クマの出没

2012年10月第2週

今週の野菜セット

左から

日が暮れるのはどんどん早くなってゆくのに、いつまでも夏の陽気が残っています。先週は、衣替えをした中高生たちがげんなりした顔つきで歩いているのが目につきました。いくらなんでも今週はもう、そんなことはないんでしょうけど・・・。

戸外に出ると、どこからともなく金木犀が香ってくる。そんな季節に真夏のような格好は似合いませんものね。追い立てられるようだった冬支度が、今年は待ち遠しく感じられるのですから妙なものです。

家のまわりの栗が落ち、続いて山栗が実を落としはじめました。山の中を歩いていると、足元には小ぶりの栗。頭上には熟したアケビが口を開け、ときどきそれが落ちてくる。たいていタヌキやハクビシンといった先客がいて、落ちているのは薄紫の皮の部分だけなんですけどね。今年はどこの家でも柿が不作なので、タヌキもおやつに不自由しているみたいです。

イノシシも今のところは食糧事情がいいと見えて、人家のほうまで出て来ませんが、山に入ると気配が濃厚になってきています。鼻息がこちらに届くぐらい、すぐそばの藪に潜んでいるときもあって、そういうときにはドキドキしてしまいます。こちらが気づかないふりをしていれば大丈夫なのですが、問題はうちの犬。甲斐犬の血が入っているので、イノシシに遭遇するとその血が騒ぐらしく、追い立てていたのです。

子犬のうちはうり坊を追いかけ回して、いつ親イノシシが飛び出してくるか、はらはらさせられましたし、成犬になってからは大物に挑戦。何度かイノシシを窮地に追い詰め、わたしを呼んで吠えるのですが、猟師ではありませんしねえ、こちらはお手上げです。去年も大物を谷間に追い詰めましたが、そのときはものすごい地響きがして、大きな木がしなるように揺れていましたから、大物中の大物だったのでしょう。

数分後、追い詰められたイノシシの咆吼が谷間に響き渡りました。姿はみえませんでしたが、たぶんオスでかなりの巨体。牙も大きかったはずです。それが威嚇の声を上げ、おそらく攻撃もされたのではないでしょうか。息せき切ってもどって来て以来、イノシシを追わなくなりました。黒い犬で、顔も真っ黒なのですが、それでも顔面蒼白になっているのがわかったぐらいですからね。

人間のわたしでさえ、近くにイノシシがいるとわかるようなときでも、知らん顔をしてくれるようになりました。だから今年のように、早くからイノシシの気配が強く、人の鼻でも体臭が嗅ぎわけられるような状況でも安心して山に入れるようになったんですね。ただ、キジを追い立てるクセだけは、当分直りそうもなく、これには手を焼いています。

昨今、クマの出没がニュースを賑わせています。その都度、クマが射殺されるので、そういうニュースは聞きたくないのですが、いやでも耳に入ってくる。イノシシ同様、知らん顔をしていれば人に危害など加えないと思うのですが、どうして放っておくことができないんでしょう。

クマに遭遇した人は、口をそろえて「こわかった」といい、クマがうろついている思っただけでも「こわい」といいます。そして当然のように殺される。まるで人間よりも力のあるものが、この世に存在していてはいけないかのようです。人間が怖いと思うものを自然界から追放してきた結果が、今の無秩序と矛盾だらけの世界なわけでしょう?トラでもクマでもオオカミでもいいから、自然界を支配する絶対的な力の持ち主って必要なんじゃないでしょうか。だいたい、工業立国である日本という国に、今なおこれだけのクマが生息しているということ自体、奇跡のような僥倖といえるんじゃないでしょうか。これはひとえに、日本列島を縦断している背骨のような山々のおかげだと思います。これがヨーロッパのような平坦な土地だったら、クマどころか、まともな森林さえ残っていなかったにちがいありません。

だからこの国のあちこちにクマがいるのは、地形の問題にすぎないのであって、わたしたちのモラルの問題ではなかったわけですが、この地形に守られて、わたしたちはあたかも賢明な国民であるかのように、海外から思われているということを忘れてはなりません。それをこんなにあっさり射殺してしまっていいんだろうか。

本来、クマを殺すには多くの儀礼が必要とされていたはずです。尊厳を奪われ、生息地まで侵害されてしまったクマが人家のゴミ箱を漁っている姿を想像すると、少数民族の末路を見せつけられているようで、なんともやりきれない気がします。かれらの叡智からなにも学ばない功利主義は、わたしたちからも多くのものを奪っているんじゃないでしょうか。

今週の野菜とレシピ

今週は山崎さんの舞茸が入ります。原木栽培の舞茸なので、放射線量が気になっていましたが、去年に引き続き検査結果は不検出。安心して山の香りをお楽しみください。

舞茸はてんぷらにしても香りがよくておいしいのですが、この時期は舞茸ご飯がおすすめです。

舞茸は捨てるところがほとんどありません。水洗いはせず、刷毛で汚れを落としてから細かく裂き、一片が長すぎるようなら包丁を入れてください。フライパンに胡麻油を熱して舞茸を炒め、醤油をからめたら火から下ろして胡麻をたっぷりからめます。それを炊きたてご飯に混ぜたらできあがり。京菜春菊のお吸いものといっしょにどうぞ。

まだ鍋の季節ではないのですが、下仁田葱が出てきました。やわらかい葱をたっぷり使った味噌汁なんて、ちょっと贅沢かもしれません。また、この葱を3センチぐらいにぶつぶつ切って湯がき、フレンチドレッシングに醤油をプラスしたソースに浸けておくのも美味。ホワイトアスパラガスのような感じになります。

夏の名残のピーマン。茄子が姿を消し、今週いっぱいでこのピーマンもなくなると、来週からは秋一色の野菜セットになります。気候のほうも早くそうなってほしいものですね。