渡り鳥とSL

2012年3月第5週

今週の野菜セット

左から

春はどこで足踏みをしているのでしょうか。なかなかあたたかくなってくれませんね。日中の気温が上がっても、夕刻には冷たい北風が吹きはじめたり・・・。ただ、朝の気温はすこしづつ温んできましたから、残りすくなくなった薪の節約にはなっています。

雨の日などは朝がいちばんあたたかく、日中、どんどん気温が低くなったりするぐらい。でも、この雨が芽吹きを促しているとみえ、木々の蕾がふくらみはじめました。辛夷(こぶし)や桃の蕾がいつの間にか大きくなり、レンギョウは今にもほころびそう・・・。梅の開花が一ヶ月ちかくも遅れたので、後続の花々がそれを取り戻そうと奮闘しているみたいです。桜の蕾が動き出す日も近いでしょう。

益子の河川で羽根を休めていた白鳥たちも、いつの間にか姿を消しました。週末にそこを訪れると、カメラを構えた人がたむろしているので、白鳥がお目当てだとばかり思っていたら、白鳥がいなくなっても素人カメラマンがぞろぞろと集まってくるのです。お目当ては蒸気機関車だったみたいですね。

白鳥たちがいるちょっと下流にちいさな鉄橋が架かっていて、そこを通過するところを狙っているようです。桜の季節になると、そこに華やかなピンクが加わるので、もっとたくさんのカメラマンが集まることになるでしょう。SLは観光事業の一環で、土曜と日曜日に二回ずつ、年間にしたら数百回もそこを通っているのですが、白鳥よりもそっちのほうが被写体として魅力的だったとは、びっくりしたり、がっかりしたり・・・。

わたしも踏切待ちをしているとき、通過するのがただの電車だとがっかりするけど、SLが汽笛を鳴らしながら目の前を横切ると、なんとなく得をした気分になる、ということはあります。でも、あれだけいるカメラマンの中で、白鳥に焦点を合わせる人がひとりもいなかったというのは、ちょっと寂しいというか、不思議な感じがしたのでした。

SLは近代を象徴するメカニックですから、ノスタルジックになるのもわからないではないのですが、そういうものに自然現象が太刀打ちできない。思えば蒸気機関の発明が産業革命を推し進めたわけですから、その時点から人は自然に背を向けるようになり、自然は人を包みこむものから、搾取の対象に成り下がってしまったのですね。

今、ここへ来て、それでは人類は生き残れない。このままではまずいんじゃないか、と気づきはじめても、人の意識というのはなかなか変わらない。変えられないということが、こんな田舎町の河川敷で証明されたのでした。白鳥の姿を求めてうろうろしていると、撮影の邪魔になるといわんばかりの冷たい視線。白鳥も狩猟の対象とならないかぎり、関心を持たれることがないのかもしれません。

SLの通過とともに潮が引くようにみんなが引き上げた後、待ち時間に飲んでいた缶コーヒーやらタバコの吸い殻、スナック菓子の袋やコンビニ弁当の容器など、孫たちと拾い拾い、あんな大人には絶対なるなよ、といいながら帰ってきたしだいです。

わたしたちが渡り鳥に惹かれるのは、それが季節の風物詩であるという叙情的なものだけでなく、長距離の移動を可能にしている生体への畏敬の念があったからではないでしょうか。しかし、その複雑なメカニックには未だ解明されていない部分があるし、ソフトな外観からはうかがい知ることができない。

その点、SLはその複雑さがハードな外観にあますところなく表現されています。そのわかりやすさが人を魅了しているのかもしれません。カッコいいということになるんでしょうが、そのカッコよさを認めたうえで、やっぱり腑に落ちないものを感じてしまうのは、かつて人類が自然に対して抱いていた「畏敬の念」がどこにも見あたらないからだと思います。

生体の神秘性に畏敬を感じなくなるということは、おなじく生体である自分自身をも見失うことになります。今、世界中で起こっている、すさまじいばかりの人名軽視の原因のひとつがこれではないか、と入浴中、ぼんやりとSLについて考えているうちに思い当たったのでした。

ちょっと大げさかもしれませんが、この一年、東電発の「無主物」に人といわず動植物といわず、自然界が傷だらけにされていくのを見聞きしてきたせいでしょうか、どうしてもそこまで飛躍してしまうんですね。いろんな意味で、わたしたちの世界観が変換を求められているようです。

今週の野菜とレシピ

ほうれん草の伸び具合が思わしくないので、申しわけありませんがもうすこしお待ちください。今週、入る予定だった新玉葱も、愛媛のほうが雨続きだったため、収穫が遅れているそうです。どちらも来週にはお目見えします。

間引き大根は、ちいさな大根と葉っぱを切り離し、たっぷりの水で大根のほうを湯がき、沸騰したら束になったまま葉っぱを入れて火を止めます。葉っぱがしんなりしたらお湯を捨てて水気を切り、どちらも細かくきざみます。それを塩もみして、ちりめんじゃこといっしょにご飯に混ぜれば菜飯です。

ちりめんじゃこを油炒めして、きざんだ大根と葉っぱも加えて炒め、醤油と一味唐辛子、オイスターソース少々で調味すると日持ちのする常備菜になります。どちらも、仕上げに煎り胡麻をたっぷり加えてください。

今週のニラは一番切り。やわらかいのでぜひ使ってください、と野沢さんから連絡がありました。いつもやわらかいし、甘いし、香りもいいよ、といったら、いえ、一番切りは特別ですから、という返事。前回のものと比較してみてくださいね。

にんじんは暮れに収穫して土に埋めていたもの。今週いっぱいで終わりになるそうです。あんまり大事に使っていると、しなびてきますから、すぐにお使いにならない場合は、油炒めしてから小分けにして冷凍しておくと便利です。農家は小口切りにしたものを乾燥させておき、水でもどして使いながら夏を待つそうです。