目・鼻・耳

2011年5月第1週

今週の野菜セット

左から

先週あたりから余震はそれほど頻繁ではなく、ようやく落ち着いてご飯が食べられる。ゆっくりと風呂にも入れる、という生活が戻ってきましたが、今度はお天気のほうがご機嫌ななめ。雷はしょっちゅうゴロゴロいっているし、台風並みの強風が吹き荒れるかと思ったら、大粒の雹が降ったりと大荒れの空模様が続いています。

一日のスタートは五月晴れではじまるんですけれどね。さわやかな晴天が、いつ豹変するかわからない。気温も上がったかと思うと三月並みに下がったり、変動が激しいので、農家でなくても右往左往させられます。

それでも水田には水が張られ、水面には新緑の山々が逆さに映り、風が強い日にはさざ波を立て、急ごしらえの湖面をさまざまに変化させます。夕刻ともなればカエルの大合唱。それを目当てに、蛇はくねくねと見事なS字泳法で湖面を進み、ついこの間まで保護色だったサギの幼鳥も、真っ白に衣替えしてカエルを啄んでいます。

雹も嵐もやり過ごし、何事もなかったかのように季節をぐんぐん押してゆく…。この春は、そんな生き物たちの力強さがまぶしいぐらいで、くよくよしていてもしかたがない。もっと前向きにならなくちゃ、といわれているみたいです。わたしたちもがんばらなくちゃね。

地震直後から毎朝、山の中にある石仏の観音様に通いはじめ、福島原発が収束に向かってくれるまでの神頼み。これは長い道のりになりそうだと思っていたのですが、先週から中段を余儀なくされてしまいました。

なぜかというと、観音様の手前の杉の根元にキジが営巣していたからで、うちの犬がそれを追い立て、卵のひとつを拝借してしまったのです。滅多と人の来ないところだから、あんな無防備なところで卵を孵していたんでしょうけど、もうちょっと奥まったところで営巣してほしかった。

その翌日は犬にリードをつけていたのですが、それを見て安心したのか、オスのキジが狭い山道に立ちふさがっていたのです。きれいな尾羽をクジャクみたいにぴんと立てて、威嚇しながら「おまえら、もう来んな」

はっきりとそんな声が聞こえてくるぐらいの気迫で、こっちはすんません、すんません、といいながら退散。以来、そっち方面には足を向けられなくなってしまったのでした。そんなわけでヒナが飛べるようになるまで、観音様詣では中止。ま、観音様はわかってくれると思いますけど、原発様のほうにもわかっていただけるのか、それがちょっと気がかりなところです。

話は変わって、先日、薪屋のTさんからいきなり、薪を納品させてくれないか、という電話がありました。いつも秋口に納品してもらっている薪です。わけを聞くと、ちょっと生活がヤバくなってきたもんで…。

Tさんは飄々とした感じの人で、年齢は四十前後なのに青年のように見えます。林業以外に障害児の施設を作ったり、そこで生産したものを売るために奔走したりで、私生活というものがないからでしょうか。生活がちょっとヤバい、というのは日常茶飯事だったはずです。それがほんとうにヤバくなってしまったのは、地震以降、陸前高田に通っていたからで、泥かきや家具の運び出しを手伝うかたわら、避難所に五右衛門風呂を設置して歩いたそうです。

五右衛門風呂を設置できたのは全部で六カ所。ほんとうはもっと贈りたかったけれど、経済的にはこれが限界だとかで、五右衛門風呂のユニットって正価だと六十万円もするんですってね。事情を話して安くしてもらっても、それが六基。いくらカンパがあっても、わたしだったら破産しています。

いつもより多めに薪を納品してもらった後、お茶を飲みながら被災地の様子を聞いていたのですが、最後はやはり「臭い」の話になりました。あの独特の死臭と腐敗臭…。あの「臭い」って、帰ってきてからもずっととれないんでしょ? といったら、意外な答えが返ってきました。耳栓をしていたから大丈夫、っていうんです。

臭いというのは耳のなかに入ってしまうと抜けないので、ふつうああいうところじゃみんなマスクをするでしょう。でも、マスクだけじゃダメなんです。問題は耳で、自衛隊や消防隊の人たちはみんな耳栓をつけているはずですよ、とのことでした。へーえ、そうだったんですか。

耳というのは盲点でしたね。耳は呼吸をしないから、一度入った臭いが抜けず、頭蓋に溜まったそれが鼻のほうに小出しにされてくる、ということなのでしょうか。なんか、ものすごい秘密を知ってしまった気分でした。

みなさんの中にも、被災地でボランティアをしている方、これからしようと思っている方がいらっしゃると思います。そういう方にTさんからのアドバイス…。

ボランティアに行く人はみんな自分の食糧や水、寝袋などを持参しますが、震災直後はそれでいい。でも、一カ月以上も経過すると、被災地から車で少し離れれば、宿泊施設もあるし、蕎麦屋やラーメン屋も営業している。そういうところを利用するのも、復興の一助となるはずなので、なるべく現地でお金を落とすようにしてほしい、とのことでした。

今週の野菜とレシピ

ようやくタケノコがセットに入りました。例年より半月近く遅れているのに、なかなか大物には出会えない。気温が上がっている割に、地温が上がっていないみたいです。

タケノコは鮮度が命なので、その日のうちに添付の米ヌカと唐辛子といっしょに湯がいてください。そのまま冷ましてから、きれいな冷水に浸します。毎日水を替えると冷蔵庫に入れなくても日持ちがします。

やわらかい姫皮の部分は梅肉和えにするか、山椒の芽といっしょにかき揚げにすると美味。山ウドのてんぷらもいっしょにどうぞ。揚げたての山ウドに塩をぱらぱらと振ると、甘みが出ておいしくなります。

北海道のじゃが芋はこれが最後。六月中旬に新じゃがが出てくるまで、しばらくお休みになりますので、大事にお使いください。冷蔵庫の野菜ボックスに入れておくと、発芽がかなり抑えられます。