愛宕神社(里山の未来)

2013年3月第3週

今週の野菜セット

左から

道を歩いていると、突如として馥郁とした香りに包まれ、見上げると梅の花が満開。梅林を通り抜けると、身体にまで香りが染みつきそうで、日暮れどきの梅林には幻想的な気分が漂っています。

この時期はついつい遠出して、なかなか家に帰りつきません。風が出てくると山に入り、木の芽がふくらみはじめる生気に満ちた空気を呼吸。山から出てくると花を楽しというわけで、散歩の時間が長くなるわけです。

日も長くなりました。今週二十日はもうお彼岸。ぼた餅をつくらなくっちゃね。小豆を煮て、餅米を蒸して・・・。面倒じゃない?とよくいわれますが、春を迎えることができるんですから、これぐらいの手間は惜しみません。みなさんにお分けできないのが残念なくらいです。

野菜セットもはやく春めいてくれるといいのですが、逆にこれから端境期という厳しい時期に突入します。冬野菜が姿を消して行く一方で、春野菜の生育が間に合わない。毎年、愛媛の野口さんに助け船を出してもらっていますが、あちらのほうも今年は例年になく寒さが厳しかったようですから、どうなりますか。

個人的にはうれしいけれど、八百屋としては頭の痛い季節になりました。ご迷惑をおかけしますが、旬のものしか扱えない八百屋の、これは宿命といっていいかもしれません。今年もなんとか乗り切りますので、どうかよろしくお願いします。

日曜日、里山の整備をしている有志に加わって、一月の大雪や春先の風で折れた枝や、倒木をかたづける作業を手伝ってきました。

山の中には昔の人が通っていた道や、山仕事に使う道が縦横に走っていて、わたしも犬と歩くのに使わせてもらっていますが、ほとんどが荒廃して歩きにくくなっています。そういうところにもっと人が入れるようにしたら、ゴミの不法投棄も減るだろうし、イノシシも警戒して近づかなくなる。畑の被害も軽減されるだろう、というので定期的に活動しています。実際には、わたしたちが歩きやすくしたところを、イノシシもちゃっかり利用しているみたいなんですけどね。

しんがりが草刈り機でカヤや篠竹を払い、それに続いてチェーンソー隊が倒木をいくつかに分けてかたづけます。それに続くのがわたしのような雑魚グループで、ノコギリで邪魔な枝を払ったり、足場のわるいところを均したりしながら進むわけです。このあたりの山を知り尽くしている人がリーダー格ですが、それでも藪に囲まれると方向感覚がなくなってしまうので、GPSで現在地を確認しながら目的地を目指し、なんとかお昼に間に合いました。

昼食を囲みながらの会話は、自然と里山のことになります。リーダー格のTさんは森林組合を退職し、今は委託で山仕事をしている人。そのTさんの話がショッキングでした。

林野庁というのは農林水産省の一部門かと思っていたらさにあらずで、現業と呼ばれる独立法人だったそうです。とはいっても、赤字は国庫から補填されていたわけですが、それが年々ふくらむ一方で、今年から農水省に組み込まれることになったそうです。

つまり、わたしたちが考えていた通りになったわけですが、そうするとどういうことになるかというと、必要以上に努力などしなくてもお金が入ってくるわけですから、職員たちが動かなくなる。事務所でごろごろしているだけで給料がもらえるのに、だれが山になんか入るものか、というんですね。ただでさえ山の荒廃が問題になっているのに、これからはそれが加速度的になる、というのがTさんの見解です。

するとどういうことになるか、と続けるのはもうひとりのTさんで、彼はイノシシをはじめ、野生動物による農業被害を調べている人。そのTさんがいうには、今県北で増えているサルやシカがどんどん南下していて、すでにこのあたりでもサルが目撃されているとのこと。数十年先にはツキノワグマも徘徊するようになるだろう、というのです。

この国の人口は減少し続け、五十年後には半分ちかくになるだろうといわれていますが、都市部の減少はそれほどでもなく、ひとがいなくなるのは山間部と予想されています。そうなると、そこらじゅうに「野生の王国」ができるわけで、一見それはメルヘンチックだけど、おそろしい問題を内包しています。

はじめから「野生の王国」であったのならなんの問題もないのですが、今度の王国はいったん野生が駆逐された後にできるものです。つまり生態系の調整役がいないわけで、無秩序に増殖する野生ですから、拡大する一方で、そのあげく自滅するしかない。それに住む人がいなくなれば、そこは恰好のゴミ捨て場になるでしょうから、放射性廃棄物でも持ち込まれたら、健全な野生など育ちようがありませんしね。

奇しくもその日、わたしたちが整備をしたのは山頂に小さな神社跡のあるところ。それは愛宕神社と呼ばれ、かつて山犬を奉っていたそうです。山犬は農作物を守る神さまですからね。小さな祠があったそうですが、それすらも今はなく、敷石だけが残されているところを掃き清めてきたしだいです。

今週の野菜とレシピ

春といえばあぶら菜ですが、今週は前回とはちがったタイプ。かき菜と呼ばれています。根元から収穫するのではなく、伸びてきた茎をかき取るからかき菜なんですね。味もこちらのほうがおいしいと思います。

さっと湯がいておひたし、胡麻和え、辛子醤油和え。いずれもあぶら菜のほのかな苦みがおいしいのですが、あぶら菜はほうれん草などとはちょっと湯がきかたがちがいます。水が沸騰したら塩ひとつまみのほかに、植物油を少々たらすのがコツ。茎のほうから入れて、ふたたび煮立ってきたら火を止めて、まな板の上にあぶら菜を広げて冷まします。これだけであぶら菜が数倍おいしくなりますから、ぜひお試しください。

ひさびさのニンジンですが、これがなかなか大きくなってくれません。その分、味が濃縮されているせいか、見かけのわりに甘みも香りもが強いようです。これは生食がおすすめ。葉っぱのほうは刻んでパセリの代用にしたり、かき揚げにしてどうぞ。

ニラも甘みがあります。ひとつはフライパンでニラ玉に、もうひとつはニラ玉汁にしてみてください。