秋の夜長

2012年11月第3週

今週の野菜セット

左から

紅葉前線がようやくこのあたりまで降りてきました。

夏の暑さが厳しかったせいか、隣家のカエデが燃えるような深紅に染まっています。せっかくの巨木なのに、これまでは紅葉がいまひとつで、オレンジがかった赤茶色にしかなってくれません。これがもっときれいな赤ならねえ、というのが秋口の挨拶がわりになっていましたが、今年の突然変異。隣人はきっと鼻高々だと思います。

わが家のブルーベリーも負けじとばかり、色を変えはじめました。カエデの紅葉が深紅なら、こちらは真紅。栗の葉の黄色をバックに、日ごとに色を深めています。日だまりではサフランが咲きはじめました。木枯らしが吹き荒れるまで、ほんのひとときの眼福です。

日中は小春日和のような晴天が続いていますが、風は冷たく、日が落ちるととたんに気温が低くなります。日暮れも早いので、早々に帰宅することになり、すこし前ならまだ畑にいるような時間に、もう夕食がはじまっています。

秋の夜長。灯火に親しむ頃となり、夏の間、外に向かって開かれていた扉が閉じて、自然と心も内向するようです。読書の秋ともいわれる所以。面白い、という表現が不適切なら、心の琴線に触れる本、感動を共有したくなるものをいくつか紹介させていただきます。

ひとつめが、中沢新一の大学生を対象にした講義をまとめた五冊のカイエ・ソバージュ(講談社選書メチエ)で、中でもおすすめは二冊目の「熊から王へ」です。権力というのはもともと自然界の側にあったもので、それがいかにして略奪され、人間の「王」という存在に集約されてきたか。それによって歴史というものがはじまるわけですが、有史以前の雄大な時間の流れにくらべて、この三千年ほどの流れの慌ただしさは呆れるばかりで、わたしたちが生きている世紀末のこの惨状がけっして理不尽なものでなく、当然の帰結だったことがわかります。

だからといって、中沢氏は絶望しているわけではない。だからこそ、若い世代に向けてこういう講義をしているわけで、道しるべになりそうなヒントもちゃんと用意されています。それを解読してふくらませ、実践に移すのは若者たちにおまかせして、わたしなどはただ感心しているだけなのですが・・・。

この本で縄文人に惚れ直してからというもの、かれらの血を引いていると思われる、アラスカ、カナダ、南北アメリカのネイテイブに関するものを再読していましたが、中でも角川書店から出ているマルロ・モーガン著「ミュータント・メッセージ」は出色です。十年ぐらい前にも紹介しているはずですが、まだ手にとっていない方はぜひご一読ください。

人類は進化していることになっていますが、ほんとうにそうなんでしょうか。むしろ退化している部分のほうが多いんじゃないか。「ミュータント・メッセージ」のアボリジニや、ネイテイブ・アメリカンに関するものを読んでいると、現生人類の感受性の退化こそ、モラルを低下させている元凶ではないかと思うんですね。たまにはこういう本で、脳天をガーンと殴られ、振動させる必要があるのかもしれません。

縄文人の末裔たちは、この国にもちゃんと生き残っています。ただし、アボリジニやインデイオ同様、侵入者から差別され、独自の文化を破壊されてしまいました。池澤夏樹氏が母方の祖先をモデルに、できるだけ史実を曲げずに書いた「静かな大地」には、アイヌと共存しようとした入植者が、かれらもろとも滅ぼされてゆく課程が描かれています。

そうとわかると読むのがいやになりそうですが、目をそむけたくなるような悲しさや惨さを救っているのが、民族の誇りと叡智と、それを語る作者の深い愛情です。夕日の中を疾走する馬のように力強く、うつくしいものが全体に流れています。

馬で思い出したのですが、この本のタイトルにある静けさは、ロシア革命に翻弄される騎馬民族を描いた、ショーロホフの「静かなドン」と同質のものだったかもしれません。一面の銀世界は、その下に血にまみれた大地と、慟哭の記憶を覆い隠していたのです。そして雪解けとともに現れても、無言のまま、気化しながら昇天してゆく・・・。そんな光景が浮かぶのでした。

ついでにもう一点。ここに描かれているアイヌモシリに対するシャモ(日本人)の厚顔無恥。それがそっくりそのまま、ウチナンチュとヤマトンチュの関係に受け継がれているような気がしてならないんですけど・・・。日本人というのは学習のできない民族なのかもしれないって、昨今のニュースを見ていると思いますよね。

今週の野菜とレシピ

今週は鍋もの用セットです。白菜下仁田ネギ春菊しめじときたら、寄せ鍋、たらちり、なんでもOK。椎茸もほしいところですが、今期は馬田さんが研修中。椎茸の栽培施設もゼロから作り直しているところなので、申しわけありません。

白菜だけの鍋もおいしいんですよ。豚バラはしゃぶしゃぶ用の薄切り肉を用意。白菜は食べやすい大きさに包丁を入れ、土鍋に敷きます。そこに豚肉を広げ、その上にまた白菜、豚肉と重ねてゆきます。いっぱいになったところで水カップ1杯を加え、火にかけます。煮立ってきたら火を弱め、蓋をして15分。味つけは各自ポン酢で・・・。手間いらずで美味。最後はおじやにしてくださいね。

北海道を出たはずの玉葱、じゃが芋の到着が遅れています。いくらなんでも今週あたりは届くと思いますので、もうしばらくご辛抱ください。