リスの繁殖期

2015年2月第3週

今週の野菜セット

左から

あちらの庭先、こちらの垣根の下で、福寿草がひとかたまりずつ咲いているのが見られるようになりました。福寿草の花はただの黄色ではなく、メタリックな輝きのある黄色なので、さして大きな花でもないのに遠くからでも目立ちます。朝夕の車の往復ではこの時期、あちこちの福寿草から挨拶をされるので、わたしもふだんより身だしなみを整えて表敬するようにしています。春の女神の代理みたいな花ですものね。

ロゼッタ状に地面に張りついたタンポポにも、目をこらすとちいさな蕾がついています。この豆粒みたいな蕾がにょきにょきと鎌首を持ちあげて膨らむ姿を想像すると、その神秘的な生命力に圧倒されそう・・・。それも春の女神の魔法の杖のひと振りで開花するんでしょうか。わたしたちの頭上でも、そんな杖を振り回してほしいものです。

女神の接近に胸を躍らせているのは植物ばかりではありません。地下ではモグラが、藪の中ではイノシシが、樹上ではリスたちが春というすばらしい季節に出産するために、発情期という落ち着かない季節を迎えています。

モグラたちの動向は見ることはできませんが、恋に身を灼くイノシシは日没前からうろつくし、オスは気も立っているようです。だから山に入るときには熊除け鈴が必需品。犬がいっしょとはいえ、真正面から出会いたくはないですからね。

その犬を夢中にしているのがリスたちの追いかけっこ。恋のかけひきです。どういうわけか家の中で寝ていても、隣接した林の中でリスたちが動きはじめると気配がわかるらしく、明け方、慌ただしく出たり入ったりしはじめます。昼間もほとんどリスの観察をしているようで、林の中を上を見上げながら走り回っています。わたしもリスたちの姿を追いながら歩いてみたら、木の枝やら幹にぶつかって、おでこにちいさな瘤まで作ってしまいました。真上を見たままほとんど全力疾走をしている犬はすごい。

ちなみにリスは冬眠するっていわれていますけど、あれはウソです。もっと寒い地方ではほんとうに体温を下げて寝てしまうのかもしれませんが、ここらあたりでは逆に冬のほうが活動的に見えるぐらい。木々が葉っぱを落としているので、青々している時期よりも目立つせいかもしれませんが・・・。何組ものリスたちが幹を下りたり上ったり、枝から枝へ飛び移りながらものすごいスピードで動きまわっていて、見ているほうが疲れるぐらいです。

ここ数年、イノシシも増えましたけど、リスの数もそれに劣らず増えているようです。前々から裏山にリスがいるのはわかってましたが、姿を見かけるのは年に数回あるかないか。そんな程度だったのがここ数年、木の枝が不自然な揺れかたをしていると、かならずそこにリスがいるという具合です。そんなことを近くに住む野生動物に詳しい人に話したら、そりゃそうだろうねえ。こういう山間部じゃ、人間が減るとその分動物が増えることになるから、リスだけでなく、これからはサルも入って来るよ、なんていうのです。

「サルがどっから来るんですか?」

「そりゃ日光からにきまってるでしょう。八溝山系づたいにサルだけでなく、シカもやって来る。十年後にはここらあたりでもクマが出没するようになるという予測もあるくらいだから、農業はむずかしくなるだろうなあ」

彼の話では、人口がどれだけ減少しても、都市部の人口はそれほど変わらない。過疎化するのは地方だけで、とくにこういう山間部が動物たちの楽園になるのだとか。実際にそういう状況になっていて、たとえば益子だけでも年間二百頭ものイノシシが処分されていますが、それでも焼け石に水だそうで、逆に猟師は減る一方。免許の取得が面倒で、しかも規制がうるさいので猟銃を持とうとする人がいなくなっているんだそうです。そんなところへシカまで入ってくる。

十年後のクマよりも、そっちのほうが深刻だと思いました。オオカミを復活させるといったプロジェクトはないの、といったら、あんたはすぐに極論に走りたがる、といなされましたけど・・・。

これまで増える一方だった人間が、開発、開発で野生動物たちの領域に入りこんできたわけで、今度はそれが逆パターンになるだけの話です。テレビでしか見られなかった野生の王国が、現実のものになるなんてすばらしい。人間中心主義が見直される契機にもなるかもしれませんしね。

でも、なにか変な感じがするのです。なぜかというと、現存している自然というのが、人の手で一度は破壊されたものだからです。手つかずの自然じゃないから自然といえども不自然で、なんとなくアンバランス。そんなわけで野生の王国が出現するからといって、手放しで喜ぶわけにはゆかないのです。

大の大人がやりたい放題やってきたツケが、こういう形でも次世代に先送りされるんだと思うと、ほんと肩身が狭くなりますよね。