マムシの引っ越し

2014年6月第3週

今週の野菜セット

左から

梅雨の中休み。このときとばかり、あちらでもこちらでも大麦の刈り入れがおこなわれています。おなじ栃木県でも南のほうでは、長雨の影響で穂が発芽してしまったそうです。別名・二条麦。ビールの原料になるのでビール麦とも呼ばれますが、例年より早い梅雨入りが大きな被害を生み出しました。

小山市の麦が全滅と聞いて、このあたりの農家も慌てたんでしょうね。麦が水気を含んでいると、乾燥に時間がかかるため、電気代の節約のためにすこしおいてから収穫するのがふつうですが、今年はそんなことをいってられないようです。こちらもまだ収穫の終わらない畑を見ると、大丈夫なんだろうかと他人事ながら気になります。そんなことより、貴重な晴れ間を利用して洗濯、布団干し、雨の間に背丈を伸ばした草刈りなど、やることがいっぱいあるのにね。

毎年、益子GEFの青梅は獣医さんの庭からいただいています。庭といっても、かつてそこで牛を放していたことがあるぐらいだから、かなりの広さがあります。晴れ間を利用して、アラレちゃんとふたりで梅を収穫していたら、駐車場に見慣れた車が入っていました。

隣人の車で、かれのところには犬が三匹いるので、時節柄フィラリアの予防かなと思っていたら、一匹がマムシに噛まれたとのこと。解毒剤と抗ヒスタミン剤の注射で事なきを得たそうですが、これで二度目というのでマムシと遭遇した場所を聞いたら、ほとんどわが家の敷地内。しかも体長五十センチほどといいますから、マムシにしては大型です。滅多と見かけるものではありませんから、ああ、あの子だと咄嗟に思いました。

体調十センチぐらいのころから、隣家との境にあるミョウガ畑に住みついていた個体です。それが数年前から姿を消してしまったので、気になっていたのですが、林のほうに移動していたんですね。ダン(犬の名前)には申しわけないけど、うれしくなってしまいました。

先月、前脚に噛みついたのがその大きいほう。今回、鼻面に噛みついたのは二十センチ足らずの幼生だったといいますから、もしかしたら子供を産むために林のほうに移っていたのかもしれません。ミョウガ畑は居心地のいいところではありますが、しょっちゅう変なオバサンが侵入してきて、無神経に尻尾を踏んだりするので、こんなところじゃ子供は産めないと判断したのかも。変なオバサンというのはわたしのことで、あのマムシには残念ながらデリカシーのない、がさつな女と思われていたみたいです。

初対面がわるかった。ミョウガがまだ大きくなる前、間に生えてきた草をむしっていたら、草を引き抜いたとたん、なにかが跳んだのです。それが十センチにも満たないヘビで、鎌首を持ち上げてこちらを睨みつけている。立ち上がって背中の模様を見たらマムシだったというわけ。それでも十年以上そこに住み続けてくれたんですね。毎年、春先にはウズラの卵を買ってきて、プレゼントしてました。来年からは卵の置き場所も変えなくっちゃね。

お宅のワンちゃんも気をつけたほうがいいよ、といわれましたが、隣家でも毎回被害に遭うのは一匹だけ。ダンはちょっと向こう見ずなところのあるオス犬で、散歩の途中でもしょっちゅう川に飛びこんだりする変わり種。泳ぐというより、水中にジャンプするのが好きなのです。だからヘビにもちょっかいを出しているんじゃないでしょうか。マムシだってめったやたら、通りかかった者に噛みつくわけではありませんからね。

隣人のいいところは、だからといってマムシを駆除しようなんてバカなことをいい出さないこと。ただ、彼はマムシでも平気で捕らえることができるので、強制的に引っ越しさせることは考えられます。なので、あれは「うちの子」なので、どうかそのままにしておいてほしいと、夕飯持参でお願いしておきました。

マムシがかわいいわけではありません。でも、ミョウガを収穫するとき、そこにそういうものが潜んでいるとか、いちじくの実のまわりにスズメバチがいっぱいいるとか、そういうスリリングな状況を失いたくないんですね。丸裸の人間というのは脆弱なものですが、わたしたちはふだん、いろんなもので武装しているからそういうことを忘れています。人間だからなにをしてもいい、みたいなところがあるでしょう。そういう傲慢さからひととき解放されると、「危険」と思われている生きものと和解できるというか、共存が可能になる。

それはものすごく幸福な瞬間ですが、どちらか一方が節度を欠けば崩れる関係でもあります。そういう緊張感が、日常の中で摩滅しているものを呼び覚ますので、一種、宗教的な経験ともいえるかもしれません。太古の人が野生の生きものを神に見立てたのも、自然な成り行きだったのかもしれませんね。

今週の野菜とレシピ

今週は好子さんの茄子が入る予定でしたが、先週、強い雨が続いたため、花が落とされてしまったようです。そんなわけで、もう一週お待ちください。

きゅうりは今週から青山さんが出してくれます。野口さんの息子さんも頑張っているようですが、やはり鮮度がちがうせいか、こちらのきゅうりのほうが甘みも香りも勝っています。生のまま、丸かじりでどうぞ。

ハウストマトはおそらく今回が最終便。来月になれば好子さんのプチトマトが出てくると思います。

ズッキーニというとオリーブ油が頭に浮かびますが、先日、小ぶりなのを味噌汁に入れてみたら、独特の食感がよかったのでご報告まで。来週、にんにくが出てきたら、いっしょにオリーブ油で炒めてくださいね。