冬の気配

2011年11月第3週

今週の野菜セット

左から

師走みたいな寒さがあるかと思うと、汗ばむような小春日和に逆もどり。今年にかぎってこれだけ季節の移行が遅れているのは、被災地の住宅事情にもよるのでしょうか。見てきた人の話では、あんなぺらぺらした仮設住宅で、どうやって東北の冬が越せるのか?かけらほどの「愛」も感じられない、義務感だけで作られたような代物だと怒っていました。

情け深い冬将軍がそれを見て、南下をためらっているのだとしたら、わたしたちもこの番狂わせにおつきあいするしかありません。もしかしたら世界中で、

行政の至らないところを天候が補っているんでしょうか。もしそうだとしたら、それを異常気象なんて呼ぶのは失礼きわまりないことになる。異常なのは地上のほう・・・。案外、経済なんかとも連動しているんじゃないでしょうか。

以前、政治が乱れると気象もそれにともなっておかしくなる、という話を読んだことがあります。強権政治が続く北朝鮮に冷害や多雨が発生し、食物不足が続いているのがいい例ですが、独裁政権だけがわるいわけじゃない。お金は天下のまわりものなのに、一部にそれが集中し、流れが滞るようになると、それもまた天空の「気」を乱す一因になりそうです。

アメリカも自由貿易なんて不自由なものを人に押しつけるより、自国の末端の血流をよくしたほうがはるかに経済効果が上がるだろうに・・・。この国も被災地にぺらぺらの仮設住宅など作ったり、相も変わらず沖縄一県に米軍基地を押しつけたりしているかぎり、金の流れも天の気流もますますぎこちなくなりかねない。そんなの絶対にイヤなんですけど・・・。

でも、さすがに今週あたりから、冬の気配も濃厚になってきそうです。

前に、四季の中で秋にだけ匂いがある、と書きました。春は花の香りに満ちているようですが、実際にはそれほど匂うものではありません。盛夏の草いきれも匂いそのものより、熱気のほうが強烈で、稲穂の香り、稲刈り後の野焼きの香りと、匂いは秋に集中します。

山間の動物たちが里に出てくる臭いもあります。「臭い」と書くと悪臭みたいですが、ふっとあたたかいものに触れたような懐かしさを感じるけれど「匂い」と書くほどの芳香でもない。それはタヌキにはじまります。早朝は家のまわりや田畑はもちろん、車の往来のあるようなところにも残り香があって、夕刻には人の鼻ではわからなくなりますが、犬はしきりとおなじところを嗅ぎまわります。秋も深まって、今ごろになると今度はイノシシ。臭いはタヌキほど強くないので、お得意の土木工事がなければわからない場合もあります。この時期、イノシシたちはミミズを求めて、あっちこっち掘り返して良質な動物性蛋白質を体内に貯めこむのです。寒さに備えているんでしょうね。

一度だけ、真冬の藪の中でこの体臭を間近に感じたことがあります。どんな臭いだったかって?鼻息ばかりか、その温もりまで感じられるほどの距離だったので、思考能力から嗅覚まで、すべてが麻痺していたんでしょう。臭いも強烈だったはずなのに、記憶が飛んでいるのです。枯れススキを一株挟んだところにイノシシがいたのですから・・・。

向こうも必死で息を殺していたのでしょうが、こっちも必死で知らんふり。犬が無視して通り過ぎてくれるよう祈っていたら、犬のほうでもここでちょっかいを出したら只では済まないと思ったんでしょう。濃厚な臭いから顔を背けるように、そそくさと通り過ぎてくれたおかげで、わたしも無事に藪を抜けることができたのでした。

今年はあたたかいせいか、林の中にはまだリスもうろちょろしています。先日、うちの隣の檜林で樹上から下りてきたリスとうちの犬が、地上約一メートルのところで鉢合わせ。十センチ足らずの距離で鼻をつき合わせたまま、かたまってしまいました。どれぐらい時間が止まっていたでしょうか。ああ、カメラがあれば・・・と思っているうちに、我に返ったリスが方向転換して樹上に駆けもどり、次いで我に返った犬が悔しそうに吠え立てました。

それから数日後、あれはハクビシンだったんでしょうか。おなじ犬が散歩中にリスにしては大きすぎ、でも猫にしては小さすぎる動物を樹上に追いやったのです。冬を目前にして、冬眠をするしないに関係なく、野生動物も多忙みたいです。そうやって山の中、林の中から畑まで人間と動物たちにかき回されるから、秋はいやでも土の匂い、落ち葉の匂い、それに混じって生きものたちの匂いと息づかいが立ち上がるのかもしれません。

匂いがダメなら臭いでいいから、いずれはそういうものの一部になって、山姥か鬼婆伝説のひとつも作れたらいいなと最近、老後の目標みたいなものを考えるようになりました。老後こそ、人生の中でもっとも知力と体力が問われるときですものね。がんばりたいものです。

今週の野菜とレシピ

ようやく青山さんのにんじんが出てきました。今週あたり、寒さが本格的になってくるそうです。先週の牛蒡が残っていたら、大根里芋、それにコンニャクを加えて豚汁かけんちん汁をたっぷり作り、身体を中からあたためてください。

おでんもいいですね。先日、牛のすね肉をことこと煮込んで、大根といっしょに洋風おでんにしてみました。練り物をあれこれ用意しなくていい分、経済的だし、手間いらず。大根以外ににんじん、糸コンニャク、ゆで卵を入れてみました。すね肉はたっぷり塩をからめ、丸一日ぐらいおいてから使ったほうが肉も出汁もおいしくなります。

今週も青山さん宅のが入っています。すこしずつではありますが、サービス品なのでみなさんで召しあがってくださいね。

来週は白菜が入って鍋ものセットになります。