミョウガというのは焼き茄子にのせてよし、炒めたピーマンにまぶしてもよし、オールマイテイーの調味料であとは醤油をかけるだけ。もっともこんなにいろんな料理に使うほどはお分けできないので、お好きな方法でお召しあがりください。

このところの暑さでようやくゴーヤが成りはじめましたが、まだまだ全員に行き渡る量ではありません。来週にご期待ください。