円形脱毛症の流行るとき

2012年3月第3週

今週の野菜セット

左から

霙まじりの春の雪が雨になり、陽が差してくると畑の草が紫色のちいさな花をいっぱいつけていました。オオイヌノフグリよりもすこし早く開花するのですが、この草の名前がわからない。植物図鑑はもちろん、道草の図鑑などにも載っていないからです。名前を知ったからといってどうなるものでもないけれど、やっぱり気になるものですね。

ウグイスの第一声も耳にしました。これは山道を歩いていたときのこと。家のまわりではまだ聞かれませんが、梅の蕾がふくらみはじめると、すこしずつ賑やかになってくるのでしょう。今はヒヨドリの耳障りな声ばかり。家人がせっせと庭木に柑橘類を挿してやるからですが、かれらが姿を消すと同時に、今度はツバメがやって来る・・・。季節はまるでベルトコンベアのようです。

去年の夏に巣立ったカラスの若鳥も、すこしずつペアになって集団から離れはじめたようです。若者たちは集団でバカな遊びにふけっているように見えて、合コンみたいに婚活を兼ねていたのかもしれません。けっこう危ないことにも手を出しながら、慎重に伴侶選びをしていたわけです。そういうカップルが今、木立や電柱のあちこちにいて、ぴったりと身を寄せ合ったり、羽根づくろいをし合ったり、お熱いところを見せつけています。

若者に負けじと、長年のカップルもこの時期はラブラブ。一夫一婦制のカラスは生涯、どちらかに事故でもないかぎり、寄り添って暮らしますが、巣作りが目前に迫ってくると、スキンシップが盛んになるのです。傍目にはいちゃいちゃしているようにしか見えないけど、一致団結して子育てをする心構えを堅固なものにしているのかもしれません。

カラスの巣作りがはじまると、犬の円形脱毛症という奇妙な現象が増えてきます。春になるとわけのわからない皮膚病が増える、と獣医さんが嘆いているので、症状を詳しく聞いてみると、直径二センチぐらい、まるで鋏で切り取られたようなハゲ。それはカラスにちがいない、といったら獣医さん、呆れるやらほっとするやらで、ステロイドなど出さなくてよかった、と感謝されたことがあります。

うちの山羊が健在だったころ、あたたかくなってくると畑に出てきてくつろぐのですが、なぜかその背にカラスが留まっている。へえ、仲良しなんだ、と思っていたら、鬣(たてがみ)がばっさり切り取られているではありませんか。そのときはじめて、カラスが巣の中に動物の毛を敷いて、クッション代わりにすることを知ったのでした。繋がれて飼われることの多い犬の毛は、もっともポピュラーな毛布の素材だったというわけです。それが証拠に円形脱毛症は、短毛より長毛の犬のほうが圧倒的に多いんですね。でも、山羊がそれをいやがる風ではなかったように、犬もカラスの子育てには協力的なのかもしれません。お宅の犬の背中にハゲが見つかっても、それはストレスでも皮膚病でもありませんから気に病まず、カラスの子供たちが無事に巣立つよう、祈ってあげてくださいね。

あたたかくなると虫が出てきますが、あたたかくなるかなり前から、わが家では越冬中の虫が活動をはじめています。ときどき頭上をブーンと飛び回るのはカメムシで、薪ストーブの熾がなくなる朝方にはソファの隙間などに潜りこんでいるのでしょう。姿が見えなくなりますが、また室内があたたかくなってくると勘違いして飛び回り、飲みかけの紅茶のカップに飛びこんできたりする。喉が渇いているんでしょうか。台所の流しの中にもよくいます。

カメムシというと、あの特有の臭いを思いうかべて顔をしかめる人も多いと思いますが、あれは警戒信号みたいなものですから、たとえばカップの中で溺れかかっているのを掬いあげるときなど、まちがっても臭いは出しません。掃除の邪魔になるときも、はじめのうちは葉書なんかに乗せて移動させていましたが、このごろでは素手でOK。何ヶ月もひとつ屋根の下で暮らしているので、家族になりかけているのかもしれません。

そうなると不思議なもので、あんなにイヤだったカメムシの臭いもだんだん気にならなくなってくるんですね。たまにプーンと匂ってくることがあっても、あんた、なに怒ってんの?なにか気にさわることでもあったのかな、と受け流してしまうようになる。脱ぎ散らかしたセーターをかたづけたり、また着たりするときにそういう臭いで抗議されることが多いのですが、これはわたしのセーターなんだから、といって無視していると、むこうもそれ以上はなにもいいません。

震災からちょうど一年というこの時期に、こんなのんきな話をしてていいんだろうか、という気がしないでもないのですが、こういう混沌とした八方ふさがりのときこそ、異質なもの、それもどちらかというと歓迎されにくいものを受け入れ、共生することで、わたしたちはこんなにも豊かな気分になれる。たかが虫けらでもそうなれるんだ、ということをお伝えしたかったしだいです。

ここ、益子も被災地のはしくれなので、町を挙げて「復興」だの「復活」と銘打ったイベントが行われていましたが、壊滅的な被害を受けた地域のそれはいつになることやら・・・。

町中のお祭り騒ぎに背を向けて、その日は一日中、自治会の変わり者グループに加わって、山の中の林道整備。放置された林道だけでなく、昔の人が使っていた生活道路というのかな。網のように張り巡らされた獣道のようなところから、倒木を取り除いたり、ゴミをかたづけたりしているうちに、全員、道に迷って這々の体で帰ってきたのですが、これに懲りず、来月もまたやることになりました。

普段、ひとりでやっていることを大人数で、男手だけでなくチェーンソーのような機械類まで入るのですから、気持ちがいいほど仕事がはかどる。道に迷ったところで、ひとりではありませんから心細くもない。楽しい経験でしたよ。

今週の野菜とレシピ

青山さんのほうれん草が出てきました。椎茸も今週から復活です。

小松菜はカルシウムの豊富な野菜ですが、ビタミンDといっしょに摂取すると効果が倍増します。ビタミンDは魚類に多く含まれていますから、煮干しや鰹節の出汁を使った味噌汁やスープがおすすめ。

小松菜にスライスした椎茸を加え、塩とオイスターソース少々で調味したスープは絶品。手軽に作れるので、前の晩、水を張った鍋に煮干しなどを入れておくと、朝からおいしいスープが作れます。あぶら菜も同様にするとおいしいですよ。