イースター島へ向かって

2011年11月第2週

今週の野菜セット

左から

こんなあたたかさが一体いつまで続くんでしょう?霜月に入って一週間が経過しても、まだ半袖シャツがかたづけられない。雨が降ればカエルが鳴く。なんだか不気味です。

益子あたりの低山でも、ハゼやウルシが鮮やかに紅葉し、つられてほかの広葉樹もようやく変色しはじめました。ウルシの次に赤くなるのがブルーベリーなんですけど、今年の色合いは今ひとつ。例年ならドウダンツツジなんかよりはるかに色がきれいなんですよ。箒草の一種・コキアの紅葉も目の醒めるようなショッキングピンクなのですが、こちらのほうは観賞できる期間が短く、今はもうただの枯れ草色。草むらの色づきのグラデーションのほうがきれいになってきました。

ついこの間まで、ちょっと足を踏み入れるとおびただしいバッタやコオロギが飛び出してきた草むらも、今はときおりカマキリの姿を見かけるぐらい。気温がもたもたしていても、季節のほうは確実に進行しているようです。そうでなくっちゃ困るんですけどね。

こんな気候なので、この秋はキノコのほうもさっぱりみたい。もっとも東電の不祥事のおかげでキノコ類は肩身の狭い思いをしているようです。なぜだかキノコにはセシウムが蓄積しやすいんだとか。

直売所や道の駅にはこの時期になると天然のキノコが並ぶので、わたしみたいなキノコの素人には好都合だったのですが、今年はそれが見あたらない。キノコの不作が原因だと思っていたら、販売する側がキノコの取り扱いをやめていたからです。なぜかというと、このあたりのキノコより県北や福島のほうがおいしいからで、穴場もそっちに集中していたんですね。

販売してしまってからセシウム騒ぎなんかになったのでは、県北や福島の傷口を広げてしまうことにもなりかねないからです。陶器市でお会いした相馬焼きの窯元は、毎年今時分になると友人たちと裏山に入って、毎日がキノコ三昧。子供がたまに白いご飯が食べたいなんていうぐらいだったのに・・・と、泣き笑いの表情で話してくれました。獅子茸に一本湿地、むらさき湿地、栗茸、鍋茸、箒茸、そして一カ所だけ、量はすくないけど松茸の出る秘密の場所もあったそうです。

相馬焼きは益子焼きよりも歴史が古く、窯元も八代目。しかし向こう十年は窯場に戻ることはもちろん、貴重な釉薬を持ち出すこともできず、彷徨うしかないのです。ろくろ職人として家族を養うしかないのですが、長びく不景気で大窯でもなかなか人を雇えない。腕のいい職人ほど行く当てがないんだそうです。

あの一件以来、いったいどれほどの人生が足元からがらがらと音を立てて崩れ落ちてしまったことか。それを思うと八百屋ごときの屋台骨など、折れたところでたかが知れているのかもしれませんね。

目の前が暗くなったところでもうひとつ、今度は地球規模の重大ニュースが入ってきました。ギリシャの財政破綻など、これに比べたら小さい小さい。先月末に世界の人口が七十億人に達してしまったんです。

わたしが子供のころには三十億だった人口が、たかだか五十年ほどの間に倍以上に膨れあがっているんです。喉元に匕首でも突きつけられたような気分で、五十年もしないうちにこの七十億が倍になる。食糧も水も資源も枯渇する。紛争も倍増する・・・。それなのにマスコミの論調はなんとなく祝賀ムード。地球がイースター島になりかねないという危機感がまるで感じられないのです。

有名なモアイ像という世界遺産があるけれど、あそこは人間がいかに環境を食い潰し、不毛の地に異形のモニュメントだけを残して滅んでゆくかというサンプルみたいなところなんです。もともとは豊かな森林と農地があったはずで、そうでなければ人口も増えないし、豊富な材木がなければあのようなモニュメントも林立させられなかったはず。生活に直結しないアート作品が作れるほど、かつて島民は豊かな暮らしをしていたんです。

豊かであるだけに人口もどんどん増える。そうなると森林を開墾して食糧を増産する必要性に迫られる。そうやって開墾が進められ、森林が減少すると農地の保水力は低下するし、ちょっと強く雨が降ると土壌が流失することになる。人口が増えるのに反比例して、食糧の生産力が落ちてゆくのです。するとそれまで和気藹々としていた島民同士が反目し合うようになる。倒されたり、顔面をそぎ落とされたりしているモアイが多いのは、部族同士の戦いが熾烈だったことを物語っています。

そして大航海時代になってヨーロッパ船によって「発見」されたとき、食人までするようになっていたのです。だからだれも上陸したがらず、二十世紀に入って再発見されるまで放置され、そのころにはもう島から脱出する船を作る木材すら残っていなかった。怖い話です。いちばん怖いと思うのは、作りかけのモアイが残っていることで、状況がどれだけ変わっても、人というのはそう簡単には因習から抜け出せない。方向転換ができないという点なんです。今こそ変わらなければならないことがたくさんあるというのにね。

今週の野菜とレシピ

今週は牛蒡が入ります。牛蒡は栄養分が皮の部分に集中しているので、皮が取れてしまうとカスを食べていることになります。だからまちがってもタワシでこすったりせず、そっと手洗いしてくださいね。

牛蒡は4~5センチに切りそろえ、太いところは半割りにして薄味で煮ふくめます。それを冷蔵保存して、わが家では小出しにして使っています。牛蒡の八幡巻きといったらウナギですが、それを牛肉で代用。牛蒡に巻いてフライパンに並べ、表面に焼き色がついたら醤油と水をそれぞれ大匙1杯ぐらいずつ、それにオイスターソース少々をからめます。ひと口サイズに包丁を入れ、小鉢に盛るとプロの板前になった気分。

残りの牛蒡は後日フライにしてください。汁気をよく切った牛蒡に小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつけ、油で揚げるだけ。梅干し1個分の果肉を包丁で叩き、同量の蜂蜜と醤油少々を加えたソースを添えます。牛蒡だけでさびしいようなら、椎茸もいっしょに衣つけて揚げてみてください。

牡蠣のグラタン

牡蠣のおいしい季節になりましたが、今年は三陸産の牡蠣がないのが残念。そのかわり、このあたりでも粒の大きい広島産が手に入ります。この時期に一度は食べておきたいのが牡蠣のグラタン。ほうれん草と生クリームだけで、ものすごく簡単に本格的なグラタンが作れます。

まず、濃いめの塩水で牡蠣を洗ってください。塩水が黒ずむぐらいよく洗ってザルに上げ、水気を切っておきます。ほうれん草は3~4センチにざく切りし、バターか植物油で軽く炒めて塩、胡椒、オイスターソース少々で調味。それを耐熱皿に敷き牡蠣を並べ、生クリームをまわしかけたら、パルメザンチーズを削って散らし、オーブンに入れるだけ。ものすごく簡単なのに、ベシャメルソースを使ったグラタンよりずっとおいしいんです。ぜひお試しください。


それから野菜ではないのですが、なんだか知らないけど、青山さんちの柿が採れすぎて困っているんだそうです。すこしずつお分けしますので、お召しあがりください。

ふつう、柿なますというと干し柿を使いますが、生の柿だとさっぱりしたサラダ感覚のなますになります。大根は千六本に切って塩をあて、しんなりさせて絞りますが、柿のほうは皮を剥いて種を取ったら適当に包丁を入れ、砂糖と酢がほぼ同量の甘酢で和えます。これを甘酢ではなく、マヨネーズで和えると絶品という人が身内にいるのですが、わたしはまだ試したことがありませんのであしからず。