冬眠から覚める沢ガニ

2012年3月第1週

今週の野菜セット

左から(フキノトウが欠品しています)

すこしずつ、すこしずつ大気が温んできました。雪が舞っても、すぐにそれが霙から雨に変わります。大地が潤い、気温が温むと畑が活気づき、地面に張りついていた野菜も雑草も背丈を伸ばしはじめました。長い眠りから覚めて、手足を伸ばしているように見えます。

葉先を赤く染めていたタンポポも、黄色くなっていたほうれん草も青々としてきましたね。春はもうすぐです。

スギやヒノキといった針葉樹林では、逆に葉先が赤みがかったオレンジ色に変色しています。たっぷりと花粉をためこんだそれが、重たげに垂れ下がっている・・・。花粉症の人が見たらぞっとするような光景です。

しかし、花粉が舞う季節になっても、スギやヒノキの林の中というのは意外におだやかで、灯台もと暗しというんでしょうか。花粉症の人でもマスクなしで歩けるみたいです。花粉が舞う季節になったら、スギ林の中に逃げこんだほうがよさそうです。

昼なお暗い針葉樹林も、ところどころスポットライトが当たったように明るくなっています。朝日が差しこむ時間帯など、それが帯状の光となって降り注ぐので、神々しいほど・・・。あたり一帯が清められているかのようです。そんなヒノキ林の中で、おもしろい光景に出会いました。沢ガニの行進です。

沢ガニはその名のとおり、山間の谷に流れる沢に生息していますが、冬は岩陰などに身を隠して冬眠しています。わたしが歩いていたのは、そんな谷底から数十メートルも高くなった細い山道なのですが、そこを二十匹あまりの沢ガニがぞろぞろと動いていたのです。そこへ犬が鼻面を寄せたものだから、にわかに列が乱れて道から外れ、斜面のほうへ落ちて行きました。

犬はなおも追おうとしましたが、こちらは四本脚。それに対してあちらは倍の八本脚ですからね。そのうえ、二本脚のわたしなどでは、とても太刀打ちできないような急斜面です。途中で諦めて帰ってきましたが、犬がいようがいまいが、沢ガニたちは谷底の小さな流れを目指していたにちがいありません。あるいは気温がだいぶ温んできたので、日の当たる高いところから、すぐに沢に出られる岩陰へと移行中だったんでしょうか。

ああ、もう春がちかいんだな、というのと、あそこには沢ガニがたくさんいるんだな、というのがわかって、まだ春でもないのにぬくぬくした気分で帰ってきました。ふっふっふ、今年の夏はひさびさに沢ガニでも捕ってみようかな、なんてね。子供たちが小学生だったころ、夏にはよく沢ガニ捕りをしたものです。そんなに捕れるものではありませんから、水槽に入れて煮干しなどを与えていましたが、あまり長生きはさせられません。そこで一週間もしたら放してやり、またちがう沢を物色したりしていました。

ところがあるとき、沢ガニ捕りの名人から画期的な方法を伝授されたのです。バケツの中に鶏ガラか豚の骨を入れ、前の晩に仕掛けておくという方法で、バケツの縁を水面すれすれにしておくのがコツ。骨についた肉を目当てに沢ガニが入ってくるのですが、つるつるしたバケツの側面を上ることができないのです。沢というのは水深が浅いので、バケツを埋めこむ作業がたいへんなんですけどね。

そうしたらほんとうに大量の沢ガニが獲れてしまい、小さな水槽では間に合わなくなりました。そこで教えられたとおり、半量を唐揚げにしてみました。生きたまま沢ガニを油の中に放りこむのですから、娘はその間中、かわいそうだからやめて、やめてと泣いていたのですが、なだめすかしてようやくひとつ口に入れたさせたと思ったら、毅然と顔を上げて、彼女はこういい放ったのです。お母さん、全部揚げて。

沢ガニという、精巧なおもちゃのようにも見える可憐な生きものを見る目が、そのときから変わったのですね。人間というのはこわい生きものです。以来、夏になると沢ガニを捕るのが習慣になっていましたが、子供が大きくなってからはすっかり忘れていたというか、沢ガニを見かける機会がなくなっていたのでした。それが再会したとたんに蘇ったというわけです。

ちなみに満月のときは、沢ガニを捕ってはいけないことになっています。そのときだけ、沢ガニには毒があるというのです。これはもちろんウソで、満月時には産卵をするからで、ほんとうはいちばんおいしいはず。でも、卵をいっぱい抱えているとわかったら、禁止されていても獲るヤツが出てくるので、昔の人は毒がある、食べたらあたるといって乱獲を戒めていたんですね。

もちろんわたしたちだって、それがウソだとわかっていても、満月に仕掛けを沈めるようなことはしませんでしたよ。だからこそ、これだけ長い月日が経っても、かれらが健在でいられたわけです。もっとも、これだけ食糧が豊富な時代ですから、沢ガニなど獲る人がいなくなっているのかもしれませんね。

今週の野菜とレシピ

フキノトウが出てきました。この香りと苦みで冬の間、カロリーの高いものを摂りがちだった身体を浄化。疲れを癒やしてやってください。

フキノトウの汚れを落としたら、丸ごときざんで味噌汁の薬味にするか、あるいはそのまま味噌で和えてフキ味噌に・・・。そのままてんぷらにしてもおいしいですよ。

待望のほうれん草が入りましたが、これは好子さんのお母さんの家庭菜園のもの。いつものとはちがって西洋ほうれん草です。青山さんのちぢみほうれん草も、来週あたりには出てきそうです。

かき菜はあぶら菜の一種。さっと湯がいて辛子醤油和えにするか、炒めものでどうぞ。

馬田さんの椎茸もようやく芽が出はじめたようです。来週のセットに間に合うかどうかは今週の気温しだい。あたたかくなってくれるといいですね。