知らぬが花

2012年5月第1週

今週の野菜セット

左から

ゴールデンウィークに入りました。新緑の萌えはじめた山を背に、益子の町中は陶器市でごった返しています。そんな賑わいとは無縁だった山の中も、ナビゲーターの普及とともに、見慣れない車が行き交うようになりました。猛スピードで駆け抜けながら、ときどきペットボトルやらタバコの吸い殼が飛び出してくる…。

そんな招かれざる客がある一方、馴染みになった遠来の客もあります。早くもツバメが飛来して、定位置で営巣しはじめました。毎年、ふた組のツバメが来るのですが、一方がガレージの中、もう一方が南側の軒下に巣を作ります。毎年おなじカップルが来ているとはかぎらないのでしょうが、ガレージ側のつがいは営巣も手っ取り早く、子育ても上手とみえ、夏の間に二度から三度抱卵して帰ってゆきます。

ところが南側に来るつがいは毎年、営巣に手間取ったうえ、その巣が途中で落ちてしまったりするのです。もう一方が何度も抱卵し、雛を巣立たせている間にやっとこさっとこ一回分の抱卵を成功させていなくなる。そんなドジばかりなので、家人が「あのヒトたち」を見てるとハラハラドキドキで、胃が痛くなりそう…とボヤくほど。

今回、一番乗りをしたのはガレージ側のほう。賑やかにおしゃべりしながら、手際よく梁の側面に土団子を貼りつけています。

さて、この小鳥のおしゃべり。人がそれを聞いて楽しんだり癒やされたりできるのは、わたしたちが「ソロモンの指輪」を持たず、会話の内容まで知ることができないからなんだそうです。

動物行動学の範囲がどんどん広がって、鳥類を対象としたフィールドワークが増えてくるにつれ、一見仲むつまじく見えるカップルにもいろいろ秘密があることがわかってきました。

鳥類の雌というのは、ほとんど例外なく浮気をしているんだとか。それは自分がこれから生む卵に無精卵があってはならないからで、チャンスさえあれば近隣の雄たちと交尾して、有精卵の確率を高めようとするからです。ということは、夫のほうも近所の奥さんたちと不倫をしているわけですから、自分の妻も陰でなにをやっているかわからない。そんな疑心暗鬼にとらわれているので、営巣・産卵が行われる時期には自然と夫婦の会話が多くなる。つまり夫婦喧嘩が増えるというわけです。

だから、わたしたちが耳にするほほえましいさえずりは、翻訳すると、おまえAさんとこのダンナとやっただろ、なにいってんのよ、そんなことするわけないじやない、あなたこそあそこの奥さんとなにしてたのよ、といったあられもない内容になるんだそうです。天使の会話みたいに聞こえていたのが、そんな下世話なものだったとは…。びっくりですよね。

熱帯魚に癒やしを求める人も多いようですが、あの水槽の中で行われているのは闘争以外のなにものでもない。鮮やかな体色は、闘争本能の強さをあらわす危険信号みたいなものですから、そういうきれいな魚ばかりが集められた水槽というのは、修羅場にしかなり得ないのですね。

その昔、寝起きのわるい息子が赤ん坊だったころ、たまたま縁日で買ってきた金魚を見てグズるのをやめたのがきっかけで、大きな水槽を用意して色とりどりの熱帯魚を入れてみたことがありました。ちいさな金魚鉢とはちがって、こちらはライトもついているし、魚たちも派手。思惑通りの効果はあったのですが、今度はその水槽自体がストレスになるという、予想外の結果になったのです。

中にいたのはエンゼルフィッシュと、一群のネオンテトラ、それに名前を忘れてしまったのですが体長が三センチ前後。鮮やかな深紅の魚だったのですが、この真っ赤っかの一匹がものすごく凶暴で、みんなを攻撃しまくるんですね。それを別の水槽に移して一件落着と思ったら、今度は次の真っ赤っかが暴れ出すという具合で、水槽から真っ赤っかが消えるころにはネオンテトラは半減。動きの遅いエンゼルフィッシュなど、ひれがぼろぼろになってまっすぐ泳ぐこともできなくなっていたのでした。

別の水槽に移された真っ赤っかも、こちらのほうにはヒーターがないので数日で死滅。二度と熱帯魚には手を出すまいと思ったのでした。

昨今、耳にすることの多くなった「癒やし」という言葉の胡散臭さは、こういったところにあるのかもしれません。小鳥たちのさえずりの内容かわからない。熱帯魚がやたらと元気なのは、必死の形相で逃げているから…。それをほほえみながら見守っていられる無神経さがなければ得られないという、誤解と艦齢のうえに成り立っているのが「癒やし」なのかもしれません。

ペットショップで売られている犬・猫を見て癒やされるという人もいるぐらいで、売れ残っだ子犬や子猫がどうなるかなど想像もしないわけですからね。人類限定の癒やしなど、ほんとうはあってはならないものなのでしょう。

でもまあ、熱帯魚の凄惨な闘争現場にくらべたら、小鳥たちの痴話喧嘩などかわいいもので、なんだかんだいいながらも協力して巣を作り、子育てをしているわけです。このあたりの勘ちがいは、その昔、受験勉強などしていたころ、短波放送から流れてくる朝鮮語を現実逃避の糧にしていたのと似ているかもしれません。言葉がわからないものだから、女性アナウンサーがニュースの原稿を読んでいても、なにやらロマンティックな響きがあるわけで…。当時、韓国は軍事政権下にあったわけですから、それがどれだけ見当外れなものだったかと思うと冷や汗ものです。

知らぬが花とはよくいったもの。でも、小鳥のさえずりに関しては、永遠に知らぬが花でいいと思うのですが、どんなもんでしょう。

今週の野菜とレシピ

今週はタケノコが入ります。心配されていた放射線の問題は無事にクリアできましたが、この冬の寒さが影響しているのでしょうか。なかなか顔を出してくれないようです。

タケノコが届いたら、その日のうちに添付のヌカと唐辛子といっしょに、たっぷりの水で湯がいてください。菜箸が通るぐらいになったら火から下ろし、そのまま冷まします。まめに水を取り替えると、冷蔵庫に入れなくても四、五日は大丈夫。ラップして冷蔵するより、こちらのほうが味もいいようです。

小ぶりの春大根はサラダ向き。短冊に薄く切った上に鰹節をのせ、酢:1、醤油:4~5、砂糖ほんの少々を合わせてかけてみてください。葉っぱのほうはさっと湯がいてから細かく切って塩もみします。水気をよく切って、ちりめんじやこ。煎り胡麻といっしょにご飯に混ぜて…。お天気のいい日には、これをお握りにして野外で食べるとおいしいですよ。

山ウドはてんぷらか、きんぴらで…。春本番を満喫してください。