ババ毛虫
2012年5月第5週

左から
- 京菜
- 小松菜
- 絹さや
- スナップエンドウ
- キュウリ
- 小カブ
六月もちかいというのに、朝夕、肌寒い日々が続いています。日中はそれなりに暑くなりますが、どうしたことか今年はハエの姿を見かけない。ハエは夏の虫なのに、うだるような盛夏には姿を消してしまい、初夏と秋口のほどほどの暑さが好きみたい。思えば贅沢なヤツらです。
うるさいというのを「五月蠅い」と書くように、今がハエの全盛期。家でも職場でもちょっと油断すると、犬猫のフードに卵を産みつけられたりするのですが、そんな心配も今年は無用。うるさいどころか快適です。でも、それがいいことなんだか、わるいことなんだか・・・。
わたしたちのところでは、生ゴミは収集車に持って行ってもらうのではなく、裏庭に穴を掘って埋めるか、地面に設置する専用の容器の中に捨てています。巨大なポリバケツを逆さにしたような形状の容器内には、ハエではなく、ハチのような黒い虫がどこからともなく侵入し、卵をいっぱい産みつけるので、ハエの蛆よりかなり大きいのが容器の内側にべっとり貼りつくんです。異様な光景で、おまけに生ゴミを捨てるたびに、成虫が顔をかすめて飛び立ちます。
わたしたちはゴミバチと呼んでいるのですが、蛆の集団がグロテスクな点を除いたらほとんど無害。ところがそのゴミバチの姿も見かけないのです。容器の蓋を開ける度に背筋がゾワッとすることもなく、顔面にぶつかって来る心配もない。さわやかではあるのですが、これもいいことなんだか、わるいことなんだか・・・。
ツバメがいない、スズメが減ったと大きなものに気を取られていたら、ハエがいない。ゴミバチもいないというわけで、「そして誰もいなくなった」なんてことにならなきゃいいけど・・・と冗談めかしていっています。でも、一抹の不安はぬぐえない。困ったものです。
そのくせ、庭先ではババ毛虫を例年よりよく見かけます。茶色に黒い線の入った、モコモコと毛深い毛虫のことです。大きくて目につきやすいので、みなさんもああ、あれか、と思い当たるはず。ヒトリガという蛾の幼虫だそうです。
毒針を持たないのと、姿形がユーモラスなせいか、虫が嫌いという人にもあまり抵抗がないみたい。わたしはこの毛虫を見ると、三年前に死んだ犬を思い出すんです。毛色とそのモコモコ感がそっくりなんですね。控えめな性格もよく似ていて、畑では絹さやについているのですが、すぐ隣にスナップえんどうがあるのに、そっちには手を出そうとしないのです。後から来た犬がスナップえんどう好きなので、遠慮しているのかもしれない。そう思うと目頭がじーんと熱くなってきたりして・・・。
そんなわけで、害虫の部類に入るんでしょうけど、ババ毛虫は畑でも好きにさせているんです。ヨトウ虫は容赦なく踏み潰すんですけどね。このババ毛虫、アラレちゃんの家のまわりでは集団で駆け回っているそうです。脚もないのに動きはけっこう速いんですよ。そして猫のドライフードに群がっているんだとか。草食だとばかり思ってたのに、雑食だったんですね。猫もほかの虫はおもちゃにしても、ババ毛虫とは共存しているようですから、あの毛深さがさいわいしているのかもしれません。
犬猫と同類みたいな変わった毛虫。ハエがいない、ゴミバチがいないというときに大発生しているのですから、ほんとうは虫ではないのかもしれません。ともあれ引き算ばかりが目につくときに、こういう足し算がひとつでもあるとなんとなく救われた気分になります。頑張ってね、ババ毛虫たち。
ついこの間まで、ブルーベリーの花に花アブが群がって、羽音がエンジン音のように響いていました。近くで畑仕事などしていると、頭がぼおっとしてくるぐらいです。こちらも負けずに草刈り機のエンジン音を立てたりしてね。
それが先週末、畑仕事をしながらなにかおかしい、なにかが足りないと思ったら、あれだけいた花アブが姿を消していたのです。ブルーベリーの生け垣に目をこらすと、無数にあったちいさな花がみんな結実していました。まだ青いちいさな実ですが、早いものはもう白っぽくなって膨らみかけている。花アブたちのおかげです。
虫がいなくなると農業が楽になって、農薬の必要もなくなると思っている人が多く、農家ですらそんなことを口にする人がいるぐらいですが、ほんとうに虫がいなくなってしまったら、農業そのものが立ちゆかない。青菜はともかく、果菜類は虫による受粉活動がなければ成り立たないのです。トマトも茄子も果物も、わたしたちは口にできなくなってしまうんですね。
虫たちの仕事をわたしたちが手作業でやらなければならないとしたら、果菜も果物もおそろしく高価なものになるはず。だからこそ、虫と共存できるような環境が必要なんですね。嫌われ者のハエやゴキブリだって、かれらがいなくなったら、ただでさえ多いゴミがますます多くなってしまう。文明の発達とともに増えてきた虫は、文明そのものが必要としているからだと思います。
ゴキブリホイホイの発案者が、あんなものを作ってしまったことを後悔している。ゴキブリにはほんとにわるいことをした、とどこかで語っているのを読んで、さもありなんと思ったものですが、同時に薬品メーカーの開発者たちは後悔したり、罪悪感に苛まれたりすることはないんだろうか。不思議な感じがしたのでした。
今週の野菜とレシピ
今週もスナップえんどうが入ります。さっと湯がくか、油炒めでお召しあがりください。
かぶは先週より大きくなっています。糠床のある人は糠漬けに、なければかぶも葉っぱも細かくきざんで一夜漬けにしてください。この一夜漬けに胡麻油と醤油をかければご飯のおかず。オリーブ油とバルサミコ酢をたらせばサラダになります。
今週のきゅうりに間に合うように、わが家でも糠床を準備中。週末あたりには漬けられるでしょうか。それまではワカメといっしょに酢の物で・・・。同量の味噌とマヨネーズを混ぜ合わせ、ステイックにしたきゅうりにつけてもおいしいですよ。