山の日暮れ

2014年11月第2週

今週の野菜セット

左から

ようやく霜月らしい冷気が下りてきたと思ったら、今週もまた気温が高くなるんだそうです。霜なき霜月。紅葉をはじめた木々も、中途半端のまま途方に暮れているようです。

こんな陽気ですから、この期に及んでまだ草が生育しようとしています。背丈の伸びてきたところを草刈り機で刈っていると、両手がふさがっているのをいいことに、蚊やブヨがまつわりつきます。困ったものですが、雑草がこれだけ元気ということは野菜もまた溌剌としているわけで、痛し痒しといったところでしょうか。

そんなわけで今週は例年より半月も早く白菜が入ることになりました。が、はたして鍋を囲むような気分になれますかどうか。寒くない冬というのは、暑くない夏とおなじで一見、居心地がよさそうですが、目には見えない負担や不都合が生じそう・・・。やっぱり季節は順当に巡ってほしいものですね。

ただ日照時間だけは着実に短くなってゆきます。秋の日暮れのつらいところは残照という、いってみればオマケみたいな部分のないことで、まるで無愛想なお役所仕事みたいに「はい、終了時間です」といった途端、シャッターが下りる。あたりが真っ暗になる。そして残された人がおろおろする。

照明に囲まれた都会にいるとわからないかもしれませんが、山の中でそれをやられるとほんとうに困るんですよ。林の中に入ると闇はいっそう深くなりますしね。もちろん、それを見越して懐中電灯は持っていますが、頼りのない電灯が照らし出すのは足元の一部分だけ。しかもうちの犬は真っ黒なので、どこにいるかもわからない。心細いかぎりです。

しかも山の木々というのは、日のあるうちは友好的なのに、日が落ちた途端、急によそよそしくなるんです。まるで呼吸のシステムが変わると、人格(木格?)まで変わってしまうように機嫌がわるくなる。光合成で酸素を生産しているうちは、人も動物も喜んで受け入れてくれるのですが、それが夜になって正反対になると掌を返したようになるのです。

足元のおぼつかなさより、この山の木々から拒否されているという、目には見えない小さなトゲが無数に降ってくるような、疎外感がつらいわけです。わたしなんかより神経の研ぎ澄まされた人にいわせると、夜になると植物たちがいっせいにしゃべり出すそうで、そういうところに人などが入って行くとふっとそれが止む。それが邪魔者扱いされているように感じられるんだとか。山の空気が圧縮されたように重くなる、という人もいます。でも、庭先にある木々は日が落ちたからといって、どうなるわけでもありません。街路樹なんかもそうですが、生理的な変化があったところでヒトの生活圏では目立たないのか、木々たちの私語も騒音にかき消されてしまうのか。それともただ山の中ほどエネルギッシュになれないだけなのかもしれませんが、まるで家畜化された動物のように従順な樹木より、いやなことはいや、とはっきり主張する木々は人力の限界というものを示唆するみたいで貴重です。

そういう木々の合間を、こんな時間にすみません、と腰をかがめながら通り抜けてくると、あたかも異界から帰還したみたいに家の灯りがじわーっと身に染みる。これからしばらくそんな冒険の日々が続きそうです。

今週の野菜とレシピ

白菜が入りますが、鍋ものを囲むような気候でなかったら、煮浸しか中華風のスープにしてください。煮浸しはしっかりと濃厚な出汁さえ用意すれば、後はざくざく切った白菜を塩味でことこと煮るだけ。白菜の甘みがいちばんよくわかる調理法です。残った煮汁でうどんを煮てもおいしいですよ。

中華風の煮ものの場合も白菜はざくざくといいかげんに切っておきます。他に用意するのは干し椎茸と春雨、白菜を半分使うとして豚か鶏肉300グラム、先週の残りの生姜ひとかけに貝柱の缶詰1個。干し椎茸は水でもどしてから細く切って醤油をまぶし、春雨(50グラム前後)もぬるま湯でもどして包丁を入れておきます。

中華鍋か大きめのフライパンに油を敷き、みじん切りにした生姜を炒め、香りが立ってきたら肉を加えて炒めます。肉に火が通ってきたら塩、胡椒、オイスターソースで濃いめに味をつけ、焦げつきそうになってきたら白菜を加えます。白菜は炒めるというより、油と調味料をからめるぐらいのつもりで・・・。水カップ2杯を入れて煮立てるところまでガスは強火のまま。細かいことは気にせず豪快にやっつけてください。

煮立ってきたらアクを取りながら火を弱め、醤油をからめておいた干し椎茸、貝柱の缶詰を汁ごと入れます。白菜に十分火が通ったら春雨を入れ、味見をして足りない塩分を補ってから水溶きカタクリ粉でとろみをつけ、胡麻油少々をまわしかけたら完成です。

赤かぶも白かぶと同様にスープやおつゆの実にできますか、というご質問がありましたが、答えはNO。これは生食専用というか、加熱すると持ち味が消えてしまうのでサラダか一夜漬けでお召しあがりください。

ふつうならこの時期には北海道産のじゃが芋が入るのですが、今年は青山さんが実験的に秋採りの新じゃがを作ってみたそうです。お味はどうでしょう。わたしも栃木県産の秋じゃが芋ははじめてなので、ちょっとどきどきしています。

来週は待望のにんじんと牛蒡が入ります。約束通り季節になれば出てくる野菜たちが、停滞気味の気候を後押ししているみたいですね。