読書週間

2014年10月第5週

今週の野菜セット

左から

あんなに大量に群れていた赤とんぼが姿を消して、畑の上空はたまにカラスがやって来る以外、閑散としています。でも、地面に目をやると、お腹が大きくふくらんできたカマキリのためでしょうか。動きの鈍くなったバッタやコオロギが生き残っていて、途方に暮れたように右往左往しています。

夏野菜の残骸が整理され、花々も下火になってかたづけられると、こんなに広かったのかと思うほど、畑が大きく感じられます。ちょうど引っ越しのとき、荷物がきれいになくなったわが家を見て、意外な広さに驚くのと似ているかもしれません。足し算の季節は終わり、引き算の季節に入ったんですね。

日も短くなりました。日が暮れてしまうと、戸外にいてもしかたがないので夕食の時間が早くなります。夏よりも一時間以上食事の時間が早くなるので、その分夜が長くなる。灯火親しむ候となるのですが、寒いといってもまだストーブを焚くほどではない、というわけでお風呂にゆっくりつかった後は布団に直行。犬・猫といっしょにごろごろしながら、だらしのない読書タイムです。

先週の話題で毛羽立っていた神経を鎮めるかのごとく、大地と海の息吹がひたひたと押し寄せてきたのが、稲葉真弓著「半島へ」講談社刊です。稲葉真弓という作家の存在を知ったのは、彼女が膵臓癌で亡くなってからでしたが、一連の作品を読んでいると、この人はきっと闘病などせず、ひっそりと進行していた病もまた己の一部分。手探りで折り合いをつけながら、引き潮に身をゆだねるように、すんなりあちら側に行ってしまったんだろうな、という感じがします。悲壮感がないんですね。

「半島」というと隣国のことを思い浮かべそうですが、これは東京から三重県の志摩半島に移住してきた、というか移住しようとしている人の話。わたしたちと等身大の独身女性が、季節の移り変わりとともに草と格闘し、木の実を拾い、どきどきしながらキノコを食べたり、入り江からごっそり牡蠣を採ってきて煮たり、焼いたり、佃煮にもしたり・・・。思わず生唾を飲みそうになる話のすぐ傍に人の死があり、自分にも刻々と押し寄せてくる老いがある。さりげない日常を描きながら、古い地層から湧き出る水のような、ひやりとしたものが流れているんです。にもかかわらず、読み終えたときには身体が芯からあたたまっているような、秋の夜長にぴったりの一冊でした。

今週は読書週間なんだそうです。若者の活字離れが憂慮されていますが、中高年だって偉そうなことはいえないような気がします。さまざまな情報にアクセスしやすい社会になったといっても、上っ面をかすめるだけですぐに忘れられる情報ではなく、心の中に種を蒔くような、長持ちのする情報というのは活字の森に分け入らないかぎり、手に入らないんじゃないかと思うんですね。春咲きの花々も、今が種の蒔きどきです。

スマートメーターの話の続きをちょっとさせてくださいね。

横浜市在住のHさんのお宅では、半月ほど前に電気メーターが新しいものに変わったそうです。そういうものには気をつけていたはずの彼女でさえ、そのときはただメーターが古くなったので新しくなると思っていたそうで、後になってそれがスマートメーターということに気づいてびっくり。さっそく東電に電話を入れてたところ、電磁波といっても携帯電話程度なので、健康には差し障りはないという説明が繰り返されるだけ。しかし、あくまでもNOといえば、現段階では従来型のものに変えてもらえるみたいです。

が、従来型のメーターは寿命が十年ぐらいだそうで、製造もいずれ中止されるだろうから、それ以降は否応なしにスマートメーターになるんだそうです。ふつうになんのこだわりもなく暮らしている人なら、スマートメーターのなんたるかも知らないうちに自分の家に取りつけられてしまうわけ。しかも十年後にはすべてがそれになってしまうのですから、たとえごまめの歯ぎしりみたいでも、できるだけ多くの人から署名を集めて行政府に送りつけたいものです。今なら、もしかしたら間に合うかもしれない。

もし間に合わなくて、子供や孫の世代から無為無策の誹りを受けても、やるだけのことをやっていればおだやかな気持ちで死んでゆける・・・。稲葉真弓という作家に出会って以来、人生でいちばんたいせつなのは死に際かもしれない、と思っているものですから、死に際をきれいにするためならなんでもやっておきたいんですね。できるだけのことをできるうちに、これが新しいモットーです。

今週の野菜とレシピ

好子さんの丸々ふとったかぶニンニクひとかけと長葱のみじん切りをじっくりバター炒めして、そこに食べやすい大きさに切ったかぶを加え、半透明になるまでよく炒めてから、水を加えてスープにします。野菜をこれだけじっくり炒めてあるので出汁は不要です。煮立ってきたらアクを掬って、塩、胡椒、オイスターソースで調味。お好みで器に盛ってから、生クリームを少量たらしてください。

どじょうインゲンピーマンは今回が最終便。来週は青首大根が大きくなって登場する予定です。