現実を無視する現実

2013年6月第3週

今週の野菜セット

左から

期待された台風3号も内陸部にはほとんど雨をもたらせず、ときどき霧雨が舞う程度。雲の切れ目から太陽が顔をのぞかせると、たちまち乾いてしまうといった有様で、がっかりさせられました。

大きな河川にもほとんど水はなく、蛇口をひねると水が出てくるのが不思議なぐらいです。でも、いずれこの水道水も枯渇しかねません。どんなに科学技術が発達し、生活が便利になっても、わたしたちは縄文人とおなじように雨水を飲用にしでいるわけですね。何ヶ月も雨が降らなければ、農地はおろか、野山も枯れて、生活の基盤までひび割れてしまうのです。

心ある経済学者は、これ以上の経済発展は不経済、と警鐘を鳴らしていますが、さらに想像力を逞しくすれば、これ以上の経済発展は自殺行為といえそうです。そろそろ大学あたりでも、旧態依然の経済学ではなく、現実に即した縮小型の経済学を模索してもらわくては・・・。今の教授陣には退職してもらってね。

福島の過酷事故以前、原発反対などというと、非現実的だといわれたものです。今でも「現実的」な視点に立つと、原発を再稼働させなければならないそうですが、この現実っていったい何なんでしょう。

大気汚染や大地の汚染、海洋の汚染という由々しき現実を超えたところに存在する「現実」って、結局お金のことでしょう?社会的な変動でもあれば、一夜にして紙切れ同然になってしまうものが、なにをおいても守らなければならない現実だというのなら、わたしたちはなんて空疎な世界に生きているんでしょう。

汗水たらして畑を耕し、種を蒔き、収穫する現実にくらべたら、すべての産業が非現実的に思われてくるのですが、その農業の世界にも奇妙な「現実」が存在します。たとえば農薬や除草剤を散布しないのは非現実的だとか・・・。

部落の公民館の前に芝生があり、そこは若いお母さんたちが子供を遊ばせる広場にもなっています。そこに除草剤を撒くのを、わたしが役員になったときに反対したら、雨あられのごとく非現実的という言葉が降ってきて、それ以来、口をはさむのは控えているしだい。

青山さんもおなじような悩みを抱えていて、田圃や畑が草だらけになっていると、なぜ除草剤を撒かないんだ、と近所の人にいわれるそうです。おれが蒔いてやろうか、という親切な友達もいるんだとか。いやいや、二・三日中に撒くから大丈夫、といってから大急ぎで草むしり・・・。農薬や除草剤を使わないと「変わり者」の烙印を押されてしまうんですね。

少数派はどこの世界でも肩身が狭いみたいです。放っておいてくれればいいのに、地主のお婆ちゃんがよくわたしの畑を覗きに来て、あれ、うちの豆はアブラムシだらけなのに、ここのはきれい。いったい何を撒いているんだい?それはお婆ちゃんが化学肥料なんか使ってるからでしょう、といいたいのをぐっとこらえて、さあ、なんでだろ、と笑いながら冷や汗をかいている。下手をすると、わたしがいい農薬を知っているのに教えないケチ、と思われかねないのです。

ここでは薬品や農機具にお金をかけるのが現実的で、お金もかけずにおいしいものを作るのはいけないことみたいです。そんな犯罪的な野菜をみなさんは口にしているわけ。困ったもんでしょう。

そんな風土ですから、有機農家がなにかを散布していると、近所の人たちは安心するみたいです。なんだかんだいったって、やっぱり薬をかけてるじゃないか、って。農薬なしに虫食いのない野菜ができるなんて、非現実的なことがあってはいけないんですね。

茄子やトマトといった果菜はとくに、葉面散布をすると実なりがよくなります。好子さんはタケノコを原料に自家製の発酵液を使っています。以前はわたしもそれを分けてもらっていましたが、あるとき養命酒を千倍に希釈してみたら、おなじような効果がありました。本醸造の醤油を薄めて散布してもOK。要するに酵母菌の力を借りるわけですね。

道路わきの畑でそれをやっていると、通り過ぎる車のドライバーが慌てて窓を閉めるそうで、農家としてはそれはそれで自尊心が傷つくそうです。好子さんなど、車が来るとわざわざそれを頭からかぶったりして、無害を証明して見せるのですが、はたして理解されているかどうかは疑問です。

農薬や除草剤をふつうに使っているふりをしながら、いざ、散布している現場を人に見られると、これは農薬などではありませんと主張したくなる。気持ちはよくわかりますけどね。こういうねじれた世界にいると、人の気持ちもねじれてくるのかもしれません。

今週の野菜とレシピ

今週はグリーンピースが入りました。さっそく豆ご飯にしてみましょう。水加減はふつうにご飯を炊くときとおなじ。豆といっしょに塩も加えて炊いてください。

初夏のブロッコリーは色が淡いのか特徴ですが、わたしの個人的な感想をいわせてもらえば、味や香りも晩秋のものにくらべて淡いような気がします。こういう自己主張のすくないものは、さっと塩茹でしてから、具だくさんの中華風あんかけやグラタンでお召しあがりください。

今いちばん味が乗っているのはインゲンでしょうか。茹でても揚げても甘みが濃厚です。

天板にズッキーニを1センチ幅の輪切りにして並べ、アンチョビを刻んで散らし、アンチョビの浸かっていたオリーブ油もまわしかけます。そこに胡椒をふり、パン粉を散らしてオーブンできつね色になるまで焼くと美味。冷めてもイケますので、翌朝トーストといっしょにどうぞ。